「震災支援ネットワーク埼玉(SSN)」(代表・猪股正氏)という団体で、職員の女性が事務局長から性被害を受けたことをインターネットで発表しました。女性が事案の公表に踏み切ったのは、再発防止策などの話し合いを求めたにもかかわらず、猪股氏が長期間にわたってそれに応じなかったからです。
ブログ掲載後、SSNはホームページに書面をアップしました。しかし、女性本人は今も納得していません。書面の内容とこれまでのプロセスのどこに問題があるのか。ウネリウネラが対話形式で考えたいと思います。
これまでの経緯
2017年 12月 | 女性がSSN事務局長から性被害を受ける |
2022年 1月 | SSNが対応しないため、女性がブログで事案を公表 「震災支援ネットワーク埼玉事務局長による性被害について」 |
2月10日 | SSNがホームページで書面を発表 「当団体職員による性被害に関する謝罪及び再発防止の取組について」 |
3月1日 | SSNの書面に対して、女性がブログで見解を表明 「震災支援ネットワーク埼玉HP掲載文書と私の要望について」 |
※詳細については、関連記事「震災支援ネットワーク埼玉の性被害対応問題②関連・2022年3月末までの経緯」をお読みください。また、2022年1月までのことについては、本サイト2月4日付文章「震災支援ネットワーク埼玉」の性被害対応についてをご参照ください。
ウネリとウネラによる対談
ウネリ SSNの書面について被害者の方は納得していないのですが、性被害当事者の一人であるウネラさんは、あれを読んでどう思いましたか?
ウネラ まずは、この書面の扱い方です。SSNのホームページにアップしているけれど、扱いとしては目立たない。代表の猪股氏のTwitterなどでもシェアしていない。こんな扱いでは、ご本人はすごく嫌だろうなと思いました。このことはすでに他の方(小林美穂子さんら)も指摘していることだと思います。
つぎに、内容面で腹立たしいと感じたことを述べます。正直、この書面を読んで「真摯に謝っているじゃないか」と思う人も一定数いるんじゃないかと思うんです。確かに文章上は謝罪し、加害者を役職から解任し、団体も活動休止するとあります。一見潔く見えるのですが、内実は全然違います。被害者の方は一貫して、裁判まで起こし団体へ対応、応答を求めてきました。それに対して〈諸点についての認識が不十分であったことから、当団体としての適切な対応をしないまま時間が経過したことにつきまして〉というSSNの書面の文言は、本当に腹立たしいです。〈時間〉が悪いかのように読める。正しく書けば、SSNは〈被害者が対応をずっと求めてきたのに無視し、放置してきた〉のだと思います。優しめに言っても〈対応を怠っていた〉ということですよね。それを、〈時間が経過した〉なんて言い換えをしている。「団体としての加害事実」を、意識的か無意識的かはわからないけど、軽く見せていると思います。これは、朝日新聞の私への対応と重なる部分を感じてしまいます。
この点はこれまでの経過から明らかではありませんが、もしSSNが「被害者の精神的負担に配慮した結果、事案への対応が疎かになってしまった」という認識でいるならば、それは間違っていると言いたいです。訴訟にまで踏み切っていること、自らブログで被害を告白していることなどから、被害者の方は大変つらいけれど、曖昧に終わらせたくはないという気持ちが強いなのだと察します。このケースに限らず、被害当事者と十分な話し合いを持たないまま「被害者の負担や被害内容の繊細さに配慮」するといったことは、大変深刻な「加害」です。被害者の声を無視し、被害者の心理を一方的に決めつける、とても暴力的な行為だと感じます。
最後に、こういう集団内での事件では、「誰か一人が我慢すれば丸くおさまる」という状況になりがちです。その状況を許すということは、被害を受けている一人の人間を無視するということです。SSNの問題について言えば、被害者の方がうったえているのに、それを無視してきた。その期間、SSNは誰からも責められず、活動を維持できたわけです。自分たちの活動のために一人の人間を黙らせてきた。その期間、ご本人の孤立感はとても深まっただろうと思います。極めて暴力的です。
ウネリ いまのウネラの指摘のなかで、〈「団体としての加害事実」を、意識的か無意識的か知らないけど、軽く見せている〉という部分が特に重要だと思いました。SSNが2月10日に発表した書面の中で、「団体としての加害事実」に触れたのはここしかないんだよね。
最後に、上述の諸点についての認識が不十分であったことから、当団体として適切な対応をしないまま時間が経過したことにつきましても、重ねてお詫び申し上げます。誠に申し訳ございませんでした。
「当団体職員による性被害に関する謝罪及び再発防止の取組について」
この一文だけです。
ウネラ うん。
ウネラ これで許されますか、という話です。被害女性が3月1日にブログで発表した文章の中でも、この部分への批判が冒頭に来ています。いろいろ問題はあるだろうけれど、女性が一番怒っているのはこの部分だったのだなと思いました。女性の文章から引用します。
最初の申し入れ(2021年4月)から私が本ブログで被害を公表するまでの約9か月間、団体として一切回答しなかったこと、私の話を聞こうとしなかったことの問題にはまったく触れておらず、「適切な対応をしないまま時間が経過した」と問題を反らして矮小化しています。ただ時間が経過したのではなく、私が申し入れる度に、団体の皆さんは自ら「回答しない」という選択をしてきたと思います。なぜそのようなことをしたのか、それの何が問題だったのか。それらを具体的に語らないままでは、謝罪にはならないと思います。
「震災支援ネットワーク埼玉HP掲載文書と私の要望について」
要するにSSNが発表した書面は「団体としての加害」に全然向き合っていない、ということですよね。書面がここに向き合っていないのは、「団体としての加害意識」がないからでしょう。猪股氏とSSNは2月の書面で「自分たちは謝りきった」と本気で思っている可能性もあると私は思うんです。たとえば窃盗事件なら「なぜそれを盗もうと思ったのか」という動機の部分から語らなければいけないのと同じように、組織として重い罪を犯したという自覚があれば、「なぜ被害者のうったえに対応しなかったのか」ということを書く必要があると猪股氏とSSNは感じるはずなんです。そうならなかったのは、「団体は加害者じゃない」という認識に立っているからでしょう。「とばっちりを受けている」みたいな認識でいるんじゃないかと。
ウネラ はい。
ウネリ ここからウネラのケースについて話をします。被害から10年以上が経つ中で、パートナーとして見ている限り、警察幹部と高校野球の選手という、直接の加害行為者への怒り、加害者そのものから受けた傷よりも、朝日新聞社から受けた傷のほうが深くなっているような気がします。少なくとも現時点では。
ウネラ ああ。
ウネリ 被害者の目線に立って見れば、いわゆる「団体としての加害」という「罪」は確実に存在するし、場合によっては「直接の加害行為」よりも罪が重くなる可能性もある、ということだと思います。
ウネラ それはあると思います。「対応」だよね。私の場合、会社の対応によって自尊心を奪われてきた、という部分は強くありますね。今でもサイトや「通信UNERIUNERA」などで自分のことを発信し、広くいろんな方に読んでいただいていますが、結局誰に向けてやっているのかと突き詰めれば「朝日新聞社」に向けてやっている、という部分はあります。今のところ社としては完全に「無視」ですし、今後取り合うこともないだろうなとは思っているのですが。
先ほどSSNの件について指摘してきたのは結局すべて、自分がこれまで経験してきたことなんです。被害者側が命をすり減らしてうったえかけているのに、会社、組織の側の回答はペラペラの紙一枚。これは精神的に大きな打撃でした。なんと言うか、「自分はゴミだなあ」という感覚、お荷物感。「私がここ(会社)にいてほしくないないんだろうな」と考えました。私の場合はそれが「会社」だけでなく、「社会」へとどんどん広がってしまいました。
今回SSNが出した書面もペラ一枚程度ですよね。これは、かえって被害者の傷を深めると思います。
「こういうのはどうしても分かんないのかなあ」という気持ちです。
ウネリ くりかえしになりますが、猪股氏とSSNという団体は、自分たちを「加害者」の側に位置づけていないのだろうと思います。そして考えるべきなのは、先ほどウネラが指摘したように、世の中にはこの書面で「SSNは潔く謝っているじゃないか」と感じる人が結構いるかもしれない、ということです。SSN内の人だけじゃなくて、世の中全体が、「団体としての加害」あるいは個人も含めて「(直接の加害者ではないけれど)事件に関わった者の加害」について、認識が甘いのではないか。
ウネラ そうですね。
ウネリ 目の前に瀕死の人がいる時、「自分には関係ない」と言って素通りできますか、という話です。直接的に事件をひき起こした訳ではなくても、人として何らかの形でそれにかかわった以上、そのときの対応次第では罪に問われる。しかも場合によっては、その罪は直接の加害者よりも重くなる可能性がある。極論かもしれませんが、私はそのように思いますし、世の中にそういう考えが浸透してほしいと思っています。だって被害者がそこに傷ついているわけですから。
SSNは代表の猪股氏がとても大きな権限を持っていると聞きます。前回も書きましたが、私は猪股氏がもともとやってきた活動の意義については理解しています。だからこそ、彼がちゃんと認識を改めて、中途半端な火消しに走ることなく、根本の根本から問題の所在を理解して、被害者の人と本当の意味での和解に至ってほしいと思います。
ウネラ それはそうですね。起こったことはなくせない、ご本人の悲しみ苦しみは消えない。だけど私たちが何のためにこういう発信をしているのかと言ったら……ひと一人の尊厳が軽く扱われてはいけないと思っているからですからね。
ウネリ 本当の意味で被害者の尊厳が回復される「解決」を望みます。話が変わりますが、今回の件は類型的に言えば「二次加害」というジャンルに入るんだろうけど、個人的には「二次加害」という言葉はどうなのかなと思いました。直接の加害者が「一次」で、今日話したような問題は副次的な、サブ的なものというイメージを定着させてしまうのではと。
ウネラ ああ。たしかに。私も、もし朝日新聞から受けたものを「二次加害」かと問われたら言われたら、それはちょっとしっくりこないですね。
ウネリ ウネラさんが表現した「団体としての加害」とか、「関わりのある者の加害」とか、そういう言葉に置き換えた方がいいような気がしました。そういった加害は、直接の加害行為そのものと比べて被害者の傷が軽いとは限らないということを、認識できるような言葉がいいかなと思いました。
SSNと被害者の女性は今後話し合いを行う見込みです。引き続き、ウネリウネラはSSNと代表の猪股氏に対して、誠実な対応を求めます。
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