【福島県放射線リスクアドバイザー報酬額”黒塗り”問題】県の審査会は「開示すべき」

報道

 原発事故直後に福島県がはじめた「放射線健康リスク管理アドバイザー」。山下俊一氏、高村昇氏、神谷研二氏の3人が就任しましたが、その後アドバイザーたちが各地で行った講演内容には「放射能安全言説が振りまかれた」という批判があります。アドバイザーはどのように選ばれたのか、報酬額はいくらだったのか。原発政策を検証している「電通研」という市民団体が追及しています。

 この件で大きな動きがありました。

 福島県はこれまでアドバイザーの報酬額の開示を拒んできましたが、県の情報公開制度をチェックする審査機関がこのほど、「県は報酬額を開示すべきである」との見解を示したのです。福島県がどのように対応するかが注目されます。

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福島県情報公開審査会の答申

 情報公開制度を使って福島県に報酬額の開示を求めてきたのは、「電通研」中心メンバーの野池元基氏です。放射線健康リスク管理アドバイザーの「委嘱状」という文書があり、野池氏の請求に対して福島県はこの「委嘱状」自体は開示しましたが、その中にある「報酬額」の項目は黒塗りにしました。2020年10月のことです。

 この決定を不服とした野池氏は、福島県情報公開審査会(会長・金井光生福島大学教授)に審査を求めました。約1年にわたる審議が行われた結果、今年3月28日、以下の結論が出ました。

福島県知事が行った公文書一部開示決定は妥当ではなく、不開示部分のうち「報酬額」を開示すべきである。

福島県情報公開審査会による答申

 審査会の答申によると、福島県は審議の中で、不開示の理由を以下のように主張しました。

・報酬額はアドバイザー個人の収入に関する情報であり、公にすることにより個人の権利利益を害する恐れがある。
・福島県は報酬額を公にすることを予定していない。
・報酬額は、委嘱されるアドバイザーにとっては職務の遂行との関連はなく、私事に関する情報である。

 ポイントは、仮に報酬額が「個人情報」であったとしても、開示対象となる場合があることです。県の条例では、「慣行として公にされ、または公にすることが予定されている情報」については、個人情報であっても開示対象になります。

 審査会はこのポイントを突きました。

・一般に、県の非常勤職員の報酬水準は公表されている。
・県の付属機関の委員を公募で選ぶ際、公募の条件として報酬額も明示される。
・アドバイザー事業の実績報告などで、費用の一部として報酬額が公表されることは通常想定できる。
・報酬額が個人の収入全体に占める割合は大きくないと推測されることから、報酬額を公開した場合に、プライバシーを侵害する度合いが大きいとは言えない。

 このような理由から、アドバイザーの報酬額は「慣行として公にすることが予定されている情報」に該当すると、審査会は判断しました。


県の「非開示」主張を一蹴

 審査会の判断の中で、ウネリウネラが注目したのは「福島県が報酬額の公表を予定していないから、非開示」という県の主張を採用しなかった点です。

単に、形式的に、実施機関において公表することを予定していたか否かということだけが適用の基準となるとすれば、実施機関の意思決定のみにより公開の有無が決せられてしまうことになるから、その意思決定に不合理な点がある場合には、行政情報の公開請求権の保障と個人情報の保護との合理的な調和を図ることができない。

福島県情報公開審査会による答申

 行政が「非公表」と決めても、個人のプライバシーを侵害する恐れが少ない場合は開示対象になる。何でもかんでも「個人情報」と言えば非公開にできるという理屈は通用しない、ということだと思います。この部分を答申の結論と合わせて読むと、審査会が福島県の非開示決定を「不合理」と批判しているようにも読めます。


福島県はどう対応するのか?

 情報公開審査会は県知事が任命した委員によって構成されています。審査会が出すのはあくまで「答申」(=意見)であり、「命令」ではありません。しかし、知事が任命した機関が「開示すべき」としたものを、福島県庁がこれ以上隠し続けることはできないでしょう。

 電通研の野池氏はこのように述べています。

まずは、公正な判断をしてくださった情報公開審査会の委員に感謝する。また、福島県知事は答申に従い、「報酬額」を速やかに開示してほしい。放射線健康リスク管理アドバイザーの制度を誰が発案したのか、なぜ3氏が選ばれたのか、そこがまだ謎のまま。安全・安心プロパガンダの始まりは、たぶんそこ。明らかにしていきたい。

野池元基氏

「電通研」とは?

 「電通研」の正式名称は、「東京電力福島第一原発事故に関わる電通の世論操作を研究する会」です。野池氏が中心となり、情報公開制度を活用して、国などの行政と広告大手の電通がどのように「原発」や「被ばく」などについての世論形成を行おうとしてきたのかを検証しています。

 ウネリウネラとしては勉強になることが多々あります。今後も電通研の活動をウォッチしていきたいと思います。

 ちなみに野池氏は、長野県長野市で発行されている『たぁくらたぁ』という雑誌の編集責任者でもあります。「信州発、産直泥つきマガジン」という触れ込みの通り、地域に根を張って社会問題を考える注目すべき雑誌です。

昨年11月に開いた電通研記者会見の様子。中央が野池氏=福島県庁、牧内昇平撮影

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