寄稿エッセイ・小学校の先生から②

ブログ

ウネリ旧知の小学校教諭、有馬佑介さんの寄稿、2本目です!

有馬さんは東京都国立市にある桐朋学園小学校の1年生のクラスを担任する先生です。前回は、3学期が始まった日の教室の様子を書いてくれました。記事はこちら↓

寄稿エッセイ・小学校の先生から
2021年のブログ「ウネリウネラ」は、ウネリとウネラだけでなく、いろんな方々の文章を紹介していきます! ウネリウネラは日頃、子どもを取り巻く現状と未来について考えを巡らせています。 今回、ウネリ旧知の小学校教諭、有馬佑介さんが寄稿してくれま...

今回も、教室での何気ない日常をやわらかなタッチで書いてくれています。どうぞ!


【有馬佑介さんからいただいた文章】

 東京の郊外の小学校の1年1組での、ある日のひとこまです。

 それは木曜日の午後のことでした。天気予報より早く、お昼過ぎに降り出した雨。それを横目に見ていた子どもがひとこと、「アリック、雪になった。」と言いました。窓の外に目をやると、雨がいくぶんか大粒になっていましたが、雪には見えませんでした。「雪ではないんじゃない。雨だよ。今日は雪にはならないんじゃない。降ってほしいけどね。」そう言いながら、一度止めた手をもう一度動かしながら、黒板に算数の式を書いていきました。予定していたところまで算数がすすむか心配だったのです。

 しばらく授業をすすめていると、また子どもの声。「やっぱり雪だよ。」子どもたちの目が一斉に窓の外に向きます。お願いだから授業に集中してくれよと思いながら、ふたたび窓の外を見ましたが、やっぱり大粒の雨に見えました。「雨でしょう。今日は降らないよ。さあ、授業に集中しよう。」

 「いや、やっぱり雪だって。」授業に戻ろうとした僕を引き留めるような大きな声がしました。声の主はみきさんでした。驚きました。普段は授業中に大きな声なんて出さない子です。みきさんまで、と少し苛立ちながら、仕方なくまた窓の外を見ました。さっきの雨よりどこか白く見えました。

 「まさか」と思ったことが表情に出たのでしょう。子どもたちも一斉にまた窓の外を見ました。するとさっきまで雨だったはずなのに、空から降ってくるそれは、だんだんと雪に変わっていきました。時間にすると短い時間だったことでしょう。でも、雨が雪に変わっていく様子は、まるでスローモーションのように見えました。見とれてしまいました。

 「ほんとうだ、雪だ」僕がつぶやくのと同時に「雪だ!雪が降ってきた!」と教室のあちこちから声がしました。子どもたちの目は窓の外にくぎ付けです。みるみるうちに雪は勢いを増しました。

 初めに席を立ったのは、ふだんはおとなしくて目立たない小柄なのりくんでした。飛び上がるように席を立って、一気に窓際に走っていきました。それはあっという間の出来事でした。窓に両手をついて、大きな目をさらに大きく真ん丸に開けて、彼はこう言いました、「学校でみんなで雪を見るのは初めてだね!」

 その言葉がすごくうれしくて、僕はもう白い雪に白旗をあげました。算数はおしまいです。あきらめました。「残りの時間はみんなで雪を見よう。」教室に大歓声があがりました。子どもたちがテラスに出ていきます。35人の子どもたちはみんな空を見上げて、空から落ちてくる雪を眺めていました。僕はそんな子どもたちの横顔を眺めていました。

 東京の郊外の小学校の1年1組での、ある日のひとこまでした。


【ウネリウネラから一言】

ウネリウネラからの感想は要らないですね。ユリ・シュルヴィッツの絵本『ゆき』を思い出しました。

(大好きな『ゆき』については、クリスマスにこんな文章を書いたこともありました)→https://uneriunera.com/2020/12/25/yuki/

有馬さんは教室でこどもたちに本を読むそうですが、『ゆき』は読んだことあるかな、こんど読んだら盛り上がるだろうな、などと思いを巡らせました。

今回も心温まる文章をありがとうございました。


寄稿へのご意見、ご感想をお待ちしています。

コメント欄への書き込みのほか、uneriunera@gmail.com まで、どうぞお寄せください。

コメント

  1. […] 今回は、物書きユニット「ウネリウネラ」公式サイトで教育について寄稿してくださっている有馬佑介さんから届いたお手紙をご紹介します。 […]

タイトルとURLをコピーしました