【原発事故汚染水の海洋放出】黒塗りだらけの政府「説明1千回」根拠書類

報道

 日本政府は2023年8月、原発事故汚染水(※)の海洋放出を始めました。放出する前には「1千回以上の説明・意見交換を行ってきた」としています。いつ、誰に、どんな説明をしてきたのでしょう? 

 気になった筆者は、説明実績をまとめた文書の情報開示を求めていました。すったもんだの末に文書の一部開示が実現しましたが、その大半は黒塗りで…。

※原発事故汚染水=東京電力福島第一原発の事故で発生した水。トリチウムなどの放射性物質を含む。ALPSという巨大フィルターで濾してから海に流すため、政府は「ALPS処理水」と呼ぶことを求めている。


全面不開示だった「ALPS説明実績」

 汚染水は、たとえALPSで処理したとしても、本来なら海に流すべきではありません。それなのに日本政府は「(汚染水をためる)タンクのスペースがない」という理由で、海洋放出を強行したのです。反対意見も多く、当時の首相や経済産業大臣らは「説明を尽くす」という言葉をくり返していました。

東電福島第一原発に建てられたタンク。2023年7月撮影

 日本政府が海洋放出の方針を決めたのは2021年4月13日。実際に放出を始めたのは2023年の8月24日です。約850日のあいだに、政府は「1500回以上の説明や意見交換をした」としています。どこで誰に説明したのかが気になります。

 それより少し前のことになりますが、筆者は2023年3月に、説明実績をまとめた文書の開示を求めました。23年1月13日時点で、政府は「1千回の説明を実施」とアピールしていました。そこで筆者は「1千回の説明実績の概要が分かる文書」の開示を求めたのです。

2023年1月13日関係閣僚会議資料より

 しかし、経済産業省(資源エネルギー庁、以下エネ庁)は、文書を「全面不開示」にしました。「ALPS説明実績」という文書はあるけれど一切開示しない、全面黒塗りにした文書すら開示しない、という決定を下したのです。

 理由は、「公にすることにより、発言者が不当に圧力をかけられ、発言を控えるようになる等、今後のエネ庁との率直な意見の交換もしくは意思決定の中立性が不当に損なわれる恐れがある」とのことでした。

 筆者は納得がいかず、審査請求を行っていました。

(ここまでは2024年3月12日付ウネリウネラで紹介した内容です。詳細は以下リンクへ)

審査請求で「一部開示」に

 筆者の審査請求を受けて、エネ庁はもう一度、開示を検討しました。そして、「基本的には前の決定を維持したものの一部に関しては文書を開示すべきだった」という裁決を下しました。

 裁決書の要約
 対象文書は一覧表形式であり、説明実施年月日、説明を受けた者または説明会の名称などが記載されている。記載された情報の公表状況を確認したところ、経済産業省のウェブサイトなどで公表したものが含まれていた。それらについては、前述の(発言者が不当に圧力をかけられるなどの)恐れがあるとは認められない。

 こうして筆者はエネ庁から文書の一部開示を受けました。ここからは、その結果分かったこと(いや、むしろ分からなかったこと)を書きます。

ポイント①「説明1千回」は確認できなかった

 手元に届いたのはA4用紙で合計139ページ。でも、その大半が黒塗り。開示されたのは17件の説明の「日時」「説明先または説明会の名前」「担当者」だけでした。

エネ庁から開示された文書の一部
2021年4月13日OECD/NEAマグウッド事務局長
4月14日IAEAグロッシー事務局長
4月18日第22回廃炉・汚染水・処理水対策福島評議会
5月11日宮城県連携会議
7月28日廃炉安全確保県民会議
9月18日第3回宮城県連携会議
10月19日令和3年度第2回福島県原子力発電所の廃炉に関する安全確保県民会議
11月20日廃炉・汚染水・処理水対策福島評議会
2022年3月24日第4回廃炉安全確保県民会議
3月29日宮城県連携会議
5月24日廃炉安全監視協議会
9月2日令和4年度第1回廃炉安全確保県民会議
9月17日宮城県連携会議
10月25日第1回ALPS処理水モニタリングシンポジウム
10月30日漁業者との車座
12月2日第2回廃炉安全確保福島県民会議
12月17日復興庁オンライン 福島の現状とALPS処理水
エネ庁の文書より。担当者名は伏せた。

 筆者がまず確かめたかったのは「本当に1千回も説明したの?」という点です。文書は合計139ページなので、1ページに7~8件の記載があれば、1千回説明したことになります。ただし開示された件数が少なすぎて、それを確かめることはできませんでした。

開示文書の1ページ目。2件の説明実績が公表されていた。この幅で実績が列挙されている場合、1ページにつき20件ほどの記載があると推測される。
2ページ目は1件の開示。この幅でいくと1ページにつき4、5件の記載があると推測される。
3ページ目はすべて黒塗り。いわゆる「のり弁」。こういうページが大部分を占めた。

ポイント➁なぜかIAEAへの説明もカウント

 開示文書の1ページ目には「2021年4月13日 OECD/NEAマグウッド事務局長」「2021年4月14日     IAEAグロッシー事務局長」とありました。あれ?と思いました。OECDは経済協力開発機構。IAEAは国際原子力機関。どちらも国際機関ですよね。

 もともと日本政府は「農林漁業者等の生産者から消費者に至るサプライチェーンや自治体職員等に対して、約1000回の説明を実施」とアピールしていました。国際機関への説明を「1千回」に含めていいものか。疑問に思うのは筆者だけでしょうか。

ポイント③「概要」が気になる

 開示文書には「日時」や「説明相手」のほかに「概要」という欄がありました。何が書いてあるのか。資源エネルギー庁の裁決書には、このように書いてありました。

 裁決書の要約
 概要に記載された情報は、資源エネルギー庁の職員が説明先の特徴、発言および反応などを記録したものであり、説明先の了承を得て作成したものではない。これを公にすると、国と説明先の間の信頼関係が毀損される恐れがあるとともに、他の関係者から誤解を受け、不当に圧力をかけられることを恐れる説明先が、今後、国から同種の説明を受けることをちゅうちょする可能性がある。

 とても気になりますが、この欄はすべて黒塗りでした…。

もっと「説明実績」の説明を

 汚染水の海洋放出はこの先何十年も続く重大な決定です。反対意見もたくさんありました。それを強行するために、政府は「たくさん説明した」ことをアピールポイントにしました。それならば、いつどこで誰にどんな説明をして、どんな反応があったのか。政府は「ALPS説明実績」を説明すべきです。

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