寄稿エッセイ・小学校の先生から

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2021年のブログ「ウネリウネラ」は、ウネリとウネラだけでなく、いろんな方々の文章を紹介していきます!

ウネリウネラは日頃、子どもを取り巻く現状と未来について考えを巡らせています。

今回、ウネリ旧知の小学校教諭、有馬佑介さんが寄稿してくれました。有馬さんは東京都国立市にある桐朋学園小学校の1年生のクラスを担任する先生です。年が明け、3学期が始まった日の教室の様子を書いてくれました。


【有馬佑介さんからいただいた文章】

緊急事態宣言が出されている中で、小学校1年生の3学期始業日を迎えました。

毎朝、子どもが教室に入ってくる前に、黒板に朝のあいさつとメッセージを書きます。しばらくぶりに会う子どもたちに、「あいたかったよ。」、そう素直な気持ちを書きました。

冬休み明けの初めの日になるので、年末に片づけたものを、朝来た子どもから順に元に戻してもらうために、その手順も黒板に「あさ やること」として書いていきます。どんな順番にやってもらおうか、ちょっと考えて、白いチョークで「1.ともだちに「おはよう!」」と書きました。机に載せられた椅子を降ろすことや、棚にしまわれた道具箱を準備することよりも、何よりも初めに、クラスメートとの再会を喜んでもらいたいと思ったからです。

「おはよう!」たかしくんは元気に大きな声を出すだろうな。「おはよぅ」とはにかみながら返すのは、みほちゃん。ひとりひとりの子どもがどんなふうに「おはよう」のあいさつを交わすのか、それを想像すると、誰もいない教室で、ひとり笑顔になりました。

でも、はっとして、黒板消しをとり、今書いたことを消しました。そのかわりに書いたことは「1.マスク・てあらい」。僕たちは、“新しい日常”の中にいることを思い出したのです。「おはよう」のあいさつの前に「マスク・てあらい」。“新しい日常”の居心地の悪さを感じながら、それを呑み込むように「2.ともだちに「おはよう!」」と続けて書いていきました。

始業時間が過ぎ、子どもたちが教室に入ってきます。「アリック、あけましておめでとう!」(僕は子どもたちから「アリック」と呼ばれています。)「あけましておめでとう、ゆうきくん。」

久しぶりに友だちに会う高揚からか、普段より大きな声のやりとりがあちらこちらから聞こえてきます。「そのマスク、初めて見た!かっこいい!」「おばあちゃんが作ってくれたんだよ。」うれしそうに答えるのは、せいやくん。子どもたちは様々な色や柄のマスクを、洋服のように楽しんでいる様子が見えます。

マスクのせいで子どもたちの顔は半分しか見えません。顔の小さいまりさんにいたっては、目のところだけがちょびっと見えるだけです。初めは表情が見えづらく感じました。でも、マスクには隠されない目元に表れる表情を、僕はいつの間にか読み取れるようになりました。みなさんは、どうでしょうか。

毎朝行っている絵本の読み聞かせ。3学期の一冊目に、どんな本を読むかは、それなりに迷いました。何か特別なメッセージが伝わるような、そんな一冊にしようかと考えましたが、悩んだ末、かがくいひろしさんの「おもちのきもち」を選びました。言葉遣いのとても丁寧な鏡餅が、床の間から逃げていく、そんなとっても愉快な一冊です。伝わってほしいメッセージはありません。ただ3学期の1冊目をめいっぱい楽しんでほしいと、そう思いました。不安が日々を取り巻いても、教室の中は安心と楽しさで満たそう、そんなふうに思って選んだ一冊です。

読み聞かせると、教室は笑いにあふれました。マスクで半分が隠れた子どもたちの表情も確かに笑って見えました。それを見て、何より自分自身が安心しました。僕の好きな日常はこれだなあと思いました。

(子どもたちの名前は仮名です。)


【ウネリウネラから一言】

ひとり一人の子どもたちの表情が目に浮かぶようでした。読んでいてやさしい気持ちになれる文章を、ありがとうございました。

 実は有馬さん、小学校以外の場でも多彩に活動しています。

まずは戦争体験の伝承活動です。「くにたち原爆・戦争体験伝承者」として、広島・長崎で被爆された方や、東京大空襲で被害を受けた方の語りを継承し、それを幅広く伝えていく活動をしています。また、NPO法人「子ども大学くにたち」の理事も務めています。このあたりのことも、学校現場の話に織り交ぜて、今後書いてもらいたいと思っています。

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