【原発事故汚染水の海洋放出】市民と経産省・東電の意見交換会(前半)

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 日本政府は東京電力福島第一原発の事故によって発生した汚染水を海に捨てようとしています。この問題について7月6日、福島県会津若松市内で市民と経産省・東電との意見交換会が行われました。この日最も議論になったことの一つが、海洋放出の代替案「陸上での長期保管案」の可能性です。「長期保管は無理」という経産省と、「可能性を追求すべきだ」とする市民たち。どちらの言い分が真っ当か。該当部分をノーカットで紹介しますので、読んでみてご判断いただければと思います。(文・写真/ウネリウネラ 牧内昇平)

 ※この意見交換会については前後半に分けて本サイトで紹介します。


 「海洋放出に関する会津地方住民説明・意見交換会」は7月6日午後6時から会津若松市内のホールで開かれました。主催したのは海洋放出に関心をもつ市民たちによる「実行委員会」です。主催発表によると約120人が参加しました。

 経済産業省資源エネルギー庁・参事官の木野正登氏と、東京電力リスクコミュニケーターの木元崇宏氏が登壇。前半約30分間が経産省と東電からの説明で、その後約1時間半、実行委メンバーや会場の参加者との意見交換がありました。意見交換でのやりとりを紹介します。

「陸上保管は本当にできないのか?」

 政府・東電は汚染水を海に流そうとしていますが、「タンクを増設し、陸上保管を続けるべきだ」という声があります。このことについて実行委の一人が指摘しました。

実行委メンバー:福島の復興を妨げないために、あるいは「風評」や実害を生まないためには、長期の陸上保管だという意見があります。これまでの公聴会などでもこうした意見が多く出ていると思います。場所さえ確保できれば東電も国も同じ思いであると思いますが、いかがでしょうか?
経産省・木野氏:場所ですけれども、いろいろと法律の制約があります。原子力施設から放射性廃棄物を運搬するとか保管するとかいったこともですね。手続きが必要になります。
会場から:福島に押しつけるな!
木野氏:なので、そういった制約が様々あるということですね。また、実際どこかの場所に置いたとしたら、そこにまたいわゆる「風評」が生まれてしまう懸念もあるのではないかと思っております。
※会場から失笑が漏れる。
「福島だったらいいの?」
「福島に押しつけてるだけだ!」
 
木野氏:というのが私の回答になります。
東電・木元氏:今回の処理水の海洋放出については、法律の建付けは事故前から変わっていないわけですね。事業者側から見ると、事故前と同じ法律の基準、やり方、これをしっかり守るということが前提となります。ですので、これ以上タンクに保管するということは廃炉作業を滞らせてしまうために難しいというところがありますけども、もう一つは、これまで運転させていただいた時の濃度や基準と同じにして。海水で希釈するというのもこれまでと同じやり方になります。これをしっかり守るのが大前提と考えてございます。ただ、事故を起こしてしまった東電への信用の問題もございます。当社以外の機関にも分析をお願いして透明性を確保いたします。
司会者(実行委の一人)今は敷地の話をしております。
木元氏:先ほど話をさせていただきました通り、廃炉をこれ以上滞らせないためにも、これ以上のタンクの設置は難しい。また、排出についてはしっかり基準を満足させるということが、大前提と考えてございます。
実行委メンバー敷地が確保できれば陸上保管がベストだという思いは同じですか、という質問でした。
木元氏:今お話しさせていただきました通り、事故前排水させていただいていた基準の水でございますので、それをしっかり守ることが大事だと考えています。
会場から:答えになってない!
実行委メンバー:海洋放出だけの話をしてらっしゃるみたいですけど、汚染水をどうするかの検討が進められて、結果的に「海洋放出が現実的だ」という判断になったようですけども、実際には陸上保管というのが圧倒的に大きな声だった。これこそが復興を妨げない、あるいは「風評」も実害も拡大させない、やり方なんじゃないですか?
※会場から拍手
実行委メンバー:そこの考え方は同じではないのかと聞いているんです。「現実的ではないんだ」とおっしゃいますけど、そもそもの前提、意識は同じですか?
経産省・木野氏:はい。陸上保管ができればそれがいいですけれども、現実的ではないわけですよね。
会場から:なんで? なんで現実的じゃないの?
実行委メンバー:現実的ではないというお答えがありましたけれども、廃炉の妨げになると言いますが、事故から10年たって、廃炉進んでますか? 燃料デブリの取り出しはできてますか? 取り出しがいつになるか分からないっていう中では、今現実的に目の前にある汚染水をきちんと、被害を拡大させないために陸上保管しようという方向になぜできないのでしょうか? 当分、妨げなんかにはならないでしょ? 私はそう思いますが、いかがでしょうか?
※会場から拍手
木野氏:廃炉が進んでいますかと聞かれれば、進んでおります。ただし燃料デブリ、これはご存じの通り、取り出せてませんね。2号機から取り出しを開始しますけれども、まだ数グラムしか取れてません。今後はしっかり拡大して、進めていかなければいけない訳です。それを保管するスペースも確保していかないといけない、ということなんです。なので、タンクであそこの敷地を埋め尽くしてしまうと廃炉が進まなくなってしまうということです。そこはご理解いただければと思います。
会場から:理解できない!
実行委メンバー:具体的には、環境省が取得した広大な土地が隣接してあるはずです。そこの部分もあるし、以前のフランジタンクを取り壊した部分もあるはずです。全体の敷地利用計画はいっこうに示されていません。これから利用できる敷地もあるはずです。やはり「風評」を広げない、実害を広げないために最大限の努力をするというのが、東電や国の使命だと思いますが、いかがでしょうか? 
※会場から拍手
「そうだ!」
木野氏:中間貯蔵施設はですね。あそこにだいたい1600人の地権者の方がいて、泣く泣く土地を手放していただいた方もいますし、または借地ということで30年間お貸しいただいた方もいらっしゃいます。やはり双葉・大熊の住民の方の心情を考えるとですね、なかなかそこにタンクを置かせてもらうというのは非常に難しいですし、やはり大熊・双葉の町の復興も考えなければいけないということでございます。
会場から:努力してみてください!
東電・木元氏:ご指摘いただいた通り、以前フランジタンクに汚染水をためていたところ、接ぎ目から(汚染水が)漏れだしてしまったため今は溶接型に切り替わっております。解体したところもあって、それが今どうなっているかというと、新しいタンクに置き換わっているところもありますし、いわゆる固体廃棄物、ガレキですとかがコンテナにたくさんありまして、その保管場所になっているところもあります。水だけの問題ではなくて固体廃棄物、これはどうしても第一原発の敷地内で保管しなければいけない。そのための土地も確保しなければいけないということが現実問題としてあります。今後デブリが取り出せたときは非常に濃度が高い廃棄物が発生いたします。これをしっかり保管しなければいけないと考えております。
会場から:それはいつですか?
実行委メンバー福島県内は事故後、非常事態の状況にあります。本当は年間1ミリシーベルトなんですけどまだ、20ミリシーベルトで我慢せいという状態なんです。そんな中で、一般の法律を持ち出して、「だからできない」とか、そんなことを言っている場合じゃないということです。
※会場から拍手
実行委メンバー:ここはやるということで、福島県の人たちのことを考えて、その身になって進めていただきたいと思いますよ。
※会場から拍手
木野氏:やはりあの、被災12市町村、避難させてしまった12市町村の復興も進めていかないといけない、ということもあります。なのでですね、我々も、県民のためを思いながら廃炉と復興を進めていきたいと思っております。

 このことについては、他の実行委メンバーも指摘しました。政府と東電は2015年、福島県漁連に対して「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」と文書で約束しています。この約束問題と結びつけて、実行委メンバーの一人はこのように指摘しました。

実行委メンバー:陸上保管について、先ほど法律の建付けがなかなか大変だとか、いろいろなことをおっしゃいましたが、国として法律を作って、陸上保管に本気になったほうが、「関係者の理解を得る」よりもはるかに早いですよ。
会場から拍手
実行委メンバー:そのほうが海洋放出をめぐる「風評被害」の危険、その「風評被害」はお金で解決…、昔そんなことを言った人もいましたが、そういう話ではないわけです。
会場から:そうだ! 命の問題だ!
実行委メンバー:漁民の気持ちとか、海で暮らしを立ててきた人たち、いま福島に戻れなくなっている人たち…。なによりも廃炉というのが、どういう状態を廃炉というのか。国の法律で決められてないんですよ。それなのに、その漠然とした廃炉作業のために空き地が必要だと言う。いつまでにどういう手段でやっていって、技術的可能性はどうなのかということが全然明らかになっていないのに、廃炉作業のために土地が必要だと。何年先の話をしているんですか? それだったらば、今はきちんと陸所保管して海に流さないという方法をとることで十分でしょ?
会場から拍手
実行委メンバー:最低でも、漁連の方々が納得していない状態でやったら、これはとんでもない約束違反ですよ。
木野氏:ありがとうございます。県漁連との約束はしっかり順守をさせていただきます。

 実行委メンバーによる発言のあと、会場にマイクを回し、一般の参加者たちが発言する時間もありました。その際にもこの陸上保管案が話題になりました。参加者の一人が、恐らく原発を新・増設する政府方針も考慮しながら、このように指摘しました。

参加者:地上での保管をとことん追求するほうが理解を得られるんじゃないですか? たとえば木野さんの発言の中に、土地を広げていったら、原発関連施設からある程度先までしか認められていないと言いましたよね? そういう風に理解したんですが、だとすれば、新たに原発施設を作るのじゃなくて、陸上保管の施設を作るほうが理解を得られるんじゃないですか?
経産省・木野氏:なので、どこの土地をどう使うかということですが、そういう土地があるのか、その自治体にご提供いただけるのかという問題もあると思います。
会場から:福島に押しつけるのか!
経産省木野氏:応じてくれる自治体はなかなかないと思います。

【ウネリウネラから一言】

 汚染水の陸上保管案に対する政府の回答について、皆さんはどのように感じたでしょうか? 

 「中間貯蔵施設の土地は住民の方々が泣く泣く手放したものだ」と経産省の木野氏は言います。しかし、施設をつくる時に住民たちと交わした「30年後の県外処分」の約束は実現のメドが立っていません。筆者はこうした政府の立ち居振る舞いを「二枚舌」と表現しましたが、6日夜の意見交換会でも、木野氏はこの「二枚舌」ぶりを改めていませんでした。

 「法律上の制約がある」と木野氏は言いますが、政府は自分たちが進めたいものに関してはさっさと法律をつくり、世の中のルールを変えます。

 たとえば筆者が「原子力心中法」と呼んでいる「GX脱炭素電源法案」があります。「国を挙げて原子力を守り育てる」と打ち出し、60年を超えても原発を運転できるようにする法律です。今年5月31日に成立した法律ですが、ベースとなっているのはGX基本方針という構想でした。政府がこのGX基本方針を打ち立てるために第1回の会議を開いたのは、2022年7月27日でした。1年も経たないうちに原子力政策を大きく揺るがす法律ができあがったことになります。

 汚染水の問題は何年も前から指摘されてきました。なぜ、この期に及んで「法律上の制約」などと言えるのか。筆者には分かりません。

 日本政府は陸上保管案を真剣に検討していない、と考えざるを得ません。


みなさんの意見を募集します

     

     


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