【中身のある/ない雑談】映画『海辺の彼女たち』について

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ウネリ:久しぶりの「雑談」ですね。最近二人で見た映画の話をしましょう。『海辺の彼女たち』という作品ですね。あらすじを簡単に言います。外国人技能実習生としてベトナムから来日した女性3人が、長時間労働と不払い残業が横行する過酷な労働(実習?)環境を逃れて、青森の漁村に向かう。逃げてきたので「非正規滞在」の形になり、何かトラブルが起きたら母国に送還されてしまう身だけれど、青森でもう一度働き、母国の家族に送金しようとする。でも大変なことが待っている・・・という話ですね。つらかったですね。

※作品のストーリーについて踏み込んで話しているので、映画をこれから観る方は、お気をつけください。

ウネラ:そうですね。途中から、というか結構早い時点から、見ているのがつらかったです。

ウネリ:見終わったあとしばらく黙り込んでしまいました。こんなのは久しぶりかなと思いますね。その前に二人で見たのは『MINAMATA』で、その時はすぐにあれこれ感想を述べ合ったんだけど、そういう気持ちにはなれなかったね。

ウネラ:なれなかった。

ウネリ:作品の感想の前に労働者や技能実習生についてデータ的なことを少し話すと、日本に住む外国人の数は288万人です(2020年末現在)。国別で言うと、中国が77万人で最多。次がベトナムで44万人でした。20年6月時点では韓国が2番目に多かったけど、ベトナムがぬきました。ベトナムの方はここ5年ほどで倍以上に増えています。

なぜベトナムの人が増えているかというと、映画に出てくる「技能実習生」です。技能実習生は全国に約40万人います。ここ数年で倍近くに増えていますが、その半数以上が実はベトナムの人です。

よく知られている通り、この技能実習生という制度には問題点がたくさんあります。まず、多くの技能実習生が実質的には単純作業をさせられ、帰国後役に立つ「技能」を学べないという問題。劣悪な労働環境、長時間労働、賃金不払い、ハラスメントが横行している問題。などなどがあります。映画に出てきたように、来日するとすぐにパスポートなどを取り上げられ、奴隷のような状態で働かされるケースもあると聞きます。

このようにとても問題のある制度なんだけれども、先ほども言った通り日本政府は様々な手を使ってこの「技能実習生」を増やそうとしています。なぜかははっきりしていると思います。この制度が、「実習生たち」ではなく、日本の政府・企業にとって都合がいいからです。

ここまでがデータの話。長くなって申し訳ない。では映画の感想を。

ウネラ:一つには、映画のタイトルが「彼女たち」となっているのがポイントです。いたたまれない思いで見ました。でも、この作品を単に「女性」の話として片づけるべきでもないような気がします。映画に登場する人物がことごとく、“存在を祝福されていない”ように見えることに注目すべきです。“自分の命が大事にされている存在”が出てこない。実習生である「彼女たち」だけではなく、「彼女たち」を叱責する漁港の日本人労働者なども、けして幸せそうには見えません。

そんな中、映画の中で唯一、終盤に“命を祝福された存在”に出会えたと思うのですが…そこはぜひ映画を見てほしいです。

全体としては、陳腐な言葉になってしまうけど、「弱い者いじめの社会」に絶望を感じます。その中には自分も入っている。自分もその社会の構成員であることにショックを受けます。何を、どこから、手をつけていけばいいのか。そういうことを突きつけられました。やっぱりまずは「知る」ことですよね。自分から知ろうとせず、見て見ぬふりをすれば、私も「いじめている側」に入ると思った。

ウネリ:そうですね。まずは日本人も含めて“幸せそうには見えない”という点。その通りだと思います。「労働」について言えば、技能実習生に限らず、日本の労働環境には厳しいものがあります。たとえば「彼女たち」の「前の職場」ですが、土日の休みもなく毎日15時間働いて、残業代は不払い。働くものの権利を少しでも求めたら、「半人前のくせに。給料もらえるだけでありがたいと思え!」と言われる。これは、10年ほど前から問題になっているブラック企業で社員が受けている扱いと同じです。そういう意味で言うと、日本の働き手の人びとの多くが共感できる映画だとも思います。

次に、終盤からラストへ向かうストーリー展開。 “命を祝福された存在”に一瞬出会えた 、確かにそうだけれど、「ラストに明るい光」みたいにせず、最後まで現実を突きつけ続けたところが、素晴らしいと感じました。そのかわり見るのはつらいし、商業的にはどうなのかなと思いますが、ここが監督の良心なのではないかと思いました。見ていてフィクションだと思えなかったな。自分は技能実習生のことをすごく取材したわけではないし、ほとんど何も知らないんだけど、それでもやっぱりどうしてもフィクションとは思えない。もしかしたらドキュメンタリー以上に現実を突きつけてくる、秀逸な劇映画になっていると思う。

全体としては、ウネラさんが言う通り、芸がないけど「この国はいったい何をやってるんだ!」という気持ちですね。

ウネラ:「彼女たち」の存在が社会から見過ごされている。命や尊厳といったものが、「労働力」という物質的なものに換算されてしまっている。比喩的な意味でなく、実際として人間が「物」として扱われている。お金と引き換えにされる命。しかも、とても安い値段で。どこかでそれを止められないか、という風に思います。

「物」として扱われているからだと思いますが、全体を通して登場人物に「苛立ち」を感じます。フォン以外の二人もだんだん苛立ってくる。自分たちも過酷な状況だから仕方ないですよね。それ以外のブローカーの男とか、港の労働者とかも。ところがフォンは少し違うように感じました。「苛立ち」というのは「怒り」に似た感情だと思います。フォンについては、そうした感情がもう、出なくなってしまっている。どこかに置いていってしまっている。そのかわりに出ているのが「絶望」、「無気力」、「無力感」。そんな風に私は受け取りました。でも、そのフォンが、「あそこだけは感情が動いた」というシーンがありました。あのシーン、すごくつらかったけどとても印象的です。たぶん今後も折に触れて思い出して考えるだろうなと思います。


皆さんにとにかく見てほしい映画です。

「海辺の彼女たち」公式サイト↓

日本・ベトナム共同製作映画『海辺の彼女たち』英題:Along the Sea
在日ミャンマー人の移民問題と家族の愛を描いた『僕の帰る場所』の藤元明緒監督最新作『海辺の彼女たち』。日本に出稼ぎに来たベトナム人女性たちの覚悟と生き様に心揺さぶられる。サンセバスチャン国際映画祭・新人監督部門出品。

福島市内では、映画館「フォーラム福島」で、10月7日木曜日まで上映しています。

https://www.forum-movie.net/fukushima/movie/3351

写真は「海辺の彼女たち」フライヤーより

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