【LGBT法案】どう考えてもおかしいことが起こっている

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 LGBTなど性的少数者への「理解増進法案」が今国会に提出されようとしています。もともと「理解増進法」ではなく「差別禁止法」「差別解消法」をつくるべきです。しかし、与党も野党も含めた超党派による議員たちの話し合いによって、「性的指向や性自認による差別は許されない」と明記した「理解増進法案」をつくる流れになっていました。

 ところが、自民党がこの法案にめちゃくちゃな修正を加える自民案を作り出しました。「差別は許されない」という本来のメッセージは置き去りにされ、むしろ差別を助長してしまうような内容になっていると思います。自民・公明の両党はきょう18日にも、このめちゃくちゃな修正法案を国会に提出する可能性があります。このようなことは断じて許されません。

 5月16日、LGBTQ+やその支援者たちが国会で緊急集会を行いました。主催団体の「LGBTQ+国会議会運営委員会」によると、5日間で52団体からの賛同が集まったそうです。筆者(ウネリ)は原発事故汚染水海洋放出の取材があり冒頭しか参加できませんでしたが、それでも最初に発言した浅沼智也氏、松岡宗嗣氏の話を聞くことができました。お二人の言葉を聞くだけで、これまでの議論の流れはつかめると思いますし、怒りが湧いてくると思います。


浅沼智也氏の話

 今年2月、首相秘書官(当時)の差別発言を発端に、LGBT理解増進法の成立への積極姿勢が与党から示され、「G7広島サミットまでには成立を」という声もありました。私たちは全国各地のLGBTQ+当事者団体と共に、「理解増進法ではなく差別禁止法を」の声を国会議員に届けるべく、2月14日に院内集会を開催いたしました。めざす法案の内容には意見の隔たりがありましたが、早期成立に向けた意気込みについては積極的に評価してきました。

 あれから3カ月がたちました。報道から伝わってくる情報は、2021年に超党派のLGBT議連で合意された理解増進法案が自民党の「性的マイノリティに関する特命委員会」において大幅に後退している、というものです。

 さる5月12日、同委員会でとりまとめられ、本日(16日)自民党総務会で了承された理解増進法案には次のような問題があります。

 条文の「基本理念」と「目的」という2カ所に「性的指向や性自認による差別は許されないものであるとの認識の下」という表現がありましたが、「目的」からその一文が削除され、「基本理念」では「不当な差別はあってはならない」という文言に修正されました。これは、正当な差別の存在を是認するものです。

 また、すでに国際疾病分類(ICD-11)から削除されている「性同一性障害」の枠組みにトランスジェンダーが対応することを想定し、「性自認」の文言が削除され、「性同一性」に変えられました。この「性同一性」について、法案の定義上は「性自認」と同じものにはなっています。しかし自民党会合での議論では、「性自認」は”自称“、「性同一性」は”性同一性障害を前提に医師によって診断されるもの”という主張を踏まえて修正をされています。国や自治体、学校が理解増進を進める上での前提として、大きな影響があります。ここには昨今苛烈になっているトランスジェンダー差別言説の影響が明確に表れています

 ここまでは4月半ば以降の報道で問題が可視化されていました。本日了承された法案にはさらに後退している個所があります。もともと第7条は「学校の設置者の努力」を定めた条文でした。そこには学校における理解増進施策を推進する努力義務についての記載がありましたが、この条文が第6条「事業者等の努力」の2項めに格下げされました。また、LGBT議連合意案2条「調査研究」という項目は「学術研究」に修正されました。「学術研究」に限定されることで国勢調査などで差別の実態を明らかにすることなど、学術とは目的が異なる調査研究の旺盛な展開が阻害される恐れがあります。

 本日、自民党総務会で了承されたLGBT理解増進法の修正案はそれ自体がLGBTQ+当事者に対して差別的まなざしを向ける内容です。また法案議論の過程で、自民党の国会議員からLGBTQ+に対する差別的な発言が相次ぎました。直近では、宮澤博行衆議院議員がLGBT法整備に関して「行き過ぎた人権の主張。もしくは性的マジョリティー、大多数に対する人権侵害。これだけは阻止していかないといけないと思います」という発言をしました。このような議員の存在が理解増進法の不十分さと差別禁止法の必要性をかえって裏付けています。差別を許さないことに躊躇し、差別言説の影響を受けて、修正された法案などいりません。国際社会に向けた「やってる感」を演出するだけでG7広島サミットをやり過ごそうとするのは到底許されません。私たちは人間です。人権回復のために差別に対峙する法を望みます。そのため今回、緊急院内集会を開催することにしました。私たちの声を聞いてください。

松岡宗嗣氏の話

 私はこの間、「LGBTQ+の人権を守る法律を求めます」という署名を立ち上げて、首相秘書官の差別発言以降、活動してきました。法案をめぐる自民党内の議論を見ていて、愕然としたというのが率直な思いです。 

 ある議員はこう言いました。「もう十分に骨抜きになった」。ある別の議員はこう言いました。「行き過ぎた人権。これだけは阻止していかないといけない」。ある議員はTwitterでこのように投稿しています。「差別という語は削りたかった」。理解を広げるための法律なのに、ほかの議員は「LGBTの教育をしてどうするんだ。子どもが混乱する」などと発言をしています。議論すればするほど、内容は後退していき、デマや差別的な言説が広げられていく。そういう状況です。

 このままでは「理解増進法」ではなくて理解抑制法、さらに言えば差別を増進するような法律になってしまうのではないかと思いました。これが、今週末からG7サミットを議長国として開催しようとしている日本の姿です。

 修正はいずれも、「どうにか差別する余地を残したい」としか思えないものになっています。「正当な差別」などありません。「ジェンダー・アイデンティティー」という概念をゆがめないでください。差別の実態を明らかにするために調査研究が必要です。理解増進法なのに学校で理解を広げるのを妨げようとするのは本末転倒です。

 そもそも必要な法律は差別を禁止する法律です。そして婚姻の平等つまり同性婚の法制化、さらに法的な性別変更に関する非人道的な要件の撤廃、これも必要です。ただでさえ理解増進では足りず、今起きている深刻な被害に対処できていない状況です。それにもかかわらず、さらに合意案から後退するということでは、到底許されません。

 首相秘書官の差別発言からもう3か月以上が経っています。私自身、G7サミットまでの法整備を確かに求めてきました。LGBT法案は議員立法で議論が進められています。全会一致が原則という風にうかがっています。与党だけでは成立させることはできない。そういうものだと思っています。骨抜きの法案をさらに後退させ、G7までに提出という「ポーズ」だけ見せても、意味はありません。当事者からも諸外国からも一切評価されないと思います。少なくとも(超党派LGBT議連の)合意案に戻すべきだと私は考えています。当事者が差別や偏見、暴力から守られる法律をつくってほしいと思います。


 どう考えてもおかしいことが起こっていると思います。すでに他のメディアが取り上げている問題ですが、ウネリウネラでもわずかながら紹介しました。多くの方々と一緒にこの問題を考えていけたらと思います。

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