東日本大震災の政府追悼式で読み上げられる首相の式辞について、先日このブログで思うところを書いた。
「追悼=復興」と決めつけ、一方的に「前を向く」と言い放つのはいかがなものか、という問題提起をしたつもりだ。
だが、書いたそばからまた書きたくなった。過去の首相式辞を読むうちに、もう少し詳しい批判が必要だと思えてきたのだ。重複する部分も若干あるが、引き続きこの話題について書いてみたい。
今回言いたいのは、「毎年の文章があまりにも似通っている」ということに尽きる。前年の式辞をベースにして、細かいところを加筆修正して使い回していることは明白だ。
そのことをわかってもらうために、少し作業をしてみたい。
まずは一昨年、2018年3月11日の式典で読み上げられた首相式辞の全文を(退屈かもしれないが)読んでいただきたい。
なお、わかりやすいように私のほうで、①などの段落番号と、各段落の「テーマ」を書き加えておいた。
【2018年首相式辞の全文】
①「 哀悼」
本日ここに、秋篠宮同妃両殿下の御臨席を仰ぎ、「東日本大震災 七周年追悼式」を挙行するに当たり、政府を代表して、謹んで追悼の言葉を申し上げます。かけがえのない多くの命が失われ、東北地方を中心に未曾有の被害をもたらした東日本大震災の発生から、七年の歳月が流れました。最愛の御家族や御親族、御友人を失われた方々のお気持ちを思うと、今なお哀惜の念に堪えません。ここに改めて、衷心より哀悼の誠を捧げます。また、被災された全ての方々に、心からお見舞いを申し上げます。
②「 復興」
七年の歳月が流れ、被災地では復興が一歩ずつ着実に進展しております。地震・津波被災地域では、生活に密着したインフラの復旧はほぼ終了し、住まいの再建も今春までに9割が完成する見通しであります。原発事故によって大きな被害を受けた福島の被災地域では、避難指示が順次解除され、また、帰還困難区域においても特定復興再生拠点の整備が動き出しました。
しかしながら、今なお7万人を超える方々が避難され、七年間にも及ぶ長期にわたって不自由な生活を送られている方もいらっしゃいます。ふるさとに戻る見通しが立っていない方々も数多くおられます。被災者お一人お一人が置かれた状況に寄り添いながら、今後とも、避難生活の長期化に伴う心の復興や心身のケア、生活再建のための相談に加え、新しいコミュニティ形成の取組など、生活再建のステージに応じた切れ目のない支援に力を注ぐとともに、原子力災害被災地域における帰還に向けた生活環境の整備、産業・生業の再生支援など、復興を加速してまいります。
③「 国土強靱化」
同時に、震災による大きな犠牲の下に得られた貴重な教訓を、胸に刻みながら、英知を結集して、防災対策を不断に見直してまいります。政府一丸となって、災害に強い、強靭な国づくりを進めていくことを、改めて、ここに固くお誓いいたします。
④「 感謝」
震災の発生以来、地元の方々の御努力をはじめ関係する全ての方々の大変な御尽力、全国各地からの御支援に支えられながら、復興が進んでまいりました。本日ここに御列席の、世界各国・各地域の皆様からも、多くの、温かく心強い御支援をいただいています。心より感謝と敬意を表したいと存じます。
⑤「 国際貢献」
災害との戦いは、世界共通の課題です。東日本大震災の教訓と我が国が有する防災の知見や技術を皆様の国・地域の災害被害の軽減に役立てていくこともまた、我々の責務です。今後とも、防災分野における国際貢献を、一層強力に進めてまいります。
⑥ 「前を向く」
我が国は、幾度となく、国難と言えるような災害に見舞われてきましたが、その度に、勇気と希望をもって乗り越えてまいりました。今を生きる私たちも、先人たちに倣い、手を携えて、前を向いて歩んでまいります。
⑦「 祈念」
御霊の永遠に安らかならんことを改めてお祈り申し上げるとともに、御遺族の皆様の御平安を心から祈念し、私の式辞といたします。
以上が、「2018年式辞」の全文である。(※引用元の18年式辞は官邸HP)
震災の犠牲者・遺族に直接語りかけている部分は、①「哀悼」と⑦「祈念」だけではないか。②「復興」から⑤「国際貢献」までは、なにやら国会の施政方針演説を読まされている気分だ。
震災後の人びとの暮らしを〈不自由な生活〉と一言でまとめてしまう冷淡さも、率直に言って頭にくる。
内容面はこのへんにしておき、次にこの「18年式辞」から「19年式辞」をつくる作業につき合ってもらいたい。なぜこんな作業をするかというと、18年版にほんの少し手を加えるだけで、19年版がたやすくでき上ってしまうことがわかるからだ。もちろん確証はないが、式辞の下書きをつくる首相ブレーンは恐らく、このようにして19年式辞をつくったと思うのだ。
【前年の式辞を下敷きに翌年の式辞をつくる】
18年式辞をベースに、19年式辞をつくってみる。
削除した部分には傍線で取り消し線を入れ、加筆部分は(赤字)で示す。先ほどと同じように、段落番号などはこちらで独自に入れている。
①「 哀悼」
本日ここに、秋篠宮同妃両殿下の御臨席を仰ぎ、「東日本大震災 七(八)周年追悼式」を挙行するに当たり、政府を代表して、謹んで追悼の言葉を申し上げます。かけがえのない多くの命が失われ、東北地方を中心に未曾有の被害をもたらした東日本大震災の発生から、七(8)年の歳月が流れました。最愛の御家族や御親族、御友人を失われた方々のお気持ちを思うと、今なお哀惜の念に堪えません。ここに改めて、衷心より哀悼の誠(意)を捧げ(表し)ます。また、被災された全ての方々に、心からお見舞いを申し上げます。
②「 復興」
(震災から)七(8)年の歳月が流れ(経ち)、被災地では(の)復興が(は、)一歩ずつ着実に進展(前進)しております。地震・津波被災地域で(において)は、(復興の総仕上げに向け、)生活に密着したインフラの復旧はほぼ(おおむね)終了し、住まいの再建も今春までに(今年度末で)9割が(おおむね)完成(了)する見通し(見込み)であります。原発事故によって大きな被害を受けた福島の被災地域では、(帰還困難区域を除くほとんどの地域で)避難指示が順次解除され、また(本格的な復興・再生に向けて生活環境の整備が進むとともに)、帰還困難区域においても特定復興再生拠点の整備が(始まり、避難指示の解除に向けた取組が)動き出しました(ています)。
しかしながら(一方で)、今なお7万人を超える方々が避難され(いまだ1万4千人の皆さんが仮設住宅での避難生活を強いられるなど)、七年間にも及ぶ長期にわたって不自由な生活を送られている方もいらっしゃいます。ふるさとに戻る見通しが立っていない方々も数多くおられます。(政府として、今後も、)被災者お一人お一人が置かれた状況に寄り添いながら、今後とも、避難生活の長期化に伴う心の復興や心身のケア(健康の維持や)、(住宅・)生活再建のための相談に加え(に関する支援)、新しいコミュニティ形成の取組(さらに子供たちが安心して学ぶことができる教育環境の確保)など、生活再建のステージに応じた切れ目のない支援に力を注ぐとともに(を行い、復興を加速してまいります。)、原子力災害被災地域における(おいては、)帰還に向けた生活環境の整備、(や)産業・生業の再生支援など、復興を加速し(着実に進め)てまいります。
③「 国土強靱化」
同時に、震災による大きな犠牲の下に得られた貴重な教訓を、胸に刻みながら、英知を結集して、(決して風化させてはなりません。)(国民の命を守る)防災(・減災)対策を不断に見直してまいります。政府一丸となって(今後、ハードからソフトに至るまであらゆる分野において、3年間集中で)、災害に強い、強靭な国づくり(創り、国土強靱化)を進めていくことを、改めて、ここに固くお誓いいたします。
④「 感謝」
震災の発生以来、地元の方々の御努力をはじめ(や)関係する全ての方々の大変な御尽力、全国各地からの御支援(御努力)に支えられながら、復興が進んでまいりました。本日ここに御列席の、世界各国・各地域の皆様からも、多くの、温かく心強い御支援をいただいて(頂いて)います。心より感謝と敬意を表したいと存じます。
⑤「 国際貢献」
災害との戦いは、世界共通の課題です。東日本大震災の教訓と我が国が有する防災の知見や技術を皆様の国(世界各国)・(各)地域の災害被害の軽減(防災対策)に役立てていくこともまた(は)、我々の責務です。(あり、)今後とも、防災分野における国際貢献を、一層強力に進めてまいります。
⑥「 前を向く」
我が国は、幾度となく、国難と言えるような災害に見舞われてきましたが、その度に、勇気と希望をもって乗り越えてまいりました。今を生きる私たちも、先人たちに倣い、手を携えて、前を向いて歩んでまいります。
⑦「 祈念」
御霊の永遠に安らかならんことを改めてお祈り申し上げるとともに、御遺族の皆様の御平安を心から祈念し、私の式辞といたします。
(※引用元の19年式辞は官邸HP)
【コピペ? の追悼式辞】
皆さんはどんな風に感じただろうか。
正直言って、私はかなり驚いた。首相のあいさつや国会答弁に判で押したようなものが多いことは理解していたが、ここまで似ているとは思わなかった。
①「哀悼」の部分はほとんど年の変更のみ、⑥「前を向く」、⑦「祈念」の部分に至っては、一言一句まるきり同じだ。
驚いたのは、こうして18年の式辞をベースに19年の式辞をいとも簡単に作れるということだ。
仮に文章全体としてはだいたい同じ内容(要素)が盛り込まれていたとしても、普通は各要素がもっとバラバラにちりばめられ、こんな逐語的な微修正作業では間に合わない。十数行にわたって、赤字の文章や傍線取り消し部分が続くはずだ。
そういうことが一切ないのは、段落構成が全く同じだからだ。
①「哀悼」から⑦「祈念」まで、全く同じ順番で構成されている。
さらに言えば、各段落内の文章の流れも全く同じだ。
②「復興」は比較的文字数が多く、赤字も多い印象を受けるが、実は文章の流れは19年と18年で全く変わらない。
「進む復興」→「まだ不自由な人も」→「支援を着実に」という文章の基本構成は、そのままである。
元の文章(18年式辞)にある言葉を似た言葉で言い換えたり【例・一歩ずつ着実に進展(前進)】、元の文章に少し付け足したり【例・(帰還困難区域を除くほとんどの地域で)避難指示が順次解除され】、といった微修正ばかりだ。
③「国土強靱化」以降は、必要性すらわからない細かい字句修正ばかりで、本当に呆れた。
【責任はトップにある】
未曽有の大災害に対する追悼のことばが、ほとんど前年の使い回しだった。
冒頭のあいさつなど一部分が似てしまうのは理解できるが、さすがに節操がないレベルだ。
確証はないが、これだけ似ていたのでは、実際に19年式辞の下書きを用意した首相ブレーンも、こういう「コピペ→微修正」作業をしたんだろうと考えざるを得ない。
もちろん、式辞のゴーストライターよりも罪が重いのは、その文面に最終チェックを行い、公衆の面前でそれを読み上げた首相その人である。
(続く)
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