(ト書き・こどもを保育園に向かう車中。ウネリが法定速度を守ってハンドルを握る)
ウネリ「そういえば、ねむ田さんから電話があったっす」
ウネラ「で、なんて?」
ウネリ「ナンテ? 軟式テニスですか」
ウネラ「違うがな。どんな用件や、ちゅうこっちゃ」
ウネリ「サンコーができました、って言ってたっす」
ウネラ「サンコー?」
ウネリ「三校っすよ、三校。三回目の校正刷り。サイコー(再校)が最高じゃなかったんで、サンコーを参考に、ってことみたいっすよ。要はもう一回刷ってもらったんすよ」
ウネラ「そりゃ要チェックやな。『シキリ』の文字フォントとか変えてもうたからな」
ウネリ「何をシキるんすか?」
ウネラ「あほか」
※ナレーション「『仕切り』とは、本文中、章などが変わるときの区切りのページのことである。その章のタイトルを入れたりする。ウネリウネラは印刷所のルドルフ氏から、トンボの位置だけでなく仕切りのページの文字フォントが一部異なることも指摘されていた。」
ウネリ「表紙の裏のバーコードの余白も変えましたよね」
ウネラ「そやな。1・5ミリとかなんとか、なんや辛気臭いことあったな」
ウネリ「よく気づいたっすね」
ウネラ「まあ、センスやな」
ウネリ「……」
ウネラ「センスよな、な」
ウネリ「……いよいよっすね。サンコーを確認してオーケーだったら本の発行日を決めていよいよ印刷っす」
ウネラ「ワクワクするわな」
ウネリ「2月までには出せそうっすかね」
ウネラ「まあ、狙いたいところやな。年賀状にも『1月ちゅうに出します』って書いてもうたからな。けど、無理やろな。週明けにサンコーではな」
ウネリ「ねむ田さんも『これから紙のほう、仕入れますね』って言ってたっすよ」
ウネラ「それじゃ余計、無理やな……」
ウネリ「年明けにイスファーンから帰ってサイコーの直しをねむ田さんに送りましたけど、そこからサンコーができあがるまで時間あったっすね」
ウネラ「忙しかったんやろな」
ウネリ「松飾りおろしたり、七草粥食べたり、あるでしょうからね」
ウネラ「……まあな、そのあいだに、とある出版社のグループに入れてもらって勉強したりしたからな。無駄じゃなかったわな」
ウネリ「そうっすね。ウネラさん、ゆーっくりいきましょう。牛みたいに」
ウネラ「おたく、まだ干支の話してんねんな……」
(ト書き・車が保育園につく。後部座席にこどもが乗り込み、ウネリが車を発進させる。こどもは園で覚えてきた「ハーメルンの笛吹き男」の一節を口ずさむ。)
こども「トロリーラ♪ トロリーラ♫ 男が笛を吹くと、町じゅうのこどもたちが広場に集まりました。こどもたちは男の笛に導かれて森の中へ……」
※ナレーション「現代の笛吹き男は、どんな音色を奏でてやってくるのか。人びとの頭に同じメロディーが流れはじめた時。それが危ない時である」
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