【田中まさおさん裁判】第2次訴訟の意義

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 埼玉県の公立小学校で働く田中まさおさん(仮名)は、全国の学校教員たちの働き方を変えるために裁判を起こしました。先月最高裁が上告を退けたことによって敗訴が決まりましたが、田中さんは「全国の教員の方々から仲間をつのって第2次訴訟を起こす」と宣言しています。(ウネリ=牧内昇平)

 筆者はこの田中まさおさんに継続取材しています。これまでの記事のほとんどは「フムフムニュース」というサイトに公開していますので、ぜひお読みください。https://fumufumunews.jp/category/masao

 今回はフムフムニュース等に盛り込んでいない、より詳細で踏み込んだ情報をお伝えします。第2次訴訟の特徴、意義といったところです。この問題を深く知りたい人には有意義だと思います。田中まさおさん本人を含む裁判の関係者たちは3月27日に文部科学省で記者会見を行いました。その際に、裁判の支援者の1人である高橋哲・大阪大准教授(教育学)が語ったことを中心に紹介します。


そもそも田中まさお裁判とは

 田中まさおさんは埼玉県内の公立小学校の教員です。2018年当時、月平均で60時間ほどの時間外勤務(残業)をしており、「これはおかしい!」ということで裁判を起こしました。具体的に求めたのは、①働いた時間に見合った残業代と、②違法な時間外勤務をさせられたことに対する損害賠償です。最高裁に進んだ時点では①の請求をやめ、②のみに絞りました。提訴は2018年9月。さいたま地裁は21年10月に田中さんの請求を退ける判決を言い渡し、続く東京高裁は22年8月に一審判決を支持。最高裁が今年3月に上告を棄却する決定を出し、田中さんの敗訴が確定しました。


第2次訴訟の意義①)第1次訴訟の成果を活用し、勝訴する

 ここは3月28日付フムフムニュースの記事でも紹介した部分です。

第1次訴訟(田中まさおさんの裁判)の地裁・高裁判決は、教員の時間外労働が放置され、常態化していた場合には違法となる可能性があることを認めました。ただ、原告(田中まさおさん)の働き方では、違法とまでは言えないというのが結論だったわけです。

高橋哲氏

 給特法という法律上は、「超勤4項目」(校外実習・修学旅行・職員会議・非常災害)という特別な場合をのぞいて教員に時間外勤務を命じてはいけないことになっています。このため員の残業は「自主的・自発的な勤務」と言われてきました。ところが裁判所は、田中さんが夕方5時以降にしていた仕事の中には「自主的・自発的」ではない「命じられた労働」もあったと認めました。

 だとすると田中さんの請求を認めるべきでは?とも思うのですが、裁判所はそういう判断をしませんでした。裁判所がなぜ請求を認めなかったかというと、主な原因は田中さんの時間外勤務の長さでした。

 田中さんは提訴前の11か月間に660時間(月平均60時間)の時間外勤務をしていたはずです。裁判でそう主張しました。しかし、裁判所は「夕方5時以降の仕事のうち、空き時間(音楽など他の先生が授業を担当している時間)のあいだに終わらせることができたものがある」と指摘しました。(※田中さんは「空き時間は当然のごとく事務作業などをしていた」と話しており、日中に校舎内で遊んでいる教員も実際いないだろうと思います。)

 そして裁判所は、田中さんが主張した時間外勤務の中から「空き時間」のぶんを差し引きました。そうしたことなどによって、660時間あったはずの時間外勤務は32時間に減ってしまいました。(※あくまで裁判所の認定では、という話です)。11カ月で32時間ですから、月に数時間です。それくらいの長さであれば賠償を命じるほどではないでしょう、というのが裁判所の判断でした。

 しかし逆に言えば、時間外勤務が田中まさおさんより長い人が原告になれば、第1次訴訟のロジックに基づいても勝訴できる可能性は高いのではないか、というのが第2次訴訟の最大のポイントです。高橋氏はこう話します。

第1次訴訟は、法論理としては私たちが提示したものを認めた上で、だけれども、田中まさおさんのケースでは損害賠償請求までは認められない、国家賠償法上の違法とまでは言えない、という結論でした。今もっとも時間外労働が長い中学校教員や、強制部活動が問題になっている高校教員の方々が原告となった場合、違法であると認められる可能性は高いと言えるでしょう。全国的に、違法状態にある先生方の事例を基に現状を問うていく。こういうところに第2次訴訟のポイントがあります。

高橋哲氏
高橋哲氏

第2次訴訟の意義②)憲法違反を問う

第1次訴訟では当初、労働基準法違反を中心に主張を展開していました。高裁、最高裁に進む段階で憲法問題を提起していきましたが、当初から提起していなかったというのが、一つの課題でした。第2次訴訟では初めから憲法問題を問うていきます

高橋哲氏

 憲法のどこに違反しているというのでしょうか。

 憲法27条には「勤務条件法定主義」(賃金や働く時間のルールは法律で定めるということ)が明記されています。それにもかかわらず、文部科学省は脱法的な解釈と運用によって「ただ働き」を放置してしまっているということです。それから憲法14条に基づく「法の下の平等」です。私立学校や国立学校の先生には超勤手当が認められ、労働の対価が支払われているという問題。そして最終的には憲法26条「教育を受ける権利」です。教員の長時間労働が子どもたちの教育を受ける権利を侵害しているんだということを問うていきます。

高橋哲氏

 先ほども書いた通り、給特法には「特別な場合をのぞいて時間外勤務を命じない」と書いてあるのだから、もし時間外勤務が命じられているとしたら「勤務条件法定主義」に反することになります。さらに、公立学校の教員には教職調整額(給料の4%)以外には残業代が払われていませんから、その点がたとえば私立学校教員と比べると不平等であるという主張だと思います。

 最後の「教育を受ける権利」については、個人的にとても重要だと思っています。田中まさおさん裁判で原告側が最高裁に提出した堀口悟郎・岡山大学准教授(公法学)の意見書の一部を引用して、この部分をさらに説明したいと思います。

 一般の労働者は法律にのっとって労使で三六協定を結び、きちんと時間外手当を払うかぎり、時間外勤務が認められています。しかし、前述のとおり給特法は、教員に時間外勤務を命じてもいい場面を「超勤4項目」だけに制限しています。法律上では教員のほうが時間外勤務を厳しく制限していると言えます。それはなぜか、堀口氏の意見書はこう指摘します。

教員の労働時間規制は、教員の私的利益(生活時間や健康等)だけでなく、子どもの教育を受ける権利を守るものでもある。教員が長時間労働で疲弊したり十分な自己研鑽を積めなくなったりした場合、良質な教育が行えなくなり、子どもの教育を受ける権利が損なわれてしまう。教員の私的利益については、それをどう処分しようが教員自身の勝手であり、対価をもらう代わりに差し出してもよいだろうが、子どもの教育を受ける権利は、教員らが割増賃金をもらう代償として犠牲にしてよいものではない。だからこそ、給特法は、教員らの意向に関わらず、時間外勤務を命じうる場面自体を厳格に制限したのである。

堀口氏の意見書

第2次訴訟の意義③)原告公募制であることの意味

これまではあくまで「埼玉超勤訴訟」でした。これを全国的に展開することに意味があります。この裁判は、個人的な利益を追求するのではなく、今の学校教育や子どもたちの教育条件を改善していくための公共訴訟です。誰でもどこにいても参加できる訴訟をイメージしています。地理的な広がりだけではありません。世代間の広がりも意識しています。田中まさおさんというすでに定年を迎えている先生だけでなく、子育て中の先生、介護をしながら働いている先生、新任で苦しんでいる先生。世代を超えた先生方に参加していただけるように考えています。田中まさおさんのバトンを多くの方に受け取っていただきたい。全国の先生方、市民の方、保護者の方と共に子どもたちのための教育をよくしていく。そのための裁判であるということです。

高橋哲氏

 田中まさおさん本人は「仲間は50人でも100人でもいい」と言っています。実際にどのくらいの規模で進められるかは分かりませんが、多ければ多いほどインパクトがあるのは確かでしょう。この運動がどのくらいの広がりになるのか、今後もウォッチしていきたいと思います。


原告募集の詳細は4月23日以降に

 田中まさお裁判の支援事務局によると、第2次訴訟の原告の細かな募集条件などは4月23日に発表するそうです。興味のある方はチェックしてください。

 田中まさお支援事務局公式ツイッター https://twitter.com/1214cfs

 筆者がフムフムニュースに書いている連載「裁判を起こした小学校教員『田中まさお』のメッセージ」はまだまだ続きます。これまでは裁判の話、教員の働き方の話がメーンでしたが、今後はベテラン教員田中さんの「教育観」を紹介する予定です。教員の方々だけでなく、広く「教育」や「子ども」に関心がある方に読んでほしいです。

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