【原発事故汚染水の海洋放出】法廷闘争へ

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 東京電力福島第一原発にたまる汚染水について、漁業者を含む市民たちが、国・東電に対し海洋放出を止めるように求める裁判を起こします。9月8日に福島地裁に提訴し、原告の数が増えた時点で追加提訴を予定しています。代理人の弁護士は「100人規模の原告団結成をめざす」と話しています。(文・写真/ウネリウネラ牧内昇平)


「100人規模の原告数をめざす」

 福島県内外の漁業者や市民が「原告」、東電ホールディングスが「被告」となる裁判です。8月23日、福島県いわき市内で原告側の弁護団や原告になる予定の人びとが記者発表を行いました。弁護団の共同代表を務める広田次男弁護士はこう話しました。

 今年の5月から裁判を準備してきました。現在合計19人の弁護士で弁護団を構成していますが、さらに拡大する予定です。原告数は100人を超えることを目指しています。そして2次、3次の追加提訴を検討していきます。

広田氏

 仕事や生活に支障をきたすことがないよう、特に漁業者については氏名を公表しない形で裁判を進めるとしています。

広田次男弁護士

海洋放出は生業の破壊、人格権の侵害である

 記者発表によると、原告たちが裁判で求めるのは以下の点です。

国(原子力規制委員会)は、東電が出した海洋放出計画への認可を取り消せ。行政訴訟)
・東電はALPS処理された汚染水の海洋への放出をしてはならない。民事訴訟

 なぜ原告たちにそれらを求める根拠があるのか。漁業者や市民たちの権利が海洋放出によって侵害されるからだと、原告たちは主張します。
 漁業者たちは生存の基礎となる「生業」を破壊される。漁業者以外の一般の人びとも、汚染されない環境で平穏に生活する権利を奪われる――。
 こうした「漁業行使権」、「人格権」が侵害されるとの主張です。23日に記者に配られた訴状(案)には、このように書いてありました。

ALPS処理汚染水が海洋放出されれば、原告らが漁獲し、生産している漁業生産物の販売が著しく困難となることは明らかである。政府は、これらの損害については、補償するとしているが、まさに、補償しなければならない事態を招き寄せる「災害」であることを認めているといわなければならない。さらに、一般住民である原告との関係では、この海洋放出行為は、これらの漁業生産物を摂取することで、将来健康被害を受ける可能性があるという不安をもたらし、その平穏生活権を侵害する行為である。

訴状(案)

 訴状(案)には以下のような多岐にわたる指摘もありました。

・海洋放出の安全性は認められておらず、予防原則の考え方を導入した環境基本法4条に違反する。
・海洋放出は国や東電自らが原告を含む関係者に行った「約束」に反する。
・国と東電には環境への負荷が少ない代替策を採用すべき義務がある。
・国際社会の強い反対を押し切って海洋放出を強行することは日本の国益を大きく損なう。
・IAEA包括報告書は、海洋放出を正当化する理由にならない

 弁護団の共同代表を務める河合弘之弁護士は、海洋放出が倫理に反しているという点を強調して語りました。

 福島第一原発の敷地内外には広大な土地があります。国や東電は「燃料デブリの用地確保が必要だ」と言いますが、デブリはまだ数グラムしか取れていません。大量に取り出せるのは何十年も先です。何十年も先のことのために、空き地を使わず放流するというのはインチキだと思います。ひと言でいえば「不要不急の放流」です。

 今回、原告となる漁業者や水産業者は原発事故の直接な被害者です。12年一生懸命戦ってようやく状況が改善できそうなところに、また放流で大変な被害が与えられようとしている。原告の人たちは「二重の被害者」です。東電と国は「二回目の加害」を明日からする、ということになります。正義の観点から言って決して許されるやり方ではありません。

河合氏

 同じく弁護団共同代表の海渡雄一弁護士は裁判のポイントをこう話しました。

 分かりやすい例を一つだけ挙げます。今回の海洋放出は、ALPS処理された汚染水の中にどれだけの放射性物質が含まれているかが明らかになっていません。放出される中にはトリチウムだけでなくストロンチウム、セシウム、炭素14なども含まれています。それらが放出されることによって海洋環境や生物にどういう被害をもたらし得るか。環境アセスメントがきちんと行われていません。国連人権理事会の場でもそういう調査をしろと言われているのに、それが全く行われていない。決定的に重大な国の過誤、欠落と言えると思います。

海渡氏

 筆者はあえて裁判の勝算について聞きました。提訴前に失礼かとも思いましたが、国などの施策の差し止めを求める裁判は住民側が敗れるケースも少なくないと感じているからです。この点について広田、海渡両弁護士はこのように話しました。

 何をもって裁判の勝ち負けとするか、そのメルクマール自体が裁判の展開によっては難しい中身を伴うかもしれませんが、勝算はもちろんあります。勝算がなければこうやって大勢の皆さんに立ち上がろうと弁護団が言うことはあり得ません。どういう形で勝つかということまではここで具体的に断言はできませんが、ともかくどういう形であれ、やってよかった、立ち上がってよかった、そう思える結果を残せると確信しております。

広田氏

 この裁判は十分勝算があると思っています。最も勝算があると考える部分は、現に漁業協同組合に加入してる漁業者の方々がこの裁判に加わってくれたということです。彼らの生業が海洋放出によって甚大な影響を受けることはまちがいない。そしてそれが過失ではなく故意による災害であることもまちがいない。これはきわめて明白なことです。まともな裁判官であったら正面から認めるはずです。

 一般市民の方々の平穏生活権が侵害されるという部分については、これまでの原発事故被害者の損害賠償訴訟の中で、避難されている方々の救済法理として考えられてきたものです。たくさんの民事法学者の賛同を得ている、かなり確実な法理論です。この部分についてはチャレンジングなところもありますが、これも十分勝算があると思っています。

海渡氏

 原告になる予定の市民の方々の発言は後日、本サイトで紹介します。


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