原発事故の賠償が実態に合っていない。基準の見直しを求める――。「生業訴訟」など3件の原発事故集団訴訟について、最高裁は3月2日、東電の上告を退けました。これによって、国の基準(「中間指針」)を上回る賠償を命じた高裁判決が確定しました。ここでウネリウネラが注目しているのは、福島県がどう動くかです。
確定判決の中身を正面から受け止めれば、中間指針の大幅改定は必至の状況です。事故当時福島に住んでいた多くの(あるいはすべての)人たちに影響をおよぼします。県庁としても「無関心」ではいられないはず。はたして内堀雅雄知事と福島県庁はどのような意見を持っているのでしょうか?
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原告たちは福島県庁に対応を要請
原発事故集団訴訟は全国でたくさん起こっています。3月2日に東電の責任と賠償額をめぐる判決が確定したのは「生業訴訟」(福島地裁)と千葉・群馬両地裁に提訴された「千葉訴訟」「群馬訴訟」の3つです。
3訴訟の高裁判決はいずれも「国の中間指針を上回る賠償が必要だ」と認めていました。判決確定を受けて原告たちは3月28日、福島県庁に対して、「県として、中間指針をただちに見直すよう国に促してください!」と求めました。
中間指針は「原子力損害賠償紛争審査会」(原賠審)という国の組織が作っています。福島県庁が直接この指針を改訂できる立場にはありません。しかし福島県庁が県民の側に立つならば、国の原賠審に対して指針の大幅改訂を強く求めることはできるはずだ、というのが原告たちの考えだと思います。
※特に生業訴訟の判決確定によって中間指針自体の見直しが必要になるのはなぜか? ということについては、前回の記事をお読みください。
【原発事故、賠償基準の見直しを!】集団訴訟原告たちが福島県庁に申し入れ
【原発事故、賠償基準の見直しを!】集団訴訟原告たちの声
福島県庁の対応は?
これに対して福島県庁はどのように対応しているのでしょうか? 福島県庁の原子力損害対策課の課長に聞いてみました。
――中間指針の見直しを促してほしいという、原告たちの要請書にどう対応していますか?
「原賠審の議論を見守っていきたいと思っています。国会でも原賠審の開催への言及がありました。できるだけ早めに開催していただいて、議論を深めてほしいと思っています」
――福島県としては中間指針の見直しについて、どのように考えているのでしょうか? たとえば生業訴訟の高裁判決は、帰還困難区域を含む双葉町・大熊町について150万円の上乗せ賠償が必要だという判断を示しました。中間指針では「賠償額ゼロ」となっている会津地域について、子どもと妊婦に限ってですが6万円の賠償を命じています。このような点を具体的にどう考えていますか?
「生業訴訟もそうですが、高裁判決は他にもあります。まずは確定した判決の内容を分析、精査しているところです」
――判決の分析はまだ途中、ということですか?
「そうです」
「えっ?」と思ってしまいました。
生業訴訟の高裁判決は一昨年の9月30日です。判決の分析は終わっていなければおかしい。群馬訴訟は昨年1月、千葉訴訟は同3月に高裁判決が出ました。すでに1年が経っています。
まさか判決が確定した今年3月2日から判決文を読みはじめた、ということはないでしょうから、少し時間が経ち過ぎです。先ほど書いた通り、集団訴訟はいくつもあります。すべての判決確定を待っていたら、さらに何年もかかってしまうでしょう。
――福島県としては判決の分析・精査をしているだけということですか?
「いいえ。『県原子力損害対策協議会』として、今月19日に国に対して、確定判決の精査と、中間指針の見直しも含めた適切な対応を求めていきます」
――確定判決に基づいて中間指針のどこをどう見直すかが重要なのだと思いますが、その点については、県はまだ『判決の分析中』ということなんですね?
「そうです」
”国に決めてほしい”、”国が決めればいい”と言っているように思えてしまいました。
「福島県原子力損害対策協議会」とは、原発事故の数か月後にできた組織です。協議会の会長は内堀知事。最近の活動実績を見ると、だいたい年に1、2回、国と東電に対して要望書を提出していました。
昨年6月の要望書の1ページめには「被災地の実情に応じた『指針』の適時適切な見直し」とありました。一昨年12月の要望書にも同じ文言が入っていました。しかし、要望書の筆頭にくるのは「風評被害対策」とか、農林水産業や商工業の「営業損害への賠償」です。広く住民全体の(「精神的損害」も含めた)救済というよりも、”業界”への賠償を重視した内容だと感じました。(協議会の副会長にはJAや商工会議所の代表、県内の市長や町長が入っています。)
今月19日に出す要望書にはもっと踏み込んだ内容を書いてほしいと思いますが……。
内堀知事の反応は?
気になるのは県政トップ、内堀知事の反応です。どのくらいの関心を持って、原発事故訴訟の成り行きを見守ってきたのでしょうか。生業訴訟について、地裁判決(2017年10月)、高裁判決(2020年9月)後の定例記者会見でのコメントを紹介します。
「今回の訴訟の結果や判決の中身は拝見しております。司法の判断について、福島県として直接コメントすることは差し控えさせていただきます。原子力損害賠償については、被害者の皆さんそれぞれの立場に立った賠償を迅速に的確に行っていただきたいと考えています。」(福島地裁判決後)
「司法における判断について、県がコメントすることは差し控えますが、(中略)今後、国に対し判決の内容をしっかりと精査するよう求めてまいります。原子力損害賠償については、被害者それぞれの立場に立った賠償が、迅速かつ的確になされるよう、県としても取り組んでまいります。」(仙台高裁判決後)
残念ながら今年3月2日の最高裁決定については定例記者会見で質問が出ていないようで、知事のコメントは確認できませんでした。
それにしても、あまり熱心さを感じることができないコメントだなあと思いました。「司法の判断についてはコメントを差し控える」と言いますが、県民に大きな影響を及ぼす事柄について、県知事がコメントを控えねばならない理由はあるのでしょうか……。
どの地区の住民はこのくらいの被害を受けてきた。だから、このくらい賠償しろ。本来であれば、福島県と内堀知事が「自分たちの考え」を明らかにし、国に対して改善を求めていいはずです。地元のことは地元が一番詳しいはずですから、裁判所の判断を参考にしながら、「福島県独自の中間指針改訂案」を作ってもいいくらいだと思っています。しかし、先ほどの県原子力損害対策協議会の要望書や、知事会見の言葉からはそうした姿勢が伝わってきませんでした。
「難しい問題は国に任せます。国が決めたらそれに従います」というのは、汚染水の海洋放出問題と共通する福島県庁の姿勢です。それでいいのか? ウネリウネラはそう思いません。
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