【子ども脱被ばく裁判】控訴審の前に知ってほしいこと①

報道

 今年3月に地裁判決の内容を紹介した「子ども脱被ばく裁判」ですが、今月22日から仙台高裁で控訴審が始まります。控訴審が始まる前に知っておいてほしいことを数回にわたって書きます。

 初回は、裁判のおおまかな点のおさらいです。

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【この裁判のテーマ】

 地裁判決の時にも書きましたが、子ども脱被ばく裁判のポイントを一言で書けば、

「私たちの社会は、子どもたちを放射線被ばくから守れているのか」

それを正面から問いただしている点だと思います。

 「東電や国が原発事故を起こした責任」を問う裁判はたくさんありますが(もちろんそれも重要ですが)、事故後の行政の対応を問題にしている裁判は多くありません。そのうち、「子どもを被ばくさせない権利」を前面にかかげて闘う裁判は、恐らくこの裁判のみです。

 子どもを守るのは大人の責務です。だから、ウネリウネラはこの裁判に注目しています。


【論点】

 裁判を起こした原告たち(福島の親子)が、国や福島県、県内の市町村に裁判を通じて求めているものは2つです。

①いま現在、放射線被ばくの心配をしなくていい安全な場所で学校教育を行ってほしい。【行政訴訟・子ども人権裁判】

原告たちが裁判で問いかけているのは……
放射線量が高い場所で学校教育を行うのは危険ではないか/放射性物質を体内に取り入れた時の「内部被ばく」のリスクが軽視されていないか/福島県内の子どもに実施中の甲状腺検査では多数の甲状腺がんが発見されているのに、がんと被ばくの影響が軽視されていないか

②3・11当時、子どもたちを無用に被ばくさせた行政の責任を問いたい。【国家賠償請求訴訟・親子裁判】


※具体的には、国・福島県の「無為無策」によって子どもが無用な被ばくをさせられたことへの損害賠償(1人あたり10万円)を求める

原告たちが問題視しているのは……
SPEEDIの情報隠し/事故直後に安定ヨウ素剤を配らなかったこと/年20m㏜という基準で学校を再開したこと/「山下発言」を利用した安全宣伝

 このように裁判が大きく二つに分かれていますので、それぞれの原告も異なっています。

①「子ども人権裁判」は、現在福島県内の学校に通っている小中学生とその親が原告です。そのため、裁判が始まった(2014年提訴)時点では40人ほどの子どもが原告にいましたが、年々対象者が減り、高裁段階で残っている原告は5人になっています。控訴審段階での被告は、福島市、いわき市、郡山市です。

②「親子裁判」は、事故当時福島県内にいた親子が対象になります。高裁段階では合計118人が原告として参加しています。被告は、国と福島県です。


【経緯】

  • 2014年8月 提訴
  • 2020年3月 福島県放射線健康リスク管理アドバイザーだった山下俊一氏の証人尋問
  • 2020年7月 結審
  • 2021年3月 地裁判決(1日)
  •       原告団が控訴(15日)
  •        10月 控訴審が仙台高裁でスタート(22日)

【地裁判決】

今年3月に言い渡された福島地裁判決は、原告側の「敗訴」でした。上記①・②ともに、原告の訴えは退けられました。以下、主な争点について福島地裁がどう判断したかを列挙します。

主な争点原告側の主張地裁の判断
学校における子どもの安全ほかの有害物質と同じように放射性物質についても学校環境衛生基準を設けるべき。放射性物質には「これより少なければ安全」という「しきい値」がないことを考えると、許容できる被ばく線量は、年2.9マイクロシーベルトである。学校が放射性物質についても必要な考慮をすべきことは明らかだが、国の原子力安全委員会は、ICRP2007年勧告を踏まえて「年1~20ミリシーベルト」という基準を定めており、それに基づいて学校を運営するのは違法ではない。
セシウム含有不溶性微粒子事故で放出されたセシウムのうち相当な割合は、水に溶けない「不溶性」の粒子になっている。体外に流れ出す「水溶性」よりも健康リスクが高いのに、住民にほとんど知られていない。セシウムを含む不溶性微粒子のリスクは、現状では科学的に未解明な部分が多い。現段階では、一定の国際的なコンセンサスを有するICRP2007年勧告などに依拠した措置が直ちに不合理とは言えない。
小児甲状腺がんすでに小児甲状腺がんの手術件数は200例を超える。集団検査によってたくさんの”がん”が見つかるという「スクリーニング効果」などでは説明がつかない。放射線の影響を受けやすい5歳以下の子どもには、ほとんど甲状腺がんが見つかっていない。スクリーニング効果との説明が不合理とはいえない。現時点では、放射線の影響と認めるには足りない。
SPEEDI問題国や県はSPEEDI予測計算の有用性を十分認識していたにもかかわらず、事故直後に公表せず、周辺市町村とも共有しなかった。意図的な隠ぺいと評価せざるを得ない。SPEEDIによる予測計算結果そのものの公表を義務付ける、法令やマニュアルはなかった。事故直後に結果を公表しなかった国や県の取り扱いは、違法とは言えない。
「山下発言」問題山下氏は、県民の被害感情を理解しない軽率な発言をしばしば繰り返すことにより、原告ら県民の原発被害者としての尊厳や心情を著しく傷つけた。一部の発言については訂正し、積極的に誤解を与えようとする意図はうかがわれないことなどを考えると、この点に関する県の措置に違法があったとはいえない。

【まとめ】

 10月22日に控訴審が始まる「子ども脱被ばく裁判」について、おおざっぱにふりかえってみました。

 次回からは、この裁判を取材しているウネリウネラが「これだけは控訴審前に知っておいてほしい」と思っていることを紹介します。

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