伝承館は何を伝承するのか~展示資料の記録⑤

報道

 

 この企画は、今年9月福島県内にオープンした「東日本大震災・原子力災害伝承館」(伝承館)という施設の「あるべき姿」を考えていくものです。企画の狙いについては、前の記事「企画のはじめに」をお読みください。

 議論の材料として、館内の各フロアに掲示されている「文章」をアップしていきます。さすがに展示物そのものの画像はアップできませんが、「文章」を読むだけでも、伝承館の「伝え方」の一端は分かると思います。

 この段階ではあえて私たちのコメントは付記しません。読者の皆さまからコメントを集めて、みんなで考えていきたいのです。ぜひ、これらの文章を読んで感じたこと、指摘したいことなどを書き送ってほしいと思います。実際には伝承館に行ったことがない人も、議論に参加してもらえたら嬉しいです。

 投稿フォームは毎回記事の下に設置しておきます。

 前回は2階展示室の最初の展示、①【災害の始まり】のうちの、<1-3>原子力発電所事故の発生 というところを紹介しました。

 今回はそれに続く<1-4>災害対策本部の記録 という部分です。


↓ここからが、伝承館内に掲示されている「文章」の紹介です。

<1-4 災害対策本部の記録>

福島第一原子力発電所の全交流電源が喪失するという緊急事態。東京電力から原子力安全・保安院への通報を受け、政府が原子力災害現地対策本部を立ち上げました。しかし、緊急事態応急対策拠点施設(オフサイトセンター)も被災し、その機能をほとんど発揮できなくなるなど、用意されていたマニュアルのとおりに事を進めることはできず、現場での活動は大きな制約を受け、緊急事態応急対策を実施することは困難な状況でした。

この時、誰も経験したことのない事態に、全ての関係者が持ち得る知恵と情報を全て集結させ、対策に奔走しました。

●緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)について

国と関係道府県では、原発事故によって大量の放射性物質が放出またはおそれがある緊急事態に備え、大気中濃度や被ばく線量を予測し、その結果を地図上に示すシステム(SPEEDI)を整備していました。SPEEDIは、各原子力発電所が設置しているERSS(原子力発電所が正常に稼動しているかどうかを常時確認し、事故が起こった場合は、事故状態の確認・判断、今後の事故進展を解析・予測するシステム)から放出される放射性物質の情報(放出時刻、種類や量等)を受け取り、気象データ等に基づいて予測計算を行います。

福島第一原発の事故では、全電源喪失の影響により原子炉の運転パラメーターを把握することが困難になり、ERSSからの放出源情報が入手できなくなったため、予測計算によるSPEEDIの情報は活用できませんでした。このため国は、ERSSの放出源情報ではなく、仮の値を用いてSPEEDIの予測計算を行い、その結果を、国原子力災害対策本部やオフサイトセンター、県災害対策本部に送信しました。当時、SPEEDIによる予測結果は、国やオフサイトセンターにおいて住民避難等の防護措置の判断に活用されることになっていましたが、県災害対策本部では、SPEEDI結果の取り扱いを明確に定めたものはなく、その情報を共有することができませんでした。

2014年、原子力規制委員会は福島第一原発の事故を教訓として、原子力災害発生時に、いつどの程度の放射性物質の放出があるか等を把握すること及び気象予測の持つ不確かさを排除することはいずれも不可能であることから、緊急時における避難や一次移転等の防護措置の判断にあたって、SPEEDIによる計算結果は使用しないとの見解を示しました。

●オフサイトセンターについて

原子力緊急事態が発生した場合、原子力災害対策特別措置法では、緊急事態応急対策拠点施設(オフサイトセンター)に原子力災害現地対策本部を設置し、国、県、市町村、事業者等の関係諸機関が連携して情報を共有するほか、住民の安全確保などに対応することが定められていました。しかし、実際には地震による道路の寸断や交通渋滞等、さまざまな影響により、現地に当日中に行けたのは想定していた人数の一部に限られました。

またオフサイトセンター自体も地震による停電、通信手段の途絶、施設周囲や内部の放射線量の上昇などにより、その機能をほとんど発揮することなく、事故4日後に福島県庁への移転を余儀なくされました。このような事態に陥ったのは、それまでの原災法が地震・津波、そして原発事故の複合災害を想定していなかったためで、今回の災害の経験は、オフサイトセンターのあり方そのものを見直すきっかけとなりました。

<1-4>災害対策本部の記録 における展示文章は以上です。


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次回は、2番目の展示エリア【原子力発電所事故直後の対応】に入ります。

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