福島第一原発事故による汚染水の海洋放出についての考え②(「無実」を追い求め「二枚舌」を責める)

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 IAEAが「安全だ」と言ったことでいよいよ海洋放出がスタートするかのように報道されています。政府がそういう考えなのは確かですが、それを鵜呑みにする必要はありません。

 今の状況を刑事裁判にたとえてみます。

 IAEAが言っているのは「IAEAの基準によれば海洋放出は『無罪』だ」ということだけです。有罪か無罪かと問われれば無罪である。ここで「無罪」というのは、仮に海洋放出を行っても日本政府が”罪”に問われることはない、という意味です。

 ただし「無罪」と「無実」のあいだに大きな隔たりがあることは明らかです。犯罪であると認定できない状態が「無罪」。実際に罪を犯していないのが「無実」です。

 「無実」はいつまでたっても「無実」です。しかし、「無罪」はどうでしょうか。強力な証拠が見つかったり、法律が変わったりすれば、「有罪」となり得ます

 法律(≒基準)が変わることは今後ないのでしょうか。IAEAやICRPによる安全性の基準には「不十分ではないか」という指摘があります。基準が変われば「やっぱり海洋放出は『有罪』だった」ということになりかねません

 いま追求すべきなのは「無罪」ではなくて「無実」です。数十年後に人体や環境への影響を訴える声があったとして、「海洋放出との因果関係は認められない」とされて日本政府が「無罪」になったとしても、嬉しくありません。人体や環境への影響が将来にわたって全くないこと、つまり「無実」であることが重要なのです。

 私たち市民には「無実」を求める権利がありますし、原発事故と無関係の太平洋諸国にはもっとその「無実追求権」があります。

 しかし、いったん汚染水を海に捨てたら「無実」の実現は無理です。私は経済産業省の幹部にこう聞いたことがあります。「未来永劫、全く影響はないと言い切れますか?」。幹部は「言えます」と答えましたが、それに続けてこう説明しました。

安全基準というのは人体への影響とか環境への影響がないレベルでちゃんと設定されているものなんですね。それを守っていれば影響はないんです。まあ影響がないと言うとちょっと語弊があるかもしれないけど、ゼロではないですけども、有意に、たとえば発がん、がんになるとか、そういう影響は絶対出ないレベルで設定されているものなんですよ。だから、それを守ることで、私は、絶対影響が出ないと確信を持って言えます。

経済産業省「廃炉汚染水対策官」の木野正登氏

 影響がゼロとは言い切れないが、統計上有意な差は出ない。要するに「無罪」ではあるが「無実」ではない。幹部の発言はこのことを認めたのだと私は解釈しています。

 汚染水の海洋放出は、(仮に現時点では)「無罪」であったとしても「無実」ではない。しかし市民には「無実」を求める権利がある。そうだとすれば、日本政府がすべきことは明らかで、海洋放出の代替案を探すことです。

 ここで経済産業大臣の西村康稔氏が登場する動画を紹介します。海洋放出プロパガンダのために経産省がつくったものです。西村氏はカメラに向かってこう話していました。

東京電力福島第一原発の廃炉作業はこれから、より本格化します。これを安全に進めるために不可欠な施設を建設する場所を確保する必要があります。そのためにはALPS処理水を処分し、タンクを減らす必要があります。

西村康稔・経済産業大臣による動画メッセージ

 政府の言い分としては、海洋放出が必要な理由は「タンクを減らすため」です。それならば、新たなタンクを新設するスペース、もしくは「廃炉に不可欠な施設」を建てるスペースがあれば事足りる。こういうことになります。

 まずは福島第一原発の敷地内をフル活用すべきですが、それでダメなら次に思いつくのは周りのエリア、いま中間貯蔵施設がつくられているエリアでしょう。中間貯蔵施設とは、除染土や除染廃棄物をためておくための場所です。約1500ヘクタールの広さがあります。

「双葉町、大熊町にある中間貯蔵施設のスペースにタンクを作れないのか」。そう聞くと経産省はこう言います。

「あの土地は中間貯蔵施設として利用するために町民の方々からご了承いただいています。そして施設スタートの30年後(2045年)までには福島県外の最終処分場に移すことを町民の方々と約束しています。その約束を破ることはできません」

 しかし、どうでしょうか。中間貯蔵施設がつくられてから8年が経ちましたが、いまだに県外の最終処分先は決っていません。双葉・大熊両町との約束を守るために日本政府が血眼になっているようにも思えません。

 双葉・大熊両町には「30年後の県外処分」を約束しておきながら、その約束を果たすための努力はしない。しかし、タンクの増設を求める声に対しては、「双葉・大熊両町との約束があるから無理です」と言う。

 こういうのを「二枚舌」というのだと思います。

 私は「無実」を追い求め、日本政府の「二枚舌」を責めます。

 政府は「時間がない」といいますが、汚染水の発生量は年々少なくなっています。まだタンクはいっぱいになりません。ここから仕切り直しで、汚染水をどうするのがいいのか議論し直すべきです。

 

コメント

  1. ゴッサム市民 より:

    専門外の話なので検証していませんが、トリチウムは水と同じで体内の細胞に入るが、トリチウムが水に変わるときに細胞が破壊される危険があるらしい。ということはトリチウムの危険性って濃度に左右されるのではなく(放射性物質一般と同じで)その存在に危険性が内在しているということだ、と私は理解した。
    この考えって間違いなのだろうか?

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