原発事故避難者の住まいの問題①「あべこべ裁判」

 原発事故が起き、避難指示が出なかった地域からもたくさんの人が、被ばくから身を守るために福島県内外へ逃がれました。区域外避難者(自主避難者)です。福島県はいま、首都圏の国家公務員宿舎で暮らす避難者に対して、宿舎からの立ち退きを求める裁判を起こしています。

 原発事故にかかわる訴訟は、住民側が「原告」となり、国や福島県、東電などを「被告」として、裁判を起こす例がほとんどです。事故を起こした責任や、事故後の対処の是非を問われるべきなのは、行政や企業の側だからです。

 しかし、今回の宿舎立ち退き訴訟は、県が「原告」となり、避難者を「被告」として訴えるという、「あべこべ」の状況になっています。

 裁判という強硬手段に出るのはいかがなものか、福島県は提訴を取り下げるべきだと、筆者(ウネリ)は考えています。(詳しくは、政経東北9月号の記事をお読みください→月刊 政経東北|note

 10月8日、この裁判の第3回目がありました。防戦一方かと思いきや、被告(避難者)側が原告(福島県)を訴え返す展開になりました。これまでの経緯も踏まえ、原発事故避難者の住まいの問題を数回にわたって報告します。


【これまでの経緯】

 福島県から訴えられている避難者は、合計4世帯です(8日裁判があったのは、そのうち2世帯)。

 福島県は裁判で、「①首都圏の国家公務員宿舎からの立ち退き」と「②未払い賃料の支払い」を求めています。

 これまでの行政の対応と、被告の1人「Mさん」の状況と合わせて紹介します(Mさんの状況は裁判での意見陳述などに基づいて書いています)。

2011年3月福島第一原発で事故発生。福島市や郡山市など避難指示区域外からの避難者たち(区域外避難者、自主避難者)に対しても、都営住宅や国家公務員宿舎などが無償提供される。
※Mさん:浜通りの避難指示区域外に住んでいたMさんは、知人たちから「原発が危ない」と聞き、勤務先の工場も閉鎖されたため、首都圏へ避難。東京都江東区にある国家公務員宿舎の一室で暮らすようになる。
2011年~原発事故の影響が長期化したため、福島県、区域外避難者たちに対する住宅の無償提供を続ける。
※Mさん:都内で新しく就職した会社が倒産。自身は心臓病にかかり、ストレスで精神的にも不調をきたした。心身不安定な状態で職探しができなくなった。
2017年3月末福島県が自主避難者への住宅無償提供を打ち切る。
2017年 4月住まいが確保できない避難者のための「セーフティネット事業」として、福島県は国家公務員宿舎の入居者に限って、公務員と同額の賃料支払いを条件に入居継続を許可する事業を始める。
※Mさん:福島県と「セーフティネット事業」の契約を結ぶ意欲はあったが、無職の状態では「公務員と同額の家賃」を支払えるか不安で、契約書にサインできなかった。
2020年3月福島県がMさんを含む国家公務員宿舎への避難者の一部を提訴。
2021年5月第一回口頭弁論
2021年8月第二回口頭弁論
2021年10月第三回口頭弁論

 県によると、現在、国家公務員宿舎に住み続けている避難者は合計32世帯です。
そのうち、「セーフティネット事業」の契約を結んでいなかった4世帯が、今回の裁判の対象になっています。
(10月11日17時追記※上の「32世帯」は、福島県が国家公務員宿舎の入退居に関わっている避難者の数です。支援団体の方によると、そのほか、福島県が入退去に関わっていない避難者もいるそうです。ウネリウネラには県側の説明がよく分からないので、今後さらに取材します。)


【裁判の展開】

 宿舎からの立ち退きを求められていた被告側ですが、10月8日の口頭弁論で「反訴」(訴え返し)を行いました。内容は以下です。

「(国家公務員宿舎の)不法占拠者として扱われ、いわれのない様々な嫌がらせを受けたばかりか、法の下の平等に反する不合理な差別を受け、筆舌に尽くしがたい苦しみを味わった。その精神的な苦痛の損害賠償を求める」

避難者1世帯につき、500万円の損害賠償を福島県に求めました。


【反訴の意義①:避難者の個別の状況を考える】

 この反訴の意義は二つあるとウネリウネラは考えています。一つ目は、避難者の個別の状況に目を向けさせる、ということです。

 この裁判ではこれまで、住宅立ち退き要求が法律問題としてどうか、ということが主な論点になっていました。それは法律論、制度論です。いま訴えられている避難者たちの気持ちや境遇は、「二次的なもの」として扱われていたように思います。

 しかし、避難者側が今回求めたのは「精神的苦痛への賠償」です。そうすると、避難者たちがこれまでどんな待遇を受けてきたのか、それによってどんなダメージがあったのか、が裁判のポイントとして加わることになります。この裁判が単なる法律論、制度論から、一人ひとりの人の顔を見て判断する人間的なものになることを期待しています。

 その際、反訴状にある「法の下の平等」がポイントになります。法の下の平等とは何か。避難者側の弁護団に入る柳原敏夫弁護士は、裁判後の集会でこう説明しました。

弱い人には弱い人にふさわしい形で、実質的な保護を与えるのが本来の「法の下の平等」です。形式的にぜんぶ一律に扱うのはむしろ、本来の「平等」に反します。たとえば避難者の都営住宅への入居が困難だという状況がありますが、「国内避難民」という立場にある人びとに対しては、むしろ一般的な入居条件を緩和することこそ、本来の平等と言えるのではないでしょうか。また、復興公営住宅を関東など福島県外に一軒もつくらないこと自体が、県外に避難している避難者たちに対して「法の下の平等」に反していると言えないでしょうか。

裁判後の報告集会での柳原弁護士発言

 この裁判だけでなく、いろいろな問題を考える時にとても大切な視点だと感じました。


【反訴の意義②:あべこべを正す】

 もう一つの意義はシンプルに、裁判の「あべこべを正す」というものです。

 冒頭に書いたように、避難者の支援に力を注ぐべき福島県が、避難者たちに裁判を起こすのは明らかにおかしい。「あべこべ」です。「行政→(裁判)→住民」という構図を正し、「住民→(裁判)→行政」にしていくべきです。その意味でも、今回の訴え返しは重要だと思っています。


【次回期日は11月29日】

 次の裁判では、福島県が避難者側の「反訴」にどう応じるかがポイントの一つになります。

 次回期日は11月29日です。この裁判、そして避難者たちの住宅問題については、今後もウォッチを続けていきます。次回は「相次ぐ民事調停」について報告します。


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