原発回帰は脱炭素につながるのか?

報道

 「回帰」とは、一周してもとへ帰ること。福島の原発事故からまだ12年しかたっていないのに、日本政府はもう「原発回帰」をはじめようとしています。いまの国会では、「原則40年、最長60年」だった原発の運転期間を「60年超」にのばす法律をつくろうとしています。

 みなさんはどう思いますか? ウネリウネラは原子力を扱うことに反対です。事故の危険や廃棄物の処分のことを考えれば、原発を発電手段の一つとすべきではないと思っています。しかし、日本政府はそのように考えてはいません。原発を選択肢の一つとしてとらえ、「温暖化対策、脱炭素のためには原発が必要」という立場です。

きょうはあえて日本政府の議論の土俵に乗り、「脱炭素のためには原発が有効なのか?」ということを考えてみます。5月19日、一般参加自由の学習会(主催:放射線被ばくを学習する会、共催:富山大学科学コミュニケーション研究室)で、東北大学教授の明日香壽川氏の話を聞きました。みなさんにも知ってもらいたかったので、シェアします。

※これから紹介するスライドは学習会で明日香氏が使ったものです。ご本人の承諾を得てお借りしました。文章自体は明日香氏の話を聞いた筆者(ウネリ)が自分なりに書いてます。すべての責任は筆者にあります。


原発は再エネより脱炭素に有効か?

 日本はいま、電力の約8割を石油・石炭・天然ガスなどの火力発電で賄っています。火力発電はCO2などの温室効果ガスを出すので、CO2を出さない発電方法に切り替えたい。そこで出てくるのが「原発」と、太陽光や風力などの「再生可能エネルギー」です。

 原発と再エネのふたつを並べて「脱炭素の効果」を考える場合、結局は「お金=コスト」の話になります。

 コストが低いほうに投資したほうが、同じお金で多くの電力を作り出せる。そのぶん火力発電を使わずに済む。なので、原発と再エネの「発電コスト(一定の電力をつくるために必要な費用)」や「温室効果ガス排出削減コスト(一定のCO2を減らすために必要な費用)」を比べてみる必要があります。また、原発の場合は「新しいものを建てる」のと「今ある原発の運転期間を延長させる」のとを分けて考える必要があります。

 ということで、コストの比較です。学習会では明日香氏がたくさんのスライドを用いて説明していました。ここでは筆者の独断でいくつかのスライドを紹介します。

明日香氏が学習会で使用したスライド

 明日香氏によると、これは経産省が住民説明会(@仙台)で使ったデータだそうです。データの出典はIEA(国際エネルギー機関)NEA(経済協力開発機構/原子力機関)です。

 この表は縦軸が発電コストです。1メガワット時の電力をつくるために米ドルでいくら必要か表の上にあればあるほど発電コストが高いことになります。左から4番目に「原発新設」、その次が「原発の運転延長」です。このデータを見ると、「原発新設」は再エネと比べて安くないけれども「運転延長」は一番安いんだな、という風に思うでしょう。

 しかし、明日香氏は次に以下のデータを紹介してくれました。出典は先ほどと同じIEAです。

明日香氏が学習会で使用したスライド

 この表は各電力の「温室効果ガス排出削減コスト」を示しています。表の上にあればあるほど、CO2を減らすための費用がかさむことになります。

 このデータを見ると「Nuclear new(原発新設)」は左上、60ドルの線近くにあります。CO2削減策としては高コストな部類に入ります。「Nuclear lifetime extension(原発の運転延長)」は真ん中の下あたりにあります。「陸上風力(山の尾根などにある風車)」や「事業用太陽光(建物の屋根に設置するタイプを除くソーラーパネル)」と比べてけっして安上がりではありません

 データの出典元は経産省が使ったのと同じIEAです。ヨーロッパ諸国を中心としたOECD(経済協力開発機構)の加盟国が作る組織で、日本政府が好んで使う「国際機関」です。

最新データで「コスパ」を比べると…

 しかも、上は2020年のデータですが、明日香氏はさらに2022年に発表された最新データを紹介してくれました。

明日香氏が学習会で使用したスライド

 この2年のうちに、2020年のデータでは、「事業用太陽光」はCO2を1トン削減するために20ドル近く必要でした。しかし22年版ではその費用は2.9ドルまで下がっています(技術が向上したり、原材料価格が安くなったりしていることが理由なのだと思います)。それに対して、原発の「運転延長」は17ドルで2年前とほとんど変わりません。

 脱炭素への「コスパ(費用対効果)」で考えた場合、原発の「運転延長」よりも「事業用太陽光」のほうが6倍コストがよい、ということになります。また、「陸上風力」の新設も「原発運転延長」と同じくらい効果があり、「原発新設」の効果は「洋上風力(海の上の風車)」の新設とほとんど同じ、ということになります。

原子力予算と再エネ予算

 くり返しになりますが、コストが低いほうに投資したほうが同じお金で多くの電力を作り出せて、そのぶんCO2など温室効果ガスの排出を減らすことができます。どちらかを選ぶなら原発よりも再エネのほうがよさそうに思います。

 見てきたのは国際データばかりです。日本国内の場合は制度上の問題などで再エネにはもっとお金がかかるのかもしれません。でも、だとすれば、原発に回帰するよりも、再エネの事業環境を整えることに力を入れたほうが断然いいのではないでしょうか。

 いま、日本では原発と再エネにどのような割合でお金が振り分けられているか。明日香氏が提示してくれたスライドは以下です。

明日香氏が学習会で使用したスライド

 上の折れ線グラフが原子力予算で、下の棒グラフが再エネ予算です。原子力のほうが多いです。原子力に使っているお金を、コスパがいい(もしくは同じくらいの)再エネにまわしたほうがいいのではないか。筆者はそのように思います。

再エネの限界は?

 核保有を目的としている国をのぞいて、再エネに力を入れるのは国際的な潮流だと思います。一方で、「再エネは天候に左右されて不安定では?」とか、「再エネで日本の電力を100%賄うのは無理なのでは?」という意見もあると思います。日本政府も原発回帰の理由として「脱炭素」とともに「エネルギーの安定供給」を挙げています。

 「再エネ不安定」説に対しては、明日香氏が最近執筆したレポート『今こそ知りたいエネルギー・温暖化政策Q&A(2023年版)』の内容を少し紹介します。

太陽光パネルは、晴れの日よりは少なくなるものの、雨の日でも日射があれば発電します。発電電力量は、(中略)曇りでは晴天時の 1/3〜1/10 程度、雨天では 1/5〜1/20 程度になります。(中略)また、再エネには、太陽光以外にも、風力、水力、バイオマスなどさまざまなものがあります。これらと蓄電池や省エネをうまく組み合わせて早期の再エネ 100%を各国が目指しています。

今こそ知りたいエネルギー・温暖化政策Q&A(2023年版)』(原子力市民委員会発行)

 「100%は無理」説に対しては、環境省の試算を紹介します。

出典:環境省(PowerPoint プレゼンテーション (env.go.jp)

 左の棒グラフが実際の年間発電量(10013億kWh/年)で、右が環境省が試算した再エネのポテンシャル(潜在能力)の最大値(26186億kWh/年)です。実際の発電量の2.5倍くらいは再エネで行けそうだ、という結果になっています。

 上の図では「洋上風力」の割合が多くなっています。先ほど書いたように洋上風力は温暖化対策のコスパ面では「原発新設」と同じくらいです。でも、もっとコスパがいい「陸上風力」や「事業用太陽光」などを頑張ればかなりのところまで必要な電力を賄える、ということだと思います。

 ちなみに、明日香氏が学習会で示してくれた表によると、日本は再エネの後進国です。

明日香氏が学習会で使用したスライド

ウネリウネラから一言

 筆者が5月19日のオンライン学習会で明日香壽川氏の話を聞き、皆さんとシェアしたいと思ったことを書きました。にわか勉強で至らない点がたくさんあると思います。ご教示いただければ幸いです。

 詳しい内容は本文中で紹介した書籍(オンラインで閲覧可能)や、明日香氏が参加する「未来のためのエネルギー転換研究グループ」「レポート2030」をチェックしてみてください。

『今こそ知りたいエネルギー・温暖化政策Q&A(2023年版)』こちら
未来のためのエネルギー転換研究グループの「レポート2030」こちら

     

     

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