【1号機圧力容器ぐらぐら問題】原子力規制委の議論

新着情報

東京電力福島第一原発の1号機で、原子炉の中心にある圧力容器が倒壊・落下してしまうのではないかと心配されています。5月24日に都内で開かれた原子力規制委員会でも、このことが生々しい言葉で議論されていました。オンラインで視聴した筆者(ウネリ)は、「やっぱり東電の説明はいまいち信用ならないな」とか、「本当に何かあった場合この委員たちが言っているくらいで済むのかな」とか、いろいろな感想をもちました。読者の皆さんとシェアしたいと思います。

※トップ画像は東電が原子力規制委員会に提出した資料から転載


1号機原子炉ぐらぐら問題とは

 原子炉の中心部分は核燃料が入っている圧力容器(RPV)です。圧力容器は「ペデスタル」という筒状の土台の上に乗っかっています。強引にたとえるなら、ガムテープの芯のところにラグビーボールが縦に乗っかっている感じです。ただ乗っかっているだけだと危ないので、「スタビライザ」や「バルクヘッド」などの棒で横揺れしないように固定されています。

原子炉の断面図。PCVは格納容器=原子力規制委員会の会合に提出された東電資料から引用

昨年からだんだん分かってきたのが、土台にあるペデスタルの下のほうがボロボロになっているということです。

ペデスタルは本来、鉄筋とコンクリートで強度を出していました。しかし、底から約1.3メートルの高さまで、コンクリートが溶け落ちて鉄筋がむき出しになっていることが分かったのです。

 今はなんとか維持できているようですが、たとえば大きな地震が起きて土台が壊れてしまったら、そこに乗っかっている圧力容器はどうなってしまうのでしょうか。大変心配な状況です。

ペデスタル内部のパノラマ画像=同上

東電の見解は?

この「圧力容器ぐらぐら問題」について、東電は4月14日に原子力規制委員会(特定原子力施設監視・評価検討会)で説明しました。その時のポイントは2つです。

  • 水平方向の移動(傾斜・転倒)は周辺部材(バルクヘッドなど)があるため、影響は限定的。
  • 垂直方向の移動(沈下)は可能性を否定できない。
ペデスタルがダメになった場合についての東電の考察=同上

 つっかえ棒があるから横には倒れないけれどドスンと下に落ちる可能性はある、ということのようです。ただし、東電はこうも言います。

  • ペデスタルの最下部には、鉄筋とは別に「インナースカート」という鋼板が入っている。このインナースカート(床上1メートルの高さがある)は今のところ無事である。
  • 仮にペデスタルが崩れても、インナースカートが食い止めてくれる。
  • ペデスタルが崩れるとしたら、鉄筋が露出している床上1.3メートルの部分である。
  • 沈下は(1.3ー1メートルで)30センチ程度にとどまり、周辺に被ばくのリスクを与えることはない。
沈下した場合の東電の考察=同上

原子力規制委の議論

 こうした東電の見解をどう受けとめ、どんな指示を出すか。これが5月24日の原子力規制委員会の議題でした。事務局である原子力規制庁があらかじめ原案をつくっており、それを修正するという流れで議論は進みます。

 まず紹介するのは杉山智之委員の発言です。杉山委員は「もんじゅ」を動かしていた日本原子力研究開発機構の出身です。

現時点で東電によって示されている見解は「下がっても0.3メートル。その範囲であれば開口はできないだろう」と。それは非常に楽観的というか。それならばもちろんいいんですけども、『なら大丈夫だ』と考えるのは難しいわけでありまして。じゃあそれが1メートルだったらどうなんだと。ちゃんとした評価をやろうと思ったらいろいろな前提とか不確かさがあってですね。今ここではそういうことではなくて、開口はできるものとして、その時に、非常に大きな穴が開くというのは考えにくくて、上部構造、圧力容器から格納容器を貫通して外に向かっている配管類、これに圧力容器がぶら下がるような形になると思うんですけども、その時に、どこかにメリメリっとすき間ができるとか、そういうことだと思います。

杉山智之委員

東電の見解は楽観的すぎるという指摘はいきなり印象的でした。沈下は30センチにすぎないから影響はないと断じるのではなくて、大幅に沈下した時にすき間(開口部)ができることを想定しなければダメだと。「配管類に圧力容器がぶら下がるような形」というのは、聞いていて怖くなりました。

 では、格納容器にすき間ができたらどうなるのか。杉山氏の発言は続きます。

(放射性物質が)継続的にビュービューと噴き出していくような環境はあまり考えられない。圧力容器の基層中に、通常から放射性物質が高い濃度で漂っているとも思えない。そのへんを、保守的に仮定すると言ってもなかなか難しい面があるんですけども。それでも一定の大きさの開口ができたとして、開口ができた瞬間(放射性物質が)ボワッと出てくる、そして出てきたらいきなり空の下、ではなくて建屋がまだあるわけで。建屋の気密性はすでに失われているとはいえ、天井のない場所ではない。ですから放射性物質が沈着したダスト(ちり)が出てきても、建屋内にまた沈着するということも現実的な話として期待できる。そういったことも踏まえて、敷地境界ではたして影響があるかどうか。それをはっきりしていただきたいと思います。

同上

 「すき間はできない」という東電の見解は楽観的すぎるから、格納容器にすき間ができたとして、どのくらいの放射性物質が飛び出してしまうのかを検討すべきだ、と杉山氏は言いました。

原子力規制委員会の中継動画のスクリーンショット

 さらに踏み込んだのが伴信彦委員でした。伴氏は医学博士で、放射線防護に関わってきた人のようです。

いま杉山委員が、敷地境界で影響があるかを評価してほしいということなんですけど、評価を行うことを否定するものではないんですが、じゃあ「敷地境界での線量がこれくらいになることが見込まれます」というような数字を東京電力が出してきたとして、それをそのまま受け入れることができるかというと、それは非常に難しいと思います。そもそも線源がどういう状態でどこにどのくらいあるのかということから分からないわけですから、そこにいろんな仮定を入れて、保守的とは言っても「数字はいくつです」というのをそのまま受けとめることはできない。そうだとすると、まず開口部ができてしまう、つまり圧力容器が下にずり落ちることによって格納容器貫通部の配管が恐らく損傷するであろうと。一番大きい配管は何かと言ったら主蒸気管ですから、主蒸気管が破損して開口部ができたとしたら。もちろん高温高圧ではないので継続的に大量のものが出てくるとは思わないですけども、そういったことが起きた時にその影響を軽減するために今何かできることがあるのか。それを特定してすみやかに対策を講じることが一番大事だと思います。評価を行うことを否定はしませんが、その評価結果にかかわらず対策を考える。で、その対策を実際に講じるということが、まず重要であると考えます。

伴信彦委員

分からないことだらけな中での「評価」など信用できない。最悪の事態に備えて「対策」を考えておくべきだ。筆者は伴氏の指摘をそんなふうに聞きました。

次に発言したのは石渡明委員です。日本地質学会長などを歴任した人のようです。石渡氏は事務局(原子力規制庁の竹内淳氏)に質問をしました。

石渡「一つ教えてほしいんですけど、資料の7ページとか5ページとかに格納容器の下のほうのスケッチがあるのですが、インナースカートというものの構造の材質は何で、厚さはどのくらいあるのか。教えていただけませんか」

竹内「聞いているところでは、これは炭素鋼相当のもので、厚さは約30ミリ程度だということです。」

石渡「30ミリ……。はーん。30ミリですか…」

竹内「はい。30ミリだという風に」

石渡「じゃあそんなに厚いもんじゃないですよね。はい分かりました。」

30ミリって、3センチのことですよね。これで圧力容器を支えられるのか……。筆者は不安になりました。

このあと委員長の山中伸介氏(元大阪大副学長)がまとめに入りました。

私もまず、格納容器に開口部ができたとして、環境中に放射性物質が放出されるかどうかを評価し、並行して対策を検討していただくと。それがまず最初かなと。そのうえで、並行して、ペデスタルの機能が喪失したとして、圧力容器、格納容器の構造上の影響がないかどうかを検討すると。まず最初の部分は、みなさんが一致したところだと思うんですけども。開口部ができたとして、影響があるかないか、対策はどうするんだ、ということを早急に東京電力には検討してほしい

山中伸介委員長

 これを受けて原子力規制庁は、6月上旬に予定している会合で検討結果を発表するよう東電に求める、とのことでした。

 最後、気になったのはこんなやりとりでした。

伴「確認ですけど、(東電に)評価を求めるのはいいんですけど、評価結果にかかわらず何かできる対策があるのか、それを検討したうえで講じることを会合で求めていくということでよろしいでしょうか?」

山中「(※事務局のほうを向いて)どうですか? 恐らく今できる対応というのは限られたものになろうかと思いますが、それも求めていくということで」

竹内「承知いたしました。資料(※原子力規制庁が作ってきた文案)では『評価の結果によって対策を検討することを求めることとしたい』としていましたが、『結果によらず、対策を検討する』ということで、承知いたしました」

 とりあえず、「評価してから対策」という2段階になって時間がかかるのは避けられたようで少しほっとしました。一方で、山中氏の「恐らく今できる対応は限られている」という言葉にはまた不安になりました。

【ウネリウネラから一言】

以上、「圧力容器ぐらぐら問題」についての原子力規制委員会の議論を紹介しました。東電の見通しが楽観的すぎることはよく分かりました。

今日の話では分からなかったのは、「転倒の恐れは本当にないのか」ということです。東電は、バルクヘッドプレートやスタビライザ、ストラクチャなどの部材に囲まれているため、横には倒れないという見立てなのですが、本当にそうなのか。そういった部材は今でも十分に強度があるのか。その辺りにも不安が残っている気がします。

それにつけても思うのは、「原発は手がつけられない」ということです。

土台がボロボロになっていることに気づいても、線量が高いので直接それを修理することもできない。圧力容器が転倒・落下した場合の影響を予想するのは難しく、そうなった場合に放射性物質が飛び散るのを防げるかどうかも自信がない……。

ある政治家は「原発がある以上事故が起こる可能性はある。事故があったからダメとなると、すべての乗り物を否定することになる」と語りました。しかし、事故が起きた時の大変さが、原発と自動車では違うと思います。

 こんな状況で、原発の運転期間を延長していいのでしょうか。女川原発の運転差し止めを求める住民の訴えを退けていいのでしょうか。

みなさんの意見を募集します

    コメント

    タイトルとURLをコピーしました