地裁判決を不服として高裁に進むかどうか。控訴期限を迎えた12月8日、遺族は最終的に「控訴しない」ことを決めた。本稿で多くを書くつもりはないが、判決が出てから2週間、悩みに悩んだ末の結論だということは知っておいてほしい。
前にも書いた通り、これから一番大切なのは新潟市水道局がどのように対応するかだ。この2週間、水道局の対応は遺族にとって「誠実」とは程遠いものだった。同じような態度を続けることは許されない。
水道局は本当に反省しているのか?
遺族は「水道局からは反省の気持ちが見えない」と感じている。象徴的な場面を紹介する。
11月28日。この日は水道局が「控訴しない」方針を明らかにした日だ。佐藤隆司水道局長が議会で発表した。その様子は亡くなった男性の妻Mさんも傍聴していた。
議会終了後、水道局長は報道陣の囲み取材に応じた。筆者は残念ながらその場に駆けつけられなかったが、後日、地元メディアの報道をインターネットで確認した。その様子をここで紹介する。文章として整えてしまうと大事なところが伝わらなくなるので、あえて水道局長が口に出したことをなるべく正確に再現する。
「職員が自ら命を絶つことにことに至ったことに、我々水道局として、まー、適切な対応をとれていなかったということについては、お詫び申し上げるということでございますし、」
(中略。編集者のカットが入る)
「これ以上、争う材料が、まあちょっとないかなと。ここで、まあ一応解決、させていただきたいという判断でございます。」
(ここで再びカット)
「遺族側に対しましては、えー私みずから、自宅などに行かせていただいて、えー、ま、謝罪させていただくということで考えております」
NHKニュースウェブから引用
この日、亡くなった男性の妻Mさんも市議会を傍聴に来ていた。終了後に報道陣からコメントを求められていた。記者たちから「まず水道局長のコメントをとるので、すみませんが、待っていてください」と言われ、Mさんは報道陣が局長を囲むのを遠くから見ていた。Mさんはこう話す。
「水道局長はニヤニヤしながら取材を受けていました。そして軽い調子で『これ以上争う材料がないでの控訴しません』と言ったのです。全然反省していない。こんな人から謝られても私は受け入れられない。そのように思いました」
水道局長はニヤニヤしていたのか。マスクを着けていたこともあり、ニュース映像を見るだけでは筆者には断言できない。しかし、「争う材料がまあちょっとないかなと」「まあ一応解決」「ま、謝罪させていただくということで」と言っていたのは私もはっきりと確認した。
局長がこんな態度をとるようでは、「水道局は真剣に反省している」と受け止めるのは無理だ。
遺族の求めには全然応じていない
水道局は先月28日に控訴しない方針を示し、賠償金を支払い(当たり前だが)、遺族に謝罪すると明言した。しかし、実際には遺族の求めに対して応じていない。
遺族側が現時点で求めているのは概ね以下のようなことだ。
①水道局長だけでなく、新潟市長や(安全配慮義務違反を指摘された)係長本人が直接謝罪すること。
②再発防止策について遺族側と協議すること。
③水道局がパワハラを否定する根拠として使っている内部調査の録音テープを開示すること。
④亡くなった男性の慰霊碑を建てること。
水道局は現時点で②については応じる姿勢を示している。しかし、①、③、④については、概ね以下のような返答だった。
①謝罪について
〈水道局の経営責任者たる水道事業管理者(水道局長)から謝罪すべきものと考えている。〉
③録音テープの開示について
〈職員によっては亡くなった男性に不本意な内容を話している部分もあり、職員とMさんの今後の関係を考えると、公表は難しい。〉
④慰霊碑の建立について
〈病気や事故などで命を落とされた職員は多く、個別の対応は難しい。〉
こうした対応が「誠実」と言えるだろうか。
そもそも、③と④の要求は、遺族が2019年時点で水道局に手紙を送り、求めていたものだ。水道局はその手紙に一切返事を書かず、放置していた。そして今回の判決言い渡し後、遺族が改めて出した要求に対する返答が、上記の内容である。
こうしてみていくと、水道局の対応は「不誠実」に「不誠実」を重ねたものと言えないだろうか。
裁判所から言われたから賠償金を支払い、嫌々謝罪するというのでは、遺族が納得しないのは明らかだ。水道局には猛省を求める。
(ウネリウネラ・牧内昇平)
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