東京電力福島第一原発にたまる「汚染水」(※政府や東電は「ALPS処理水」と呼ぶ)の海洋放出について、福島の月刊誌「政経東北」1月号に記事を書きました。今回は新たな観点です。タイトルと冒頭の文章を紹介します。(フリーランス記者・牧内昇平)
汚染水海洋放出 ‟強行したとして……” いつ終わるの? 専門家が指摘する盲点
政経東北2023年1月号
福島第一原発のタンクにたまる汚染水(「ALPS処理水」)について、筆者は「海洋放出は時期尚早だ」と考えている。だが仮に「強行」した場合、「いつ終わるのか」という疑問も投げかけたい。地下水の流入の問題だけでなく、足元では日々発生する汚染水中のトリチウム濃度が上がっているという事実も発覚しているからだ。
海洋放出を強行した場合の新たな‶不安要素”
政府や東電が海洋放出するのは陸上のタンクを減らしたいからです。しかし、仮に海洋放出したとしても陸上のタンクが減るとはかぎりません。
原発の建屋には地下水や雨水が毎日入りこんでいて、それらの水が毎日新たな「汚染水」になっています。2021年は1日平均130立方メートルの汚染水が発生しました。建屋に入りこむ地下水・雨水の量を減らさないと、いくら海洋放出しても陸上のタンクは減りません。
日々発生する汚染水の「量」の問題が、海洋放出を強行した場合の第一の課題になります。
政経東北の記事で指摘しているのは新たな視点、日々発生する汚染水の「濃度」の問題です。
日々発生する汚染水のトリチウム濃度が上がっていた
東電が昨年夏、福島県の会議で説明していた「海洋放出シミュレーション」は、日々発生する汚染水のトリチウム濃度を「20万ベクレル/リットル」としていました。たしかに昨年の春あたりはそれくらいで推移していたのですが、夏以降は濃度が上がっていて、「50万ベクレル」を超えていた時期もありました。これは東電自身が公表している観測データの数字です。
日々発生する汚染水のトリチウム濃度が高くなると、どういうことが起こるのでしょうか。
政府と東電は「年間のトリチウム放出量は22兆ベクレルを超えない」と約束しています。一方、「50万ベクレル/リットル」の汚染水が1日100立方メートル発生した場合、その汚染水中のトリチウム総量は1年間で18.2兆ベクレルになります。日々発生する汚染水を海に流すだけで放出量の上限(22兆ベクレル)に迫り、タンクに保管されている汚染水は流せなくなります。
つまり、もともと陸上のタンクを減らすのが海洋放出の目的だったのに、その目的を達成できないことになります。高濃度の状態がいつまで続くかは分かりません。しかし、汚染水の「量」だけでなく、「質」についてもこういう問題があることは知っておいていいと思います。
以上が、政経東北1月号に書いたことのあらましです。詳しくは実際の記事を読んでもらえればと思います。
なぜこの記事を書いたのか
筆者は「少なくとも現時点での海洋放出は時期尚早だ」と考えています。だから今回の記事も、「どんどん海に流して陸上のタンクを減らしてしまえ」という気持ちで書いているのではありません。
汚染水の「量」にしろ「濃度」にしろ、海に流した場合の安全性の問題も含めて、「不確かなことはまだたくさんあるんじゃないですか?」と言いたいのです。
もちろん、たとえ「不確かなこと」が残っていたとしても、決断が必要な場合はあるかもしれません。しかしその際は、不確かさを抱えた決断であることを人びとが納得している必要があります。政府や東電の海洋放出PRを見る限り、今はその逆です。
東電の「処理水ポータルサイト」はトリチウム濃度の上昇を伝えていません。経産省のテレビCMは「海洋放出に不確かなことなどない」という印象を人びとに刷り込もうとしています。
皆さまのご意見を募集しています
以上はフリーランス記者・牧内昇平としての意見です。もちろんこの意見を皆さまに押しつけようというつもりは全くありません。反論も異論もたくさんあると思います。ぜひ聞かせてもらいたいです。
私としてはここに書いているような意見を持っていますが、本サイト「ウネリウネラ」では海洋放出を支持する意見も反対する意見も公平に扱っていきたいですし、多様なご意見に触れる中で「自分の考え」ができていくものだと思っています。
皆さまのご意見を募集します。長いものも短いものも、なんでも大丈夫です。お待ちしております。
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