避難者の住まいを奪う判決【福島県が避難者を訴えた「あべこべ裁判」】

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原発事故が起き、たくさんの人が福島県外に避難しました。事故から10年以上たちましたが、放射線への不安などさまざまな理由で、今も避難先に残らざるを得ない人たちがいます。

国の避難指示が出ていない地域から避難した人は「区域外避難者」「自主避難者」などと呼ばれています。

福島県は2017年3月、こうした人たちに住まいを無償で提供するのをやめました。そして、首都圏の国家公務員宿舎で暮らす避難者たちに対して、家賃の支払いや宿舎からの立ち退きを求める裁判を起こしています。住まいという大事なセーフティネットを奪う「追い出し裁判」です。

また、この裁判は「あべこべ裁判」とも言われています。

原発事故にかかわる裁判は、住民側が「原告」となり、国や福島県、東電などを「被告」とするケースがほとんどです。事故を起こした責任や事故後の対応が問われるべきなのは、行政や企業の側だからです。しかし、今回は福島県が「原告」となり、避難者を「被告」として訴えるという「あべこべ」の状況になっています。だから「あべこべ裁判」とも言われているのです。


1月13日、この「あべこべ裁判」の一つが、福島地裁で判決を言い渡されました。

「主文。被告Aは福島県に131万円を支払え。被告Bは福島県に対し、建物を明け渡せ……」

小川理佳裁判長が判決を読み上げると、傍聴席からは「おかしいだろ!」「何やってんだ!」などと怒声がわき起こりました。

判決を言い渡されたのは、都内の国家公務員宿舎に避難していた2人です。そのうちAさんは昨年4月に他の場所に転居しましたが、Bさんは今も公務員宿舎に住み続けています。

判決はこの2人に対して、これまでの賃料(2人とも100万円を優に超える)の支払いを命じました。また、Bさんに至っては今住んでいる場所からの立ち退きも命じました。

避難者たちの弁護団は、2人が原発事故によって避難を余儀なくされた「国内避難民」であること、避難民には適切な住まいを保障するのが国際社会のルールであること、などを主張してきました。また、そもそも2017年3月に福島県の内堀雅雄知事が行った「住まいの無償提供打ち切り」自体が違法である、とも訴えました。

しかし、それらの主張はすべて、裁判長に退けられました。

判決後、Aさんは「今日の判決はおかしいと思っています。必ず控訴します」と話しました。福島まで来られなかったBさんも、控訴する意思を示しています。


この日法廷を傍聴した人が「おかしいだろ!」と叫んだのは、判決結果だけが理由ではありません。裁判の進め方が乱暴ではないかという疑問もあるからです。

昨年までの裁判で、避難者側は内堀知事などの証人尋問を求めました。なぜ、住まいの無償提供を打ち切ったのか。知事本人の口で説明すべきだと考えたからです。しかし、裁判長は証人尋問をしないと決めました。この決定に対して避難者側は反発。裁判長の「忌避」(交代させること)を申し立てました。

忌避申し立ては、福島地裁、仙台高裁によって却下されました。避難者側は昨年12月、最後のチャンスとして最高裁に「特別抗告」を行っています。この件についての最高裁の決定はまだ出ていません。その段階で判決を言い渡してしまうのは乱暴ではないかというのが、避難者を支援する人たちの考えです。

なお、被告本人とその弁護士たちは、この時点での判決言い渡しに抗議し、今日の法廷をボイコットしています。


福島県庁で避難者の住まいの問題を扱っているのは「生活拠点課」です。この課の担当者は判決後の筆者の取材に対して、「我々の主張が裁判所に受け入れられたものと考えている。判決が確定したわけではないので、今後の予定については答えられない」と話しました。

住まいを奪われるというのは、とても深刻なことです。市民をそうした状況に追いやった福島県は強く非難されるべきでしょう。少なくとも地裁段階では、福島県は裁判に勝ちました。しかし、勝訴と同時に得たものは「著しい信用の低下」ではないでしょうか。

さらに心配なのは「追い出し裁判」または「あべこべ裁判」がこの1件だけではないということです。

福島県生活拠点課の担当者によると、県が避難者に対して賃料の支払いや住宅からの立ち退きを求めて「法的対応」を行っているケースは、合計30世帯にものぼると言います。(法的対応とは裁判や民事調停のこと。準備中も含む)

こうした状況が本当に「あるべき姿」なのか。私たちは真剣に考える必要があります。

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