【原発事故汚染水の海洋投棄(放出)】政府「説明1500回」→根拠書類は全面不開示

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東京電力福島第一原発の事故汚染水について、政府は海洋投棄(放出)する前に「1500回の説明・意見交換を行ってきた」としています。いつ、誰に、どんな説明をしてきたのでしょうか? 

筆者(牧内昇平)は「1500回」の根拠となる文書の開示請求を行いましたが、経済産業省は「全面不開示」にしています。こんな対応で説明責任を果たしていると言えるでしょうか?


「説明1500回」実績アピール

政府が海洋投棄を始めた昨年夏、岸田文雄首相や西村康稔経済産業相(当時)は事あるごとに「説明を尽くす」とくり返していました。8月22日の政府文書には〈基本方針の決定以降、これまで 1,500 回以上の説明や意見交換を実施〉と書いてありました。「1500回以上の説明・意見交換」という実績が、海洋投棄スタートを下支えする役割を担っていたのです。

23年8月22日関係閣僚等会議:「東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所における多核種除去設備等処理水の処分に関する基本方針」の実行と今後の取組について(案)

本当に1500回も説明したの?

しかし、ここで疑問が生じます。政府が海洋投棄方針を決めたのは2021年4月13日のことです。そこから投棄スタートの23年8月までは約2年4か月しかありません。全部足しても850日くらいです。

そのあいだに1500回の説明・意見交換を行ったと政府はいいます。
1500÷850=約1.76ですから、土日も含めて毎日1~2回は説明会・意見交換会を実施したことになります。ちょっと多すぎないでしょうか?

政府はいつ、誰に、どんな内容の説明会・意見交換会を行ってきたのか。当然気になります。

「ALPS説明実績」書類は全面不開示

そこで筆者は、経産省(資源エネルギー庁)に対して、行政文書開示請求を行いました。2023年3月のことでした(当時政府は「1千回の説明を実施」と発表していました。この時点で筆者は疑問を感じ、開示請求を行っていました)。

【行政文書開示請求書】
日付:2023年3月27日
宛先:資源エネルギー庁長官
請求した行政文書名:ALPS処理水処分の基本方針決定以降、「約1千回実施した」(※)という農林漁業者、消費者、自治体職員に対する説明会についての実施報告書等。(約1千回の説明会の開催日時や参加団体、参加人数、政府側出席者、意見交換の内容など、説明会の概要が分かる文書)
※2023年1月13日関係閣僚会議での配布資料1に記載

2か月後、経産省から回答が返ってきました。

【行政文書開示決定等通知書】
日付:2023年5月26日
送り主:資源エネルギー庁長官
結論:不開示
不開示決定した行政文書の名称等:ALPS説明実績

「ALPS説明実績」についての行政文書が存在することは確認されました。しかし、それは全面不開示にするそうです。いわゆる「一部黒塗り」ではなく、文書自体を一切開示しないということです。理由については以下のように書いてありました。

不開示とした理由:該当する行政文書は、国が関係団体又は個人等へALPS処理水に関する説明等を実施した実績に係る情報がまとめられており、その全体が、公開を前提としない国と関係団体又は個人間における検討段階の未確定情報を含む調整過程の未成熟な情報であって、公にすることにより、発言者が不当に圧力をかけられ、発言を控えるようになる等、今後の資源エネルギー庁との率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ又は不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれがあること及び、今後、資源エネルギー庁と意見交換をしようとする者が、その発言が公になることをおそれるあまり、情報提供をためらう等のおそれがあり、その結果、資源エネルギー庁の事務又は事業に関係する様々な者から適時に幅広く情報収集を行うことが困難となり、その事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある。
経産省から届いた不開示決定通知書

政府は「説明実績についての説明責任」を果たしていない

こんな理由での不開示決定に納得できるでしょうか?

「発言者への不当な圧力」を心配するならば、参加者の氏名や所属する団体名などを黒塗りにすればいいだけの話です。全面不開示にする理由にはなりません。

個人名などのマスキング(黒塗り)なら納得しますが、全面不開示には納得できません。筆者は政府が嘘をついていないこと、1千回の説明会が確実に実施されたことを確認したいのです。たとえ一部が黒塗りになっても、1千枚の報告書が作られていれば、ああ実際に説明会は実施されたんだろうなと推定することができます。全面不開示ではそういう推定すらできません。

もちろん資源エネルギー庁の担当課に直接取材も申し込んでいます。「口頭でもいいから、これまでに実施してきた説明会の開催日時や場所などを開示してください」と求めました。しかし、担当者は「農林漁業者や消費者、自治体職員などの方々に実施しました」というような、大雑把な回答しかしませんでした。そんなことぐらいは公表資料に出ています。政府が言っている「1千回(最終的には1500回)」が正しいかどうかの確認にはなりません。

政府が「説明実績についての説明責任」を果たしていないのは明らかです。筆者は現在、経産省の不開示処分を不服とし、審査請求を行っています。

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