声を上げ続ける福島の農家たち <前編>

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福島の農民たちの、心の声を聞け――。
2011年3月に東京電力福島第一原発で事故が起こってからずっと、国や東電との交渉を続けている団体があります。福島県内の農家たちがつくる「福島県農民連」です。
12月19日に行われた国・東電交渉に同行しました。
その様子を前後編に分けて伝えます。(ウネリウネラ・牧内昇平)

農作業の手を休めて東京へ

朝6時、福島市内のとある駐車場。まだ真っ暗な中、一台の大型バスに灯りがともっています。
乗り込んでいるのは、福島市など県北部に住む農民連のメンバーたちです。

【福島県農民連とは】
農民連(農民運動全国連合会)の福島県組織。農民連は農家なら誰でも加入できる団体。税金の支払いや農作業中の事故、農機の共同利用など、なんでも相談にのる。

リンゴ、モモ、米、シイタケ。ふだんは田畑を耕している農民たちが、この日は仕事の手を休めて東京に向かいます。福島市から約90キロ離れた太平洋沿いの相馬市から来た人もいます。すでに一仕事終えてバスに飛び乗った人もいました。

バスが出発すると、会員たちがマイクを回して挨拶を交わしました。

「きょうは朝4時に起きました」

「この日のために、1週間リンゴの発送を多めにがんばってきました!」

桑折町に住む会員は力を込めて、こう語りました。

「闘う農民連は、ずっと交渉を続けてきました。解決しないこともあるけれど、とにかく言い続けることに意義があります。これを貫きたいと思っています!」

福島県農民連はこの日のためにバスを2台チャーター。福島市発のバスに27人、県中部の本宮市発のバスにも約30人が乗り込みました。会津地方(内陸部)や浜通り(太平洋沿い)から自家用車や鉄道で参加した人も含めると、福島から合計約70人が東京に向かいました。

官邸前で叫ぶ

5時間後の午前11時。2台のバスが東京・永田町に到着しました。車窓からは国会議事堂のピラミッド型の屋根が見えています。いよいよ、この日の活動のスタートです。

農民たちはここでバスを降り、国会の隣にある首相官邸のほうへ向かいます。警察官や政府職員、政治取材の記者たちが道を横切っていく中、官邸前にあるスクランブル交差点の一画に陣取りました(もちろん歩行者が通るスペースを空けて)。

のぼりばたやプラカードをかかげます。こんなことが書いてありました。

〈福島切り捨て許さない!〉
〈国と東電は責任をはたせ〉
〈汚染水を海に流すな!〉

福島県農民連の根本敬会長がメガホンを握りました。

「『原発は五重の防護によって安全です』と言っていた。しかし、事故によって五重の防護はすべて吹っ飛んだ」

聴衆が「そうだ!」と叫びます。

「『原子力は安い電気です』と言っていた。しかし、今となっては単価が最も高い電力ではないか」

ふたたび「そうだ!」の声。

『汚染水は漁業者の合意がなければ流しません』と言っていた。合意は得たの?」

「得ていない!」

集まった人々の声に後押しされ、根本氏のスピーチに力がこもります。

「自らの言葉の責任をとらない。だから私たちは許せない。だから信用できないんだ! 今すぐ原発をなくすしかない! 私たちは原発の息の根を止めるまで戦い続ける。それが福島で生き続ける証だ!」
「そうだ!」

参加者たちが一斉に声をあげました。

「すべての原発の再稼働、反対!」
「自然エネルギーを増やせ!」
「岸田政権と東電は海を汚すな!」

「原発をやめる方向で頑張ってください!」

午後1時、首相官邸近くにある国会議員会館で、国・東電との交渉が始まりました。
会場となった議員会館内のホールには、農民連の会員や関係者ら約100人が着席。官僚や東電社員と対峙しました。

農民連が最も力を入れて求めているのは「原発NO!」ということです。

原発事故の最大の教訓は原発を動かさないことである。脱炭素は原発再稼働ではなく、省エネと再エネの圧倒的普及で実現すること。既存原発の再稼働中止と新増設は実施しないこと。

12月19日付、農民連から政府・東電への申し入れ書

この「原発NO!」の要求に対し、経済産業省(資源エネルギー庁)の担当者はこの日、こう答えました。

経産省「資源エネルギー庁の政策目標は、電力の安定供給です。いま、再エネの導入をを一生懸命すすめております。ただ現状、化石燃料、石炭火力をなくして再エネだけでは、我が国の電力需要を満たすことができません。ですからある程度は原子力発電で賄う必要があると考えています。もちろん、原子力発電は危ないので利用量を減らすべきだというのはごもっともです。ですから、電源構成(発電量の電源別割合)の目標については、福島事故前の『30%』から『20~22%』に減らしております。以上です」

原発事故の苦しさを味わってきた福島県農民連のメンバーは納得がいきません。

農民連「危ないよ!」
経産省「皆さんが危ないとおっしゃるのはその通りだと思います」
農民連「絶対に安全という保証はあるんですか?」
経産省絶対というものは世の中にないと考えております。安全神話に陥らないで厳格な審査をクリアした原発だけ動かす、ということになっています」

会場には怒号が飛び交いました。

「無責任だ!」
「被ばくさせておいて、何を言ってんだ!」
「福島で事故に遭った人たちに向かって、20~22%だなんて、簡単に言わないでくれよ!」
農民連今動いている原発が事故を起こすんじゃないか。それが最大のリスクですよ。あんだけの事故を起こしておいて、原発を動かすなんて言わないでよ。事故が起きたら責任をとれるんですか?」
経産省「責任が取れるかというよりも、事故が起きないように最善を尽くすということです」
農民連「事故で大変な思いをしてきた人たちの前で、そんな無責任なことよく言えるね!」
農民連「日本だから世界中に『原発やめよう』と言えるんだよ!」

熱くなったボルテージをおさえるかのように、会員の一人が少し静かな口調でこう語りかけました。

農民連「ここに私たち福島県民がいる。事故で酷い思いをしてきた人たちを前にして平気でさ。『22%を確保する必要があります』とか、『原発がないと日本人が困ります』なんてさ。言っちゃいけないよ。どうやったら原発に頼らないエネルギー構成にできるか。そういう話をしてよ」

経産省の職員もそれまでの紋切り型の返答を少し変え、自分の言葉で話したように思いました。

経産省「福島の事故の後に都心で計画停電というものをやりました。我々東京に住んでいる者は電車がぎゅうぎゅう詰めになって、夜も暖房がつかなくて寒い思いをしました。こういったことは福島の皆さまが味わった苦労とは全然違うと認識しております。また、東京の人はこれまで福島に大変お世話になってきたにもかかわらず、そういったことを忘れて、いざ事故になって初めて福島のありがたみが分かったというのも、本当にそうだと思います。そういったことも含めまして、我々としては電力の安定供給を図っていきたいと考えております」

議題「原発NO!」の話し合いが終わると、席を立とうとする経産省職員に向かって、佐々木健洋事務局長が声をかけました。

「皆さん、ぜひ、原発をやめる方向で頑張ってください!」

会場からは大きな拍手がわき起こりました。


福島県農民連による交渉の第一回は2011年4月26日のことでした。
福島から約160人が上京。福島県外の農家も含めて合計400人が国・東電と交渉を行ったそうです。
13年近く経った現在も、継続して年に数回の交渉を行っています。

解決しないこともあるけれど、とにかく言い続ける――。
福島県農民連の歩みは続きます。

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