【原発事故汚染水の海洋放出】みなさんの声⑧:「ALPSで除去しきれない核種の量は?」

報道

 東京電力福島第一原発の事故で発生している汚染水の海洋放出について、読者のみなさんからいただいたご意見をもとに考察を深めたいと思います。今回のテーマは「ALPSで除去しきれない核種について」です。

【insight_hmさんのご意見】

トリチウム以外の核種について正確なデータを開示すべき

 政府は海洋への放出について、安全性は科学的に証明されているとだけの説明にほぼ終始している。ほとんどの国民はトリチウムのみが問題の焦点と理解していると感じる。
 政府はテレビ、新聞等を通じて、海洋放出するものには、トリチウム以外の核種も含まれること、そしてそれでも何故安全と判断しているかについて分かり易く具体的に説明すべきである。
 原発について、そのような説明態度をとらなかったこと、一部の閉じられた専門家だけで判断してきたことが、福島の取り返しのつかない人災を起こしたことを肝に銘じ、海洋放出について同じ轍を踏んではならない。

【八鍬収治さんのご意見】

処理水の海洋放出問題
 ロンドン条約を紹介してくれて、ありがとう。全く知りませんでした。明らかに、条約違反です。官僚お得意の詭弁をろうしているのです。
 核種でトリチウムだけが問題になっているが、アルプスで除去しきれていない核種が60以上ある。又、通常の原発の放水のものと、事故を起こしメルトダウンした原子炉から出る汚染水とは同等に考えられないと思う。条約違反をもっと、強く主張すべきと思った。

【ウネリウネラから】

 insight_hmさん、八鍬収治さんは、ALPSで除去できない放射性物質(核種)について指摘してくれました。このあたりを整理したいと思います。

ALPS処理後も残るトリチウム以外の核種

 「トリチウムだけはALPSでも除去できない」(≒ほかの核種はALPSで除去できる)。日本政府はそういうイメージを浸透させようと試みたり、直接的にそう言い切ったりしています(たとえば経産省職員による高校生への授業では「トリチウムだけは除去できない」と言い切っていました)。

 しかし、これは正確ではありません。実際にはALPSで処理した後にもトリチウム以外の核種が残ります。では、どんな核種がどのくらい残っているのでしょうか?

 東京電力は、無数にあるタンクのうち、「K4」「J1-C」「J1-G」の3タンク群(パイプでつながったタンク)について、汚染水中の核種を詳しく測定しました。測定対象にしたのは、残っている可能性があるとされる64の核種です。

 東電が2021年11月に作成した報告書から、3タンク群のうち「K4」の測定結果の一部を紹介します。※「K4」タンク群にあるのは、ALPSでの処理が終わり、海水で薄めて海に放出する直前の汚染水です。

核種の名まえ濃度(1㍑あたり)年間排水量年間放出量
トリチウム19万㏃1億2千万㍑22兆㏃
炭素1415㏃(同上)17億㏃
マンガン540.0067㏃(同上)78万㏃
コバルト600.44㏃(同上)5100万㏃
ストロンチウム900.22㏃(同上)2500万㏃
テクネチウム990.7㏃(同上)8100万㏃
カドミウム113m0.018㏃(同上)210万㏃
ヨウ素1292.1㏃(同上)2億4千万㏃
セシウム1370.42㏃(同上)4900万㏃
プルトニウム2390.00063㏃(同上)7万3千㏃
東京電力の「多核種除去設備等処理水(ALPS 処理水)の海洋放出に係る放射線影響評価報告書(設計段階)」を基に筆者作成

 表の左側はK4タンク汚染水中の「濃度」です。トリチウムよりも薄いとはいえ、他の核種も含まれていることが分かります。

 次に、表の右端にある「年間放出量(㏃、ベクレル)」を見てください。政府・東電の計画ではトリチウムの年間放出量の上限は「22兆㏃」です。トリチウムを上限いっぱいまで放出する場合、総放水量は1億2千万㍑となり、トリチウムと一緒にほかの核種も海に流されることになります。その量が示されています。

 骨に集積すると言われる「ストロンチウム90」が2500万㏃、半減期が1570万年の「ヨウ素129」が2億4千万㏃、「炭素14」が17億㏃、「セシウム137」が4900万㏃、「プルトニウム239」が7万3千㏃・・・。濃度はどうあれ、さまざまな放射性核種が海に流されることが分かります。

しかも「総量」が分からない

 深刻なのは「放出される核種の総量が分からない」ことです。東電が現時点で64核種を測っているのは「K4」を含む3タンク群のみでした。他のタンク群はセシウム137などの主要7核種しか測っていないようです。

 たとえば「K4」にあるタンクは合計35基です。福島第一原発の敷地内には1000基を超えるタンクがあるはずなので、現時点で64核種が測定できているのは、林立するタンクのうちのごく一部だということになります。

 「K4」など3タンク群以外の汚染水については、実際に放出する2カ月前にトリチウムとその他の核種を測る計画だと言われています。つまり、放出する核種の最終的な総量は海洋放出が終わる2カ月前にならないと判明しない、ということです。

限定的なデータによる影響評価

 以上のとおり、海に放出する放射性核種の総量は、現時点では全然分かっていません。したがって、現時点で行っている人体や生物への放射線影響評価も、限られたデータに基づいて出されたもの、ということになります。評価として十分なのかという疑念が生じます。

 日本政府は「濃度的には安全基準を満たしているから大丈夫だ」と言います。しかし、最終的な総量が分からないのですから、本当に大丈夫なのだろうか、代替案があるならそっちにしないか、と考えるのはおかしなことではないと思います。

※「K4」タンク群の測定結果については、国際環境NGO「FoEジャパン」事務局長の満田夏花氏のお話をベースにさせてもらいました。筆者は7月15日に福島県会津若松市内で開かれた満田氏の学習会で聞きました。満田さん、学習会を開催した市民の皆さま、ありがとうございました。もちろん本記事の責任はすべて筆者にあります。

ロンドン条約に抵触する可能性も

 いただいた投稿に戻ります。「政府はテレビ、新聞等を通じて、海洋放出するものには、トリチウム以外の核種も含まれること、そしてそれでも何故安全と判断しているかについて分かり易く具体的に説明すべきである」というinsight_hmさんのご指摘に共感します。

 海洋放出したい政府としては、国民に「トリチウムしか残らない」と思ってもらっていたほうが好都合なのかもしれません。しかし、本当に「理解」を得たいのならば、不都合なことこそきちんと伝え、議論を深めるべきです。

 八鍬さんはロンドン条約の記事についても言及してくれました。これはペンネーム「かなちゃんまま」さんからの投稿をきっかけに調べたものでした。八鍬さん、そしてかなちゃんままさん、ありがとうございました!

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