【汚染水海洋放出】国連人権理事会でも異論が噴出

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 東京電力福島第一原発にたまる汚染水(日本政府・東電は「ALPS処理水」と呼ぶ)の海洋放出について、国連の舞台でも「異論」「反論」が噴出しています。どの国がどんな指摘をしているか、紹介します。(ウネリウネラ・牧内昇平)

※本記事のきっかけは、市民団体「国内避難民の人権に関する国連特別報告者による訪日調査を実現する会」が4月14日に出したプレスリリースです。同会の発表内容を基に国連の文書の内容を確かめました。勧告の和訳も大いに参考にいたしました。同会のプレスリリースの詳細については本記事の後半で紹介します。


国連人権理事会による日本審査

国連には加盟各国の人権を守るために「人権理事会」という組織があります。人権理事会は定期的に、すべての国の人権状況を審査します(「UPR=普遍的・定期的レビュー」)。全加盟国が議論に参加する作業部会というものを開き、そこでの審査で問題点が見つかった時は、各国が審査対象国に「勧告」を出します。

日本に対する審査は今年1~2月に行われ、その結果、各国から合計300の勧告が出されました。

各国からの勧告

合計300の勧告のうち、原発事故に関連するものは17件でした。紹介します。

国名勧告のジャンル詳細な内容
中国海洋放出国際社会の正統かつ正当な懸念を真摯に受けとめ、オープンで透明性があり、安全な方法で放射性汚染水を処分すること。
コスタリカ放射線の影響クリーンで健全かつ持続可能な環境を守るという人権概念を憲法や法律に組み入れ、自然その他の災害の被害者に対する放射線の影響に対処すること。
サモア汚染水など放射性廃棄物放射性廃棄物が人体や地球環境におよぼす影響を最小限に抑えるために、(海洋放出の)代わりになる処分方法や貯蔵方法への研究、投資、実践を強化すること。
マーシャル諸島海洋放出太平洋諸島フォーラムから独自評価を依頼された専門家たちが求めるすべてのデータを、可及的速やかに提供すること。
サモア海洋放出福島第一原発の海洋放出計画について、包括的な環境影響調査を含めて、特に国連海洋法条約などに基づく国際的な義務を十分に守ること。
マーシャル諸島海洋放出太平洋諸島フォーラムによる独自評価が「許容できる」と判断しない限り、太平洋に放射性廃水を放出する計画を中止すること。
フィジー海洋放出太平洋に放射性廃水を放出する計画を中止し、太平洋諸島フォーラムによる独自評価について、フォーラム諸国との対話を継続すること。
フィジー海洋放出太平洋諸島フォーラムの専門家たちが放射性廃水の太平洋への放出が許容されるかどうかを判断するために、必要なすべてのデータを開示すること。
東ティモール海洋放出国際的な協議が適切に実施されるまでは、福島第一原発の放射性廃水の投棄に関わるあらゆる決定の延期を検討すること。
サモア海洋放出情報格差を含めて太平洋諸国が示しているすべての懸念に対処するまで放射性廃水の放出を控えること。人体と海の生物への影響に関する科学的データを提供すること。
バヌアツ海洋放出汚染廃棄物の安全性に関する十分な科学的エビデンスの提供なしに、福島第一原発の放射性汚染水や廃棄物を太平洋に放出、投棄しないこと。
パナマ健康影響小児がんを含めた原子力災害の健康影響を評価し、被ばくしたすべての人、特に女性や子どもたちに対して定期的に無料の包括的ケアを実施すること。
マーシャル諸島海洋放出太平洋の人びとや生態系を放射性廃棄物の害から守るために、海洋放出の代替策を開発、実践すること。
サモア避難者支援福島原発事故のすべての避難者たちへの尽力、支援を続けること。
チャド被災女性の支援原発事故の影響を受けた女性たちの経済的自立を助けるための取り組みを推進すること。
オーストリア避難者支援福島原発事故の避難者を国内避難民と認め、住居、健康、生活、子どもたちへの教育などの人権を保障すること。
バヌアツ避難者支援人びとが威圧や経済的強要なしに福島原発の周辺へ帰還する前に、国内避難民の安全、健康、権利に関する科学的エビデンスを提供すること。
国連人権理事会UPRレビュー作業部会報告書案から引用。筆者訳

海洋放出に対して11件もの勧告が出された

原発事故に関する勧告の半数以上が海洋放出についてでした。中国をのぞくと、勧告を出した国はすべて太平洋諸国です。フィジーやサモア、マーシャル諸島などが加盟する太平洋諸島フォーラム(PIF)は自分たちで科学者を集め、海洋放出についての独自評価を行っています。科学者たちが責任もって評価を行うための十分なデータが不足していると、PIF諸国は指摘しています。

日本政府は福島の漁業者たちに対して〈関係者の理解なしには処分を行わない〉と約束していますが、PIF諸国も「自分たちが納得するまでは海洋放出を控えるべきだ」と指摘しています。このことを忘れてはいけないでしょう。

PIF諸国は少なくとも現時点では海洋放出に強く反対している。画像は昨年12月に日本の市民団体「これ以上海を汚すな!市民会議」が開催した国際フォーラムで紹介された、マーシャル諸島出身のベディ・ラスゥレ氏の動画。

日本政府に勧告のフォローアップを求める

冒頭で紹介した通り、筆者にこの記事を書くきっかけをくれたのは、「国内避難民の人権に関する国連特別報告者による訪日調査を実現する会」が4月14日に出したプレスリリースでした。

プレスリリースによると、同会を含め、原発事故の避難者支援や放射能測定に取り組む15の団体は、国連人権理事会のUPR勧告に関連して林芳正外務大臣に要望書を出しました。

要望書の主な内容は「日本政府としてUPR勧告のフォローアップに同意することを表明してください」というものです。フォローアップというのは「勧告を受け入れ、状況を改善することを約束する」という意味です。今年の6~7月に国連欧州本部で人権理事会の本会議が開かれ、日本政府はその場で勧告のフォローアップに同意するかどうかを表明する予定になっています。その際、日本政府が国際社会に対して誠意ある対応をとるよう、15団体は求めています。筆者もそうすべきだと思います。

ダマリーさんの訪日調査について

「国内避難民の人権に関する国連特別報告者による訪日調査」については、本サイトでも何度か取り上げたことがあります。たとえば以下の記事↓

日本政府に数年待たされた挙句ではありますが、国連特別報告者セシリア・ヒメネス・ダマリー氏の訪日は昨年9~10月に実現しました。しかし調査結果について本サイトに書いておりませんでした(申し訳ありません)。

ダマリー氏は最終日の10月7日に日本記者クラブで記者会見を行いました。遅まきながら、その際に発表された報告書のうち「暫定的考察」に当たる部分を紹介します。

・(福島原発事故の避難者は、)強制避難か自主避難かを問わず全員が国内避難民であり、
他の日本国民と同等の権利権限を有する。実際に支援や援助を受ける上での強制避難や自主避難の区別は取り除くべきである。
・継続して避難生活を送る国内避難民に関しては、特に脆弱な人々への住宅支援と生計の状況や、受け入れ地域との社会統合も含め、基本的な支援を継続すべきである。国内避難民の権利履行を保証することは、避難先においても、最終的に帰還を選択した場合においても、社会的結束に大きく寄与すると考える。

日本記者クラブのサイトにアップされていた報告書の中から引用

ダマリー氏は先述した国連人権理事会の本会議で、最終的な訪日調査報告書を発表するといいます。

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