【ご意見ご感想】伝承館は何を伝承するのか~配置も対照をなす「ふたつの伝承館」~

報道

3月16日の本企画で、伝承館と請戸小の震災遺構について比較しました。

この記事に対し、福島市の元建築家・佐藤敏宏さんがご意見を寄せてくださったのでご紹介します。

佐藤敏宏さんからのメッセージ

題①: 配置も対照をなす「ふたつの伝承館」

メッセージ本文:
 3・11後「フクシマ」にできた「国+県」と「浪江町独自」の二つの伝承館。それらに目を向けこまかく観察比較し言葉に変換した記録を継続的に発信され、ありがとうございます。その姿に接し心強いことが起きたと喜んでいます。
■設置者の築造意図を自在に明かしたり隠したりできる新築の伝承館建築。訪れる者の記憶(小学校の体験記憶)によって、町の思いは発見しにくそうな請戸小。ふたつを比較し継続的に観察し検討し続けることの難しさがあります。ですが他者の視線と時間をかけるて生まれる自己の視線とにゆだねることで、その困難を克服できそうだと・・・このサイトに出会い感じるようになりました。
■今日は配置計画のことを投稿します。
(幸運にも)ふたつの施設はさほど離れていない土地に並んでいます。一方は原子発電所を隠すかのように、他方は原子力発電所を見ているかのように建っています。単なる建築物の配置を見ただけでもわかることは多くあります。配置にある意図を明らかにし伝承することも大切なことの一つだと考えます。
■ともに建築の2階に展示場をもっています。ですが展示物の質もふくめ(比較しやすい)おおきく異なるように感じます、それはなぜか?次の宿題とします。

震災遺構「浪江町立請戸小学校」ウェブサイト上の画像をウネリウネラが一部加工
双葉町の伝承館。南隣に4階建ての双葉町産業交流センターが建っている。

題②: 伝承館の平面円形のホールは展示側も見る側も使いづらいと思う

メッセージ本文:
■伝承館1階の円形ホールと斜路の意味と寸法について学芸員の方に問いました。私は初め、格納容器のデザインを模しているのかと考えましたが、「関係ない。デザインのことなので・・・」。推測ですが学芸員としては口出しできなかったのだろうなと受け止めました。

伝承館1階の円形ホール


■斜路と円形のホールは建築上の難点が多いと感じます。まず、2階の他の展示空間を圧迫してしまっていると思いました。もっと明快で単純な空間分節でよかったのではないでしょうか。(建築計画上の問題なので、当時の県の建築住宅課の担当者に会い、意図を聴取しようと思います)。
■2階展示場にも半円形デザインの展示室があります。「使い易いか?」と問うと同学芸員の方によりますと「最も使い難い。理由は6か所から投影し映像を結ぶ仕掛けなので、地震に遭うたびに投影機材が動きそして画像が乱れる。そのたびに調整しなければならない」

2階にある半円形の展示スペース

■また、斜路のタイムライン展示は登者からみて右側にある方が断然見やすいので、展示計画のミスかもしれませんね。円形斜路の左側にスリットを設えてありますが、鑑賞者(自分)が去ったあとの乱れた椅子が見えるだけですね、設計意図が不明です。
■ですから1階が展示で、2階が学芸員のためのバックヤードの方が、足腰の弱い方には断然鑑賞し易いと思いますが、皆さんの意見はどうでしょうか?伺いたいところです。

斜路のタイムライン展示

題③:伝承館の大きな玄関ホールの問題

メッセージ本文:
■伝承館の建物は海側(東側)が湾曲し、北に向かうほど幅が狭くなり通路と本棚になっている。これはだだっ広い芝生と青空の鑑賞のためなのか?と想える大きな硝子面。あれは上部が壁で回廊付きの展示壁であるほうがいい。鑑賞者が2階を巡遊できるデザインにすべきだったのでは?
■なぜなら、玄関ホールをイベントホールとして機能させる場合、回廊から見下げる視線が生まれ、イベント全体を見下ろせるからです。見られる視線が発生する。その効果は芝や空を見る硝子窓より断然優れているだろう。

伝承館1階のスペース
伝承館の建物案内図。海側が湾曲している。


■大きな玄関ホールの好例には「八戸市美術館のジャイアントルーム」があります。
※昨年6月に観に行ったとき、設計者に偶然会ったので聞き取り記録をつくりました(私が一方的に話しているんですが)八戸市美術館をたずね (fullchin.jp)

ウネリウネラから一言

佐藤さんは、伝承施設について、電力県福島がどのような事情で原発を誘致し3・11に至ったかを含め記録・展示すべきという立場で、震災の日からずっと考え続けていらっしゃるそうです。建築物としての配置にある意図や、建築構造が展示に与える影響などを考える視点は、大変興味深く感じました。

「(伝承施設を)継続的に観察し検討し続けることの難しさがあります。ですが他者の視線と時間をかけるて生まれる自己の視線にゆだねることで、その困難を克服できそうだ」と感じてくださったとのことをとてもうれしく思います。今後も多くのみなさんと意見交換していきたいと思います。

佐藤さん、ご投稿ありがとうございました。これからもよろしくお願いします。

引き続きみなさんからのご意見をお待ちしております。

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