内堀知事への質問状、その答えは?

報道

 避難者の現状を把握しているのか?
 知事と被災者・避難者の直接対話の場を設ける考えはないか?

 福島県による政策が原発事故の被害者・避難者を窮地に立たせているとして、この問題に取り組む3団体が、福島県の内堀雅雄知事に対して公開質問状を出した。福島県はどんな回答をしたのか――。(ウネリウネラ・牧内昇平)


県知事への公開質問状

 県知事に公開質問状を提出したのは、原発事故被害者団体連絡会(ひだんれん)「避難の権利」を求める全国避難者の会避難の協同センターの3団体。5月11日に質問状を提出したところ、23日に回答が返ってきたという。3団体が24日に福島県庁で記者会見を行って明らかにした。

 福島県知事 内堀雅雄様

 私たち被害者団体と全国で避難生活を余儀なくされている被害者は、(中略)被害者・避難者の実情を訴え、全ての避難者の暮らしを守る政策への転換を要請し、知事との話し合いを求めてきましたが、残念ながら誠意ある対応は得られませんでした。
 自らの決断による政策決定によって、多くの被害県民を窮地に立たせる結果を招いたうえ、県が被害者を裁判に訴え、被害者も司法の判断を求めざるを得ないという事態を前にして、なお被害者との対話を頑なに拒み続ける知事の姿勢は、本来住民を守る立場にある行政の最高責任者にあるまじき態度と言わざるを得ません。

(公開質問状より)

 3団体が公開質問状で特に言及したのは、「避難指示区域外からの避難者」に対する県の苛烈な政策だ。福島県は2017年3月末、こうした人びとに対する住宅無償提供を打ち切った。その後も避難先の国家公務員宿舎などに残っている人たちに対して「2倍家賃」の支払いを求めたり、立ち退き請求の調停や裁判を起こしたりしている。そうした仕打ちに耐えかねた避難者がやむを得ず県を訴え返す事態も起きている。

 こうした事態を心配し、3団体は7つの質問を県知事に対して行った。質問と県の回答結果を紹介する。(質問は一部割愛。回答は全文掲載)


質問事項1.知事の現状認識について

【質問①】

生活の基盤である住まいを巡って司法の場で争わざるを得ない事態を招いていることについて、県政の最高責任者としてどのような所感をお持ちか。

【質問②】

訴訟では知事による住宅提供の打ち切り決定の違法性が問われている。決定当事者としてどのような見解をお持ちか。

【質問③】

県当局が一貫して進めてきた立ち退き政策は、日本国憲法が保障する生存権に関わる問題であり、国際人権規約にも違背するのではないか。この点について政策決定責任者としての見解を。

【質問④】

上記3点はいずれも為政者、県政の最高責任者の根本を問われている問題です。知事には、これらの点について明確に説明する責任があると考えます。①法廷の場で説明する意思はあるか②県民全体に説明する場を設ける意思はあるか。


県の回答

【質問①~④に対する県の回答】

 応急仮設住宅の供与終了後においても、子ども被災者支援法に基づく公営住宅への入居の円滑化支援の実施や、本県が整備した復興公営住宅では避難指示区域外から避難された支援対象避難者も募集対象として拡大しています。
 また、平成29年3月末の自主避難者に対する供与終了時においては、低所得者に対する2年間の民間賃貸住宅家賃補助を実施したほか、国家公務員宿舎に入居し、低所得者など一定の要件を満たし転居先を確保できない世帯に対して、2年間の経過措置として有償で入居できることとした国家公務員宿舎セーフティネット使用貸付を実施しました。
 転居に応じていただけない場合など、やむを得ず民事調停などに至ったものがありますが、今後も未だ住まいを確保できない世帯に対しては、戸別訪問や現地での相談会等を通して、生活や健康といった個別課題とともに希望する住宅の条件を伺い、住宅確保移転サポート事業による物件紹介や物件探しへの同行のほか、必要に応じて福祉部門とも連携し、安定した住まいの確保など、引き続き、生活再建に向けた支援を行ってまいります。


「答えになっていない」

県の回答はこれまでやってきたことの経過説明のみです。残念ながら、全く質問に対する答えになっていない。

 ひだんれん幹事の村田弘さんは、24日の記者会見でこう指摘した。筆者も同意見である。たしかに、質問に対する回答になっていない。「県民と司法の場で争う事態をどう考えているか?」「違法性はないのか?」「説明の場をつくるのか?」

これらすべての質問に県は正面から答えていない

 村田さん自身、原発事故の影響で南相馬市小高区から神奈川県へ避難した原発事故被害者である。県と避難者がお互いに提訴し合っている状況を指摘し、こう話す。

皆さん、ちょっと考えてみてください。異常な事態だと思いませんか? この根本原因をつくったのは、(区域外避難者への住宅提供を打ち切った)福島県知事です。その政治的責任をどう考えるのか。

 同じくひだんれんの幹事で避難者の住宅追い出しを許さない会の代表を務める熊本美彌子さんも憤っている。

県の回答はあまりにもきれいごとです。「やむを得ず民事調停などに至ったものがありますが」などと書いていますが、実際は調停どころではなく、県は避難者を訴えました。私たちにとってまさに想定外でした。県知事は言葉の通り、”寄り添って”くれるものだと思っていたら、事実は違いました。こんな回答ではとても満足できません。


質問事項2.今後の方向について

【質問⑤】

新潟県が行ったような第三者による「検証委員会」を設けて、避難者の全体像と現状を把握し、これまでの政策を総括して新たな道を探る考えはないか。

【質問⑥】

相互の不信感を払しょくするため、私たちがこれまで度々要請してきた知事と被災者・避難者の直接対話の場を設ける考えはないか。

【質問⑦】

当面する住宅問題の対応として、「災害対応ケースマネージメントのスキルを持った専門家等に依頼して、個別の事情を勘案した解決策を模索したらどうか」という私たちの提案をいま一度真剣に検討し、具体化する考えはないか。


県の回答②

【質問⑤~⑦に対する県の回答】

 避難者の実態については、これまでも国、県、市町村共同による住民意向調査や、全国に設置している生活再建支援拠点による相談対応、戸別訪問などを通して把握しております。
 今後も、避難者に身近な避難先の自治体や関係団体、避難者支援に精通している支援団体、避難先自治体の福祉部門の専門機関などと連携を図りながら、避難者の実態把握に努めるとともに、引き続き個別化、複雑化した課題を抱える避難者に寄り添った支援に取り組んでまいります。


「県知事との間に深い分断がある」

 県の回答はまたしても、質問に対して正面から答えるものではなかった。「第三者による検証委員会を作らないか」「直接対話の場を設ける考えはないか」「私たちの提案を具体化する考えはないか」。質問はすべてイエスかノーで答えられるものだが、県は現在やっていることを説明しているだけである。

 「避難の権利」を求める全国避難者の会大賀あや子さんは大熊町から新潟県に避難している。24日の記者会見に出席してこう語った。

県外避難者への政策について、実態を把握して政策を検証していく仕組みが全くありません。新潟県では4年ほどかけて、避難者の実態についてぶ厚い報告書をまとめています。しかし、今回の質問状に対しては全く回答がありませんでした。福島県は被災当事県として、まだまだ課題が続いています。今からでもこれまでの政策を検証し、これからのことをきちんと検討することを求めたいと思います。

 同じく「避難の権利」を求める全国避難者の会宇野朗子さんは、「特に厳しい状況にある県民と、県知事との間に、深い分断があることを大変ショックに思います。この状態は解消されなければいけません」と語った。宇野さんは福島市から京都府へ避難している。

原発事故は収束のメドも立っていません。地震も多発している中で、緊急避難が必要な状況は今後も起こり得ると考えています。必要な場合に安心して避難できる、命を守る行動がとれる、長期にわたる避難を支える社会的な仕組みがない中で、悲鳴が上がっています。この声に今耳を傾けなければ、今後も同じような問題が生じると思います。

5月24日の記者会見の様子=福島市内、牧内昇平撮影

県の対応は誠実ではない

 もう一つ筆者が指摘したいのは、回答の中身以前の問題である。

 県が公開質問状に回答した経緯を紹介しよう。

 ひだんれん事務局の大河原さきさんによると、3団体は5月11日、福島県避難地域復興課に宛てて公開質問状を送っている。その際、「内堀知事に渡してほしい」と県に求めた。本来の回答期限は「5月20日まで」と設定したが、その日までに回答が届かなかった。このため23日朝に避難地域復興課に再び問い合わせたところ、上記の回答が送られてきたという。大河原さんによると、上の回答には「署名」がなかった。「内堀雅雄知事」という署名も「避難地域復興課長」という署名もなかった。要するに、上記回答は誰の責任で作られたものなのか、それをはっきりさせないまま、県は回答をよこしてきたのだ。

 この点をウネリウネラはとても問題視している。

 回答の責任者を明らかにしないのは、相手を軽視している証拠だ。とても失礼である。この回答が県としてよく検討した上での正式回答なのか、とりあえず軽い気持ちで書いてみただけのものなのか。それすら分からない。この回答に不服があった場合、3団体はどこに抗議すればいいのか。避難地域復興課か? でも避難地域復興課が「私たちは他の部署からの回答を伝達したに過ぎない」と言うかもしれない。こんな対応は失礼ではないか。

 筆者は県庁に確認した。どうやら上記の回答は、避難者の住宅政策を担当する「生活拠点課」が中心となって書いたらしい

 必死になって訴えている人たちに対して、回答者が分からないような書面を送って馬鹿にするような対応をとってはいけない。筆者はそう考える。


「あべこべ裁判」第7回口頭弁論

 この日は「あべこべ裁判」の口頭弁論も開かれた。福島県が、都内の国家公務員宿舎に暮らす「避難指示区域外からの避難者」に立ち退きを求めて訴えた裁判である。

 法廷後の集会で、前出の宇野朗子さんが話したことが心に残った。

「避難の権利」が全く保障されないまま11年が過ぎてしまいました。その象徴がこの裁判だと思っています。公開質問状の福島県からの回答には〈住宅確保移転サポート事業による物件紹介や物件探しへの同行のほか、必要に応じて福祉部門とも連携し、安定した住まいの確保など、引き続き、生活再建に向けた支援を行ってまいります〉と書かれていました。公開質問状への回答と、この裁判を提起していることとの整合性が、私の頭では理解できません。支援を最も必要としている人たちに対して福島県がこのような裁判を起こしていることを、福島県民や多くの人に知っていただきたいです。

関連記事】→原発事故避難者の住まいの問題①~⑤

       【あべこべ裁判】内堀福島県知事の証人出廷を求める – ウネリウネラ (uneriunera.com)

「あべこべ裁判」で裁判所前に集う支援者たち=5月24日、福島市内、牧内昇平撮影

 

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