先生の残業代裁判、25日に控訴審判決

報道

 「田中まさお」さんという人をご存知でしょうか(仮名ですが)。

 埼玉県内の公立小学校の先生です。田中さんは定年を目前にした2018年に大きなアクションを起こしました。教育委員会を相手に、残業代を求める裁判を始めたのです。

 公立学校の先生には特殊な給与制度があり、働いた時間の長さに応じた残業代が出ません。給与の4%に当たる「教職調整額」が固定で支払われていますが、1か月に数十時間も残業している先生が多い中では、実態に見合った金額とは到底言えません。こうした給与制度が「先生の働きすぎ」の温床になっているとも言えるでしょう。

 田中さんはこの制度に正面から異を唱えました。裁判を起こして自分の意見を正々堂々と主張しようと考えたのです。

 もちろん、数十年続いている制度を変えるのは簡単ではありません。提訴から3年後の昨年10月、さいたま地裁は田中さんの訴えを退けました。田中さんは諦めず、東京高裁に控訴しました。その高裁での判決言い渡しが、明日8月25日に予定されています。


 私(ウネリ)は裁判の初期に田中さんを取材しており、控訴審が結審した今年の夏、改めて田中さんにインタビューしました。(記事はこちらです↓)

「先生にも残業代を払って!」定年間際に裁判を起こした小学校の先生の思いと“何よりも求めるもの” | fumufumu news -フムフムニュース-
サラリーマンは1日8時間以上働くと「残業代」が出ます。でも、学校の先生には残業代が出ません。「給特法」という特別な法律があり、給料の4%にあたる「教職調整額」が支給されるかわりに、働いた時間に応じた残業代が出ない仕組みになっています。「これ...

 インタビューで最も印象に残ったのは、「『自由』を守るために裁判を起こしました」という言葉です。「本当にそうだなあ…」と深く共感しました。

 ここからは私見ですが、「自由」を守るためには「信頼」が必要だと思います。

 学校側(文科省、教育委員会、校長)が現場の先生を信頼していないため、さまざまな調査やアンケートで先生の働き方を監視しようとする。いろいろなルールを設けて先生の働き方を縛ろうとする。その結果、各先生にとっては本質的ではない「やらされ仕事」が増える――。そんな流れがあるのではないかと心配しています。先生の給与制度を決めている「給特法」という法律については廃止・見直しを求める声がありますが、その前提として「現場の先生への信頼」が不可欠だと私は考えます。

 そんな私の心配は、学校の先生たちから子どもたちへと広がります。学校側に信頼してもらえない先生たちが、教え子たちのことを信頼するのは難しいのではないか。「職員室」だけでなく「クラス」から自由がなくなり、その結果、子どもたちに本来備わっているはずの、自由に感じ考える能力が損なわれてしまうのではないか。

 当然その心配は、保護者である私自身にも返ってきます。私は子どもたちを信頼できているだろうか。取り返しのつかない失敗やトラブルを防ぎつつ、細かな失敗やトラブルには目をつむり、そうした経験の中で少しずつ成長していくのを見守ることができているのか……。子どもたちは自由だろうか。

 私は田中さんへの取材を通じ、「教育」や「子育て」について考えをめぐらせています。今後、田中さんの教育観についても、記事で紹介していく予定です。まずは25日の判決結果をウォッチしたいと思います(諸事情で東京まで判決を聞きに行けないのが残念ですが……)。


 田中さんの裁判に関心をもった方は、彼の公式サイトもご覧いただければと思います。裁判の資料などがアップされています。

埼玉教員超勤訴訟・田中まさおのサイト | 〜人間を育てる教員に、人間らしい働き方を〜 (trialsaitama.info)

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