もっと幅広く「みんなで知ろう。考えよう。原発汚染水のこと。」

報道

 政府・東電が福島第一原発にたまる汚染水を海に流そうとしています。この「海洋放出」に反対する市民団体は12月17日、アジア・太平洋の人びとが参加する国際的な意見交換会をオンラインで開きました。中国、韓国、フィジー、ミクロネシア連邦、北マリアナ諸島、テニアン諸島など、さまざまな国・地域で海洋放出への「反対」や「不安」の声が上がっていることが紹介されました。


「福島から海を汚してしまうことは本当に心苦しい」

 この国際イベントのタイトル名は「放射能で海を汚すな!国際フォーラム~環太平洋に生きる人々の声」。開催したのは「これ以上海を汚すな市民会議」(略称:これ海)という市民団体です。

 冒頭、「これ海」メンバーの武藤類子氏が発言しました。

原発事故を起こし、海洋に多くの汚染を広げた福島から、さらに汚染水を世界の海に流すことを、私たちは本当に申し訳なく、心苦しく思っています。海は地球に生きるあらゆる生き物の共有財産です。これ以上汚してよいはずはないと思います。今日のフォーラムが、福島第一原発にためられているALPS処理汚染水の意図的な海洋放出を止め、世界の海をこれ以上汚さないための、知恵を出し合う集会になることを願っています。

武藤類子氏

 武藤氏は、原発汚染水をめぐるこれまでの経緯を紹介しました。
▽原発事故後、汚染水の問題が深刻になっていること
▽政府は勝手に海洋放出することを決めてしまったけれど、一般市民への説明の場はほとんど設けられていないこと
▽放出する水には、トリチウム以外の放射性物質も含まれていること
▽たとえ海水で薄めても、海に流す放射性物質の「総量」は変わらないのだから、人間も含めて生きものたちへの影響が心配なこと

 そして、こう語りました。

この間、私たち市民はさまざまな活動をしてきました。東電との交渉、福島県など自治体への陳情、街なかでのスタンディングなどです。海洋放出のトンネル工事は8割ほど掘り進めたように見えますが、当初の計画からは確実に遅れています。漁業者をはじめ、私たち市民の活動、市町村自治体の動きが、多少であってもブレーキをかけているのかもしれません。あきらめないで、できることに最善を尽くそうと思っています。

武藤類子氏

核実験被害の島国から

 続いて、マーシャル諸島の出身で現在はフィジーで活動するベディ・ラスゥレ氏の動画が紹介されました。動画の中でベディ氏は、太平洋上で繰り返されてきた核実験の問題と重ね合わせて、日本政府が行おうとしている海洋放出への意見を述べました。

 1946年に米国はマーシャル諸島での核実験を開始しました。その後50年にわたり、フランス、米国、英国は315回以上の核実験を太平洋の各地で繰り返しました。マーシャル諸島沖の大気圏内で爆発した核爆弾の威力の合計は広島型原爆の7000個に相当します。太平洋の核被災者の島々で行われた核実験の影響で今でも身体と心、環境への傷を負っています。

 ロンゲラップの被爆者は家屋や水源に入り込んだ灰で遊んだと証言しています。彼らは石鹸かシャンプーと勘違いして頭につけたり子どもたちは雪だと思って食べたりもしました。数日後には髪は抜けはじめ、皮膚や体内は被曝しました。これらの地域の放射性降下物にさらされた人びとは白血病や甲状腺がんなどの罹患率が高いです。核実験の後に女性は高い率で流産し、出産後まもなくして息絶える、骨や眼球のない赤ちゃんを出産しました。

 マーシャル諸島のルニット・ドームには10万立方フィートの放射性廃棄物が保管されています。廃棄物を移動しなければ気候変動の悪化により新たな核惨事が起こる可能性があります。撤去するという約束を米国は忘れたのでしょうか。

ベディ・ラスゥレ氏 

「核」をめぐる太平洋諸国の被害は今も続いている。ベディ氏は動画でそう語った後、汚染水の問題に触れました。

 日本と東電による125万トンの放射性排水の太平洋への海洋投棄の決定にも反対です。私たちは核実験の悲惨な影響をよく理解しており、海や島、人々がさらに苦しむことを拒否します。リスクは大きすぎ、取返しのつかないことになります。

 核問題を学べば学ぶほど、この島と子どもたちの将来がとても心配です。息子にもう海で遊べないのよとか、娘に海から大好きな食事が作れないのよと伝えることは想像できません。

ベディ・ラスゥレ氏

アメリカ西海岸での市民活動

 次に話したのは、米国ロサンゼルス在住のつくる・フォルスさんです。つくるさんは、米国西海岸で実践している「海洋放出反対」の市民活動を紹介しました。

2021年4月の段階では、米国のメディアは「海洋放出は安全」という日本政府・東電の決定を支持する情報ばかりでした。しかし、今年に入ってその安全性に疑問を投げかけるような情報も出てきました。

私たちは今年の夏、ロサンゼルスのビーチでこの問題を伝える活動を行いました。海水浴にくる人たちは、きれいな海に関心を持ってくれるだろうと思ったんです。9割以上の人が話を聞いてくれましたし、そのうち6、7割の人は私たちの話に真剣に耳を傾け、関心を持ってくれたと思います。

つくる・フォルス氏

 つくるさんは、今後の課題として以下を挙げました。

▽米国の州や市議会のレベルで海洋放出に反対する決議を提出するよう議員たちを促す。
▽米国でも汚染水が問題になっている原発がいくつかあるため、その問題とリンクさせて市民に知らせる。
▽こうした市民活動を世界的に展開できるチャンスが必要である。
▽「ジェネレーションZ」と呼ばれる若い世代にこの問題を広めてもらいたい。


「東電のデータは信用ならない」

 科学者としてこのイベントに参加したのは、アルジュン・マクジャニ氏です。イベント主催者によると、マクジャニ氏は米国の民間研究機関「エネルギー環境研究所」の所長を務め、核燃サイクルや再生可能エネルギー関連の論文を多数発表している科学者です。海洋放出の問題についても今年の8月に複数の科学者と連名で提言を発表したそうです。

 マクジャニ氏はおおむね以下の点を指摘しました。
▽東電が公表しているデータは不十分である。
▽その不十分なデータの中でさえ、どう見てもおかしな点がある。
▽海洋放出の代替案が十分に検討されていない。

原発敷地内には1000基を超えるタンクがあり、東電はそれらをいくつかのタンク群に分けて管理しています。汚染水のサンプル抽出はそれらの「タンク群」ごとに30リットルのみしか行っていません。そのサンプリング数は、膨大なタンクの中身を知るには十分な量ではありません。

東電の計測では、2019年にテルル127という放射性物質が検出されました。しかし、このテルル127は半減期がとても短く、理論上は2011年の4月ごろにはなくなっているはずです。検出された理由を東電ははっきりと説明していませんが、私はなんらかの計測ミスがあったと推測しています。つまり、東電のデータは信用ならないということです。

日本政府と東電は代替案の検討が不十分です。▽地震に強いタンクを作って陸上保管する、▽ALPS処理後の汚染水でコンクリートを作る、▽バクテリアが化学物質を分解する機能を活用する、などのアイデアをもっと検討すべきです。

アルジュン・マクジャニ氏

太平洋諸国から「反対」相次ぐ

 その後、イベントの司会を務める「これ海」メンバーの片岡輝美氏が、オーストラリア、台湾、中国、韓国の市民たちによる「海洋放出反対」のメッセージを紹介しました。

 また、環太平洋の様々な地域では政府レベルで海洋放出への懸念が示されていることも、片岡さんが紹介しました。

日本ではあまりよく知られていないことですが、日本政府が海洋放出の方針を決定した2021年4月13日、太平洋諸島フォーラム(※)は日本政府との話し合いを求めました。それを皮切りにミクロネシア連邦やマーシャル諸島共和国、北マリアナ諸島などが次々と、海洋放出に対し「重大な懸念」を表明し、ミクロネシア連邦の大統領は「長年にわたり日本と国際関係を築いてきたが、今回の決定について日本政府から事前協議がなかったことに大きなフラストレーションを感じている」との書簡を発表しました。

私たちは経済産業省に対し、「なぜ事前協議を行わなかったのか?」と質問しました。すると、経産省は「事前協議が必要な決定ではない。各国でも放射性物質を廃棄する時に事前協議を行っていない。決定後すみやかに伝えた」という回答でした。私たちは、その考え方は各国に対して不誠実だと伝えました。

片岡輝美氏

※太平洋諸島フォーラムとは、オーストラリア、ニュージーランド、パプアニューギニア、フィジーなど15か国・2地域が加盟している地域協力機関。(外務省HPより)


「もっとマシな解決策はあるはず」

 講演者たちによるパネルディスカッションも行われました。ニューヨーク在住の弁護士井上まり氏と、原発事故避難者で「これ海」メンバーの宇野朗子氏も加わりました。以下、印象深い内容をピックアップします。

井上「つくるさんのお話を聞いて、米国でも身近なところから考えることが大切だと感じました」

つくる「私自身、トランスジェンダーとしての活動も行っています。海洋放出の問題についても、人権、自由など幅広い問題を扱うイベントで話していけば、関心を持ってくれる人がもっと広がると考えています」


井上「ニューヨークのハドソン川から汚染水が流れたらどう思いますか?というような声かけもいいかもしれませんね」


つくる「米国でしばしばいただくのが『そんなに危険なら、米国政府はどうして反対しないんだ?』という質問です。私は『米国も含めて世界中の原発から放射性物質が流されているので反対できないのだと思います』と答えています」


井上「日本政府が海洋放出方針を決めた翌日、米国のブリンケン国務長官は『日本の方針を支持します』と発表しました。もしかしたら米国が日本に海洋放出を進めるようにプレッシャーをかけているかもしれません。米国内はこれまで汚染水問題を真剣に議論していません。米国民にこの問題を伝えていくのがとても重要だと感じました」

宇野「マクジャニさん、先ほど話していた代替案について詳しく教えてください」


マクジャニ「コンクリートを作るには水を材料として使います。トリチウムが含まれている水でも、コンクリートとしては同じ品質のものができます。これを原発敷地内の設備とか、橋の橋脚部分とか、人が普段住まないところに活用する方法は可能性があると思います。もちろん、起きてはいけない事故が起きたのですから、『理想の解決策』はありません。でも、放射性物質が海に広がってしまう海洋放出に比べれば、『もっとましな解決策』はあるはずです。代替案を十分検討せず、海洋放出ありきという考え方に問題があります」

武藤「全世界の人たちが一致してアクションを行うというのは、とてもいいアイデアだと思いました。日本政府が海洋放出の方針を決めたのが21年の4月13日なので、私たちは毎月13日に反対を表明するスタンディングを行ってきました。来年4月13日に、世界的な共同行動ができたらいいなと思いました」


 主催側の発表によると、この日のイベントには世界各国から188人が参加したそうです。最後に、「これ海」共同代表の織田千代氏から挨拶がありました。

私は原発から50キロのところに住んでいます。美味しいお魚を大事にしていた地域でもあります。汚染水を流すという計画は、原発事故がもう一度起きるくらい大変なことだと思っています。

世界中から心配されているにもかかわらず、その声をふさごうとする動きもあります。でも、私たちは声を上げることをやめられません。次の世代にこの状態を手渡すことは我慢できません。できることは全部して、少しでもきれいな海を次の世代に渡したい。その気持ちをもって声を上げ続けたいと思います。

織田千代氏

【ウネリウネラからひと言】

 今回の国際イベントでは、ミクロネシアやテニアン島など太平洋の様々な国・地域が政府レベルで海洋放出に反対していることがわかりました。核実験の被害と汚染水の問題を結びつけたベディ・ラスゥレ氏のメッセージは聴く者の心に強く残ると感じました。

もっと幅広く「みんなで知ろう。考えよう。」

 経済産業省は今月半ば、「海洋放出に理解を求めるための本格的なキャンペーンを始める」と発表しました。実際その日からテレビCMが流れ、新聞の広告が入っています。経産省が使っているキャッチコピーは以下です。

「みんなで知ろう。考えよう。ALPS処理水のこと」

 しかし残念ながら、経産省のCMやウェブサイト、東電の「処理水ポータルサイト」などは、①海洋放出は必要、②「ALPS処理水」は安全、という2点を伝えているに過ぎません。要するに、政府や東電の「知ってほしいこと」を一方的に伝えているだけです。

 これでは、本当の意味で「知った」ことにはなりませんし、みんなが「考える」ことはできません。政府・東電の広報には「汚染水を海洋放出する」という「正解」があらかじめ用意されており、それに対して疑問を挟む余地が残されていないからです。これでは「考える」ことはできません。政府・東電の広報姿勢は、この件について人びとが「考える機会」を奪っています。

 汚染水をどうするかという問題は、「100%の正解」がない問題だと思います。さまざまな情報をもとに、一人ひとりが自分なりに考えていくしかないでしょう。

 そして現在、その「考えるための情報」が圧倒的に偏っています。先述した通り、政府が税金を使って自分たちに都合のいい情報ばかりを伝えているからです。したがってウネリウネラは微力ながら、反対意見、海洋放出への不安や怒りの声を積極的に伝えたいと思います。そうして初めて、本当の意味で、「みんなで知り、考える」ことが可能になるでしょう。

 もちろん、これは「海洋放出への賛成意見はシャットアウトする」という意味ではありません。賛否両論、さまざまな意見をお待ちしております。「理路整然とした主張」である必要はありません。「”意見”とまでは言えない”声”」「”声”にまでならないような”うめき”」。なんでもいいです。すべて歓迎します。そうしたものすべてを「知る」ことが、「考える」際の前提になると思うのです。

 原発汚染水、海洋放出問題へのご意見、ご感想をお待ちしております。

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