伝承館は何を伝承するのか~ウネリウネラの意見③(気になる「美談調」)

福島

 福島県内に昨年オープンした「東日本大震災・原子力災害伝承館」(伝承館)の「あるべき姿」を考えていきます。企画の狙いについては前の記事「企画のはじめに」をお読みください。

 今回書くのは細かいことかもしれません。異論のある方もたくさんいらっしゃると思います。ご一読いただいた上で、ぜひご感想をいただければ幸いです。


【ウネリウネラの意見③】

 伝承館の展示パネルを眺めていると、多くはありませんが、ところどころに「美談調」の文章が差し挟まれていることに気づきます。災害対策本部や避難所にまつわる「いい話」に触れた文章です。これらの文章は必要なのか、どういう意図で展示の説明として盛り込まれているのか、考えたいと思います。

 まずは、原発事故が起きた直後の行政の対応を説明しているパネルです。

<1-4 災害対策本部の記録> 福島第一原子力発電所の全交流電源が喪失するという緊急事態。東京電力から原子力安全・保安院への通報を受け、政府が原子力災害現地対策本部を立ち上げました。しかし、緊急事態応急対策拠点施設(オフサイトセンター)も被災し、その機能をほとんど発揮できなくなるなど、用意されていたマニュアルのとおりに事を進めることはできず、現場での活動は大きな制約を受け、緊急事態応急対策を実施することは困難な状況でした。この時、誰も経験したことのない事態に、全ての関係者が持ち得る知恵と情報を全て集結させ、対策に奔走しました。

 下線部分、なにやら某公共放送のドキュメンタリー番組のような、壮大な表現になっていますが、考えてみれば当たり前のことではないでしょうか。あの事態に対して<持ち得る知恵と情報を全て集結させ、対策に奔走し>ていなかったら、逆に問題なわけです。

 事故後の対応としては、文章の前半にあるオフサイトセンターが機能しなかったことや、SPEEDIのデータが消去されていたことなど、重要な課題がたくさんあるはずです。「災害対策のうち何が成功で何が失敗だったのか」「失敗はどうすれば防げたのか」などを考えることが大事だと思います。前掲の<1-4 災害対策本部の記録>の文章につづき、不十分ながらオフサイトセンターやSPEEDIについての検証パネルがあります。

 しかし、前段で<誰も経験したことのない事態に、全ての関係者が持ち得る知恵と情報を全て集結させ、対策に奔走しました>と書かれてしまうと、“行政の方々もがんばったんだし、これ以上失敗探しするのはかわいそうだ”という気持ちになってしまわないでしょうか? ひねくれた見方をするウネリウネラは、見学者にそのような感情が生まれることを狙っているように思ってしまいました。

「いい話」が課題を見えなくしていないか

 次に、住民たちの避難所での様子を説明する文章です。<●避難所の生活>とのタイトルがついた展示パネルにあります。

避難生活は、短期間で避難者の健康に悪影響を及ぼしました。突然の避難生活によるストレス、インフルエンザなどの感染症の蔓延、水不足によるトイレや入浴などの劣悪な衛生環境、偏った栄養状況などが主な原因です。また、家族や友人との離散などによる寂しさや、目に見えない放射線への不安等は避難者の心の健康にも大きな影響を与えました。しかし、このような困窮した状況の中でも、避難者同士、また避難所運営にあたった職員やボランティアが互いに協力し助け合う姿が各所で見られました。

 避難所で協力し、助け合うことは確かにすばらしいことだと思います。しかし、先ほどと同じように、考えるべきは「避難生活によるストレス」「劣悪な衛生環境」「偏った栄養状況」がどうして生じてしまったのか、改善の余地はなかったのか、ということだと思います。そうしたことへの検討はなく、<このような困窮した状況の中でも、助け合う姿が各所で見られました>という一文で結ばれてしまうと、“苦難を耐え忍んだ避難者のすばらしさ”だけが強調されてしまいます。「美談」にスポットライトが当たることにより、本当に目を向けるべき「課題」の部分がさらに目立たなくなってしまうのではないでしょうか。

外国の人との絆を強調する意味は

 最後に、3・11当時福島に住んでいた外国人の方に関するものです。<2-3 国内外の反応と支援>という展示エリアの中に、「英国から届いた子どもたちの手紙」という資料が紹介されています。子どものかわいらしいイラストが入った黄色い手紙ですが、フロアの真ん中、かなり目立つ部分にあります。展示を説明するパネルにはこう書いてありました。

英国から届いた子どもたちの手紙 これは、英国の子どもたちから双葉町の外国語の先生に送られた手紙です。この先生はいったん英国に帰国しますが、母親を説得し再び双葉に戻りました。双葉町の住民と先生の強いきずなが感じられます。

短い説明文で状況がよく分かりませんが、少なくとも伝承館が、この英国の先生の行動を「いいこと」として見ていることは明らかです。実際に、この先生は双葉に強い思い入れがあり、戻ってきたのかもしれません。しかし、自主避難した人たちがこの展示を見たらどう思うでしょうか?

 福島市や郡山市など「中通り地方」には、事故直後の放射線量が高かったにもかかわらず、行政の避難指示区域から外れた地域があります。その地域に住む人びとの中には、被ばくから身を守るため「自主避難」の道を選ぶ人がいました。一人ひとり、これまでの生活や地域との結びつきをどうするか、とても悩んだと思います。

 しかし、行政はこうした人たちに冷淡です。そしてこの伝承館でも、自主避難者の置かれた状況はほとんど取り上げられていません。逆に、この「英国の子どもたちの手紙」が、展示エリアの目立つ部分に飾られている状況なのです。

自主避難者へのフォローなしに「外国の人でも被災地に戻ってきた」という事象を殊更に美談として取り上げるのは、賛成できません。

※この手紙の展示についての考察は、福島市在住の高校教諭、渡部純さんから口頭でいただいたご指摘をベースにしています。ウネリウネラはスルーするところでした。ありがとうございます。

※ちなみに、この展示についてはそもそも趣旨が分からないところがあります。黄色い手紙の文面を見ると、子どもの字で<Dear Friend at Futaba>と冒頭にあり、原発のことをたずねる内容が書いてあります。英国の子どもが双葉の人びとを気遣っている手紙です。だとすると、これは”英国の子どもたちが双葉の人びとを思いやっている”ことを示す材料ではあるものの、<双葉町の住民と先生の強いきずなが感じられる>という説明文を付すのは無理があるのではないでしょうか。双葉町の住民と先生との間で交わされた書簡ではないので。

今回の検討は「提言」という大げさな形にはしませんでした。みなさんのご意見を待ちたいと思います。どうぞよろしくお願いします。


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※各エリアの展示文章はこちらの一覧にまとめています。→「伝承館は何を伝承するのか」

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