【原発事故汚染水の海洋放出】市民と経産省・東電の意見交換会(後半)

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 原発事故汚染水の海洋放出問題について、福島県会津若松市内で7月6日、市民と経産省・東電との意見交換会が行われました。本記事の前半では「陸上保管案」についての議論を詳報しました。ほかにはどんなことが話し合われたのかを紹介します。(文・写真/ウネリウネラ牧内昇平)

前半の記事↓


「海に捨てる放射性物質の総量は?」

 福島第一原発では毎日、地下水や雨水が壊れた原子炉建屋に流れこんでいます。そうした水は溶融した核燃料に直接触れたり、核燃料に触れていた水と混ざったりして「汚染水」になります。
(※だから通常運転している原発から出る廃水と、メルトダウンを起こした福島第一原発から生まれる「汚染水」とは意味合いが全く異なります。)

 汚染水を多核種除去設備(政府・東電などは「ALPS」と呼ぶ)で処理しても、すべての放射性物質が除去できるわけではありません。トリチウムが大量に残るのはもちろんのこと、炭素14(半減期約5700年)ヨウ素129(同1570万年)なども残ります。

 日本政府は「ALPS」で処理後の汚染水を海水で薄め、海に捨てようとしています。放出が終わるには少なくとも30年ほどかかる見通しと言われています。
(※そういうシミュレーションを東電はしていますが、実際にはどのくらいかかるか不明確ですし、日本政府はこの「終わる時期」について何も約束していません。核のゴミの処分法が定まらない原発のことを「トイレなきマンション」といいますが、これから政府が始めようとしているのは「ゴールなき海洋放出」です)。

 政府は「放射性物質が残っても海水で薄めるから安全だ」と言います。しかし濃度だけの問題ではないでしょう。数十年後までの放出量が全部でどのくらいになるのか。普通は気になるところです。

 7月6日の意見交換会では、主催した実行委員会のメンバーの一人がこの点を指摘しました。経済産業省資源エネルギー庁参事官の木野正登氏と東京電力リスクコミュニケーターの木元崇宏氏は、以下のように答えました。

実行委メンバー:大半の放射性物質を取り除くALPSを通しても、トリチウムほかストロンチウム90、ヨウ素129、コバルト60、炭素14などさまざまな放射性核種が確認されていると聞いてます。一つ目には、除去できない放射性物質の生物影響をどのように認識されているのか。二つ目には、放出しようとする処理水の総量と放射性物質の総量を明らかにしてほしいと思います。
経産省・木野氏:さまざまな核種が入っているということでございますが、これがちゃんと規制基準以下に浄化されているということです。こうしたものが含まれているという前提で、自然界から受ける放射線の量よりも7万分の1~100万分の1の被ばく量ってことです。これはトリチウムだけではないです。ストロンチウム、ヨウ素、コバルト、そういったものも含まれている前提での評価です。
東電・木元氏:総量については、これからしっかり測定・評価。処理した後の水を分析させていただきます。これが積み上がることによって、最終的な総量が分かるわけですけども、今の段階では、7割の水が2次処理、これから浄化する水が含まれておりますので、今の段階ではどのくらいとお示しすることがなかなか難しいです。浄化をした上で、積み上げながら、見通しを含めて立てさせていただくということになろうかと思います。
(中略)
司会者(実行委の一人)放射性物質の総量も分からないんですね? ひとつ確認させてください。
東電・木元氏:総量はこれからしっかり分析を続けてまいりますので、そこでお示しができるものと考えております。
会場から:遅い! どうしても海に流したいのか?

 経産省の木野氏は「総量」についてストレートに答えませんでした。東電の木元氏の回答によれば、「現時点では総量は分からない」ということになります。

 東電の木元氏が言うように、原発敷地内のタンクにある液体のうち約7割は、トリチウムをのぞいた放射性物質の量がいわゆる「基準」を超えています。
タンク内の汚染水の約3割は基準値の5~100倍の放射性物質を含んでいます。また、約5%は基準値の100~19909倍です。)

東電のポータルサイトを基に筆者作成。2023年3月末現在。

 こうした「汚染水中の汚染水」は、政府・東電の計画でもさすがにそのまま海に流せないので、今後さらにALPSで2回目、3回目の処理を行うことになっています。この2次処理が終わらないと、海に捨てる放射性物質の総量は分からないとのことです。
 「総量」が分かるのはまだまだ先、ということになります。(こういうのを「見切り発車」というのではないでしょうか?)

「『約束』は守るのか?」

 政府と東電は2015年、福島県漁連に対して「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」と文書で約束しています。漁連は汚染水の海洋放出に反対し続けており、もし今、政府・東電が強行すれば、約束を破ることになります。この点にも意見が相次ぎました。

参加者:木野さんにうかがいますけども、漁業者の方々との約束を「順守する」とおっしゃいましたね。あなたは政府を代表してここで答弁しているんですよ。漁業者との約束を「順守する」とおっしゃいましたね。
(※経産省・木野氏がうなずく)
参加者:はい、分かりました。ありがとうございました。
(※会場から拍手)
参加者:先ほど「約束を守る」という回答がありましたが、今日この場に高校生も来ております。大人だけでなく子どもたちも見ております。約束を必ず守ってください。
(※会場から拍手)
経産省・木野氏:まさに、順守をいたします。

 「約束を守る」ということは、6月28日の記者会見で松野博一官房長官も明言していました。木野氏も市民を前にして改めてこの考えを伝えたかたちです。市民からはマスコミに対するこんな要望もありました。

参加者:私はマスコミの方々にお願いがあります。先ほど「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」という約束を順守するということをおっしゃったので、私たち市民には「知る権利」というものがあります。マスコミの皆さんは自らの良心にしたがって、今回のことを記事にしていただけたらと思います。よろしくお願いします。

 他にも、参加者からは大事な指摘がたくさんありました。

「どうして福島なのか?」

参加者:県民感情として、これ以上福島をいじめないでください。首都圏は受益者負担を全然してない。この中で東京電力のお世話になっている人は誰もいませんよ。ここは東北電力の管内ですから。どうしても捨てたいならば、東京湾に持って行って、どんどん流してくださいよ。安全、安全と言うんであれば、なにも問題はないはずです。質問します。そういうことを考えたことはありますか? 他に持って行くことを。福島の人ならだませば「はい」と言ってくれるんじゃないか。東京は小池さんとかうるさい人がいますから、ちょっとやそっとではいかない。福島県の内堀さんはおとなしい人で、紳士ですから。そんななめたことはないと思うんですけども、(県外に持って行くことを)検討されましたか?
経産省・木野氏:放射性廃棄物を移すにはこれもまた許認可が要るんですね。
(※会場から怒号)
経産省・木野氏:またそのためには、向こうの住民とかの理解も必要なわけです。
会場から:福島への押しつけだ!
経産省・木野氏:はい、なので、我々はしっかり安全を守って放出するということで…
会場から我々は実験台ではない!
経産省・木野氏:実験でもなんでもなくてですね、安全をしっかり守るということでございます。

「原子力はやめてください」

参加者:原発は国家プロジェクトとして進められてきました。「安全である」ということで日本全国至る所に作りました。結果として、2011年に事故が起こったわけです。下手すると250キロ圏内は居住が不可能になっていた。それが奇跡的にあの程度で済んだ。国も電力会社も信頼は地に落ちた。だからまず、国の方は責任をきっぱりと認めることです。それなのに最高裁で争ってまで「責任はない」と言い逃れをしている。まずはきっぱりと責任を認めてください。そうでないと信頼がないんですよ。全部嘘っぱちに聞こえます。原発政策は失敗だったと断言すべきです!原発の配管の脆弱さを考えれば、もうやめてください。お願いします。
(※会場から拍手)
経産省・木野氏:まさに原子力を推進してきた立場としてですね、国も責任を持っていると思っております。なので、我々は廃炉・復興を進めるということでございます。それから原子力推進ということについて私がこの場でなんらかお答えできる問題ではございませんけども、日本のエネルギーを考えていくということも必要だとは思っております。
参加者:また事故が起こりますよ!

「自己責任で抱えていくことになりませんか?」

実行委メンバー:私の思いもお伝えさせていただきます。12年前の東京電力福島第一原発事故により、多くの人びとが生活を、そして命を奪われました。若い人たちが精神的にも、子育てや将来への希望を失い、行き場のない不安、悲しみ、怒りを自己責任で抱えていくことになりませんか? 連日の「安全・安心」報道の裏に、それがなかったかのように教え込まれているようにも感じます。人間と自然は一体です。自然をこれ以上破壊せず、守っていくことが、私たちの責任だと思います。子孫や未来の子どもたちが安心して住めるように、福島の自然、ひいては世界の自然を守るべきです。処理しているとはいえ、放射性物質が入っている水を長期的に、大量に、海に流す計画を中止することを伝え、私の意見とします。
(※会場から拍手)

「お金よりも子どもたちの健康、安全」

参加者:私は昭和17年生まれです。年も80を過ぎました。「お金」よりも「子どもたちの健康、安全」ですよね。金ではない。経済ではない。子どもたちが安心して生きられる環境をどう作るか。これが、あなたたちの一番の責任ではないのですか?

【ウネリウネラから3点】

市民側の要請で実現した意見交換会

 この会を主催したのは、海洋放出に関心をもつ市民たちがつくった「実行委員会」です。実行委メンバーの片岡輝美さん(会津若松市在住)によると、今年5月下旬から経産省・東電に要請し、6月9日に「7月6日夜なら参加できる」と連絡があったそうです。

 その後、実行委は6月27日に事前質問を送り、7月3日までの回答を求めました。政府・東電の回答を事前に受け取った上で、さらなる質問を準備したほうが議論を深められると考えたからです。質問は以下の5点でした。

  • 「ALPS処理水」は本当に処理されているのか
  • 「ALPS処理水」放出の安全性について
  • タンク保管の継続と増設について
  • 科学者や市民団体から出された代替案の検討について
  • 文書約束の中にある「関係者」とは誰か

 しかし事前質問を送った翌28日、経産省から「担当者の時間がとれず、事前回答はできない」との返答があったそうです。

 日本政府は海洋放出について「丁寧に説明する」とくり返していますが、7月6日の意見交換会は政府側の呼びかけではなく、市民側の要請で実現しました。このことは大切だと思います。また、経産省が事前回答を送っていれば、当日さらに議論を深めることができたと思います。

政府側からの「謝罪」はなし

 午後6時、意見交換会は実行委員会による「はじめの言葉」でスタートしました。その後、経産省・東電から約15分ずつの説明がありました。経産省・木野氏は特に謝罪などないまま説明をはじめました。

 東電の木元氏は自分が説明する番になった時、参加した市民たちに対して謝りました。

福島第一の事故から、まもなく12年と4か月が経過しようとしていますけれども、今なお多くの方々にご不便、ご心配をおかけしておりますこと、改めてお詫び申し上げます。

東京電力リスクコミュニケーターの木元崇宏氏

 この時、隣にいた経産省・木野氏はどうしていたのか。イスに座ったままでした。東電の木元氏が頭を下げた時、少しだけコクリと頭を上下に動かしましたが、その意味するところは分かりませんでした。

東電側が会場の参加者を撮影?

 東電による謝罪も、本心からのものかどうかは疑わざるを得ません。

 意見交換会の途中、会場から「写真を撮るな!」という抗議の声が政府・東電側参加者に飛んでいました。

 経産省の木野氏、東電の木元氏による説明に対して、会場の参加者が声を上げていた時のことでした。その場にいた複数の人の話によると、ステージ脇に着席していた東電社員の一人が、会場の参加者を撮影しようとしていたそうです。

 筆者が問い合わせたところ、東電・福島第一廃炉推進カンパニーの広報担当者はこのように話しています。

 ご指摘を受けて事実確認を行いましたが、当社の福島復興本社の社員が会場にスマホを向けたのは事実でした。「会場の様子を確認するためだった」と聞いています。スマホのカメラにあるズーム機能を使って会場の様子を確認したが、撮影は行っていないそうです。社員が具体的に何を確認しようとしていたのかは、聞き取っておりません

 当社社員の行動でご心配をおかけしたことはお詫び申し上げます。今後はこのようなことがないように徹底いたします。

東電・福島第一廃炉推進カンパニーの広報担当者

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