この企画は、2020年9月に福島県双葉町にオープンした「東日本大震災・原子力災害伝承館」(伝承館)という施設の「あるべき姿」を考えていくものです。企画の狙いについては、前の記事「企画のはじめに」をお読みください。
先日、福島県三春町にある「コミュタン福島」(福島県環境創造センター交流棟)に行きました。コミュタンがどんな施設かというと……公式サイトから引用します。
コミュタン福島は、県民の皆さまの不安や疑問に答え、放射線や環境問題を身近な視点から理解し、環境の回復と創造への意識を深めていただくための施設です。放射線やふくしまの環境の現状に関する展示のほか、360度全球型シアター、200人収容が可能なホールなどを備えております。コミュタン福島で得た学びや体験から得た知識や深めた意識を、子どもたちや様々な団体が共有し、それぞれの立場から福島の未来を考え、創り、発信するきっかけとなる場を目指します。
コミュタン福島公式サイト
「放射線やふくしまの環境の現状に関する展示」を見せるのがメーンだと思います。2016年にオープンした施設で、県内の小学生たちの社会科見学スポットになっています。今年3月に大規模リニューアルを行ったばかりだそうです。筆者は今回初めて行きましたが、正直言って「これでいいのだろうか……」と、違和感ばかりを持ち帰ってきました。数点書きたいと思います。
※トップ画像はコミュタン福島の外観(牧内昇平撮影)
コミュタン福島への違和感①過去をふりかえる視点がない
原発事故が起きたからコミュタンという施設を作らざるを得なくなりました。本当は事故が起こらないほうがよかった。それならば、なぜ原発事故が起きたのか。事故は防げたのか。そもそも原発は必要なのか。過去をふりかえってこういった疑問について考える必要があると思います。
ところがコミュタンには「過去をふりかえる」という姿勢が一切ありません。
展示エリアに入ってすぐのところには、福島第一原発の模型が展示されています。その近くの壁面には事故の年表が掲載されていますが、タイトルは「2011.3.11 14時46分からのふくしまの歩み」です。
模型と年表のエリアを通り抜けてメーンフロアに入ります。真ん中にドーンと立っている電光掲示板はデジタル式の時計です。筆者が行った時には「4414日01時39分40秒」とあり、「40」「41」「42」と刻々と表示が変わっていきました。お気づきの通り、2011年3月11日14時46分から経過した時間を表示しています。
コミュタンにある展示は”未来”っぽいものばかりです。施設全体からして、宇宙ステーションや先端技術研究所のような真っ白で無機質な空間です。「原発事故の教訓を得る施設は双葉町の伝承館だ」という指摘があるかもしれませんが、そんな風に「すみ分け」を行う必要はないと思います。コミュタンは小学生などが通う施設であり、小さい頃からきちんと原発事故というものについて考える機会を作るべきではないでしょうか。
コミュタン福島への違和感②放射線の知識は?
入り口からメーンフロアに入って右側に、放射線の知識を学ぶ展示があります。「ベクレルとシーベルトのちがい」「放射線量の測り方」など、基礎的な内容です。それはそれで大事ですが、気になるのは「被ばくは危険である」というそもそもの前提が伝わらない点です。
被ばくした場合の健康障害について、チェルノブイリ原発事故や原爆の犠牲者の方などのことは全く紹介されていません。未来の実験室のようなピカピカした場所で、ふだんは目に見えない放射線が「霧箱」という実験装置の中で飛んでいるのを眺めたりしてるだけでは、本質的な危険さが伝わってこないように思います。
また、福島の土地には今でも空間放射線量を測るモニタリングポストが必要で、子どもたちは学校でホールボディ・カウンタによる内部被ばく検査を受けています。そういう身近なことと被ばくによる健康障害との結びつきが、コミュタンの展示を見ただけでは分かりません。子ども向けの施設なのに、とてももったいないです。
※筆者が訪れた日、コミュタンが目玉としている「360度全球型シアター」(上下左右にスクリーンがある)では「放射線のはなし」という番組を放映していました。番組内のナレーションは、「放射線は体内の遺伝子を傷つけることがあります」と一言だけ話していましたが、基本的には「放射線はそもそも自然界を飛び交っています」というような話が主でした。
コミュタン福島への違和感③”遊び感覚”ばかり
入り口を背にしてメーンフロアの左側は今年3月にリニューアルしたエリアです。再生可能エネルギーや生態系について学ぶ場所のはずですが、さすがに「遊び」の要素ばかりで、これでいいのかと思ってしまいました。
フロアの真ん中には大量の砂を入れた箱があります。その砂を掘ったり、掘った砂で山を作ったりすると、頭上からライトで絵が投影されます。くぼんだところには水力発電所の絵ができ、山の斜面には風車の絵ができ……。投影された発電所から点線がのびます。この点線が「電力」を示していて、電力がある程度たまると、近くの壁に電車が写し出されて、その電車が走る……。
子どもには楽しいかもしれませんが、学べる部分が少なすぎないかと思ってしまいました。
”砂遊び”のとなりのスペースでは、おもちゃのルーペを使います。壁面に山林風景が映しだされていて、その中を動物のシルエットが動く。ルーペを持って待ち構えて、出現した動物のシルエットにルーペをかざすと、動物の正体(名前や生息地などの情報)が分かる、というアトラクションです。
うーむ……。
ちなみに、筆者の子も小学校でコミュタンに行ったことがあります。感想を聞いたところ「遊ぶ場所」という返事がありました。
コミュタン福島への違和感④ここでもイノベーション・コースト構想…
こうした”遊び”の要素ばかりの展示ですが、急に出てくるのが「イノベーション・コースト構想」です。「東日本大震災および原子力災害によって失われた浜通り地域等の産業を回復するため、新たな産業基盤の構築を目指す国家プロジェクトです」などと書いてありました。果たして必要な展示でしょうか。伝承館の展示エリアで大々的に喧伝されているイノベ構想ですが、コミュタンにも進出しています。3月のリニューアルでできた展示だそうです。
コミュタン福島への違和感⑤有名人に頼りすぎ
筆者がこの日「360度全球型シアター」で鑑賞した映像は、ナレーションを俳優の西田敏行氏と白羽ゆり氏が務めていました。来館者の感想・メッセージを読める電子パネルがあるのですが、そこには西田氏、白羽氏のほか、なすび氏や徳光和夫氏らのメッセージが掲載されていました。各メッセージには電子パネル上から「いいね」の意味で♡マークを贈ることができるのですが、一般の来館者の方のメッセージは0件が多かったのに対し、西田氏のメッセージには(内容は忘れましたが)「いいね」が9999件ついていました。帰るときに気づいたのですが、施設の入り口には有名人のサイン色紙が壁一面に貼り出されていました。いったい何をしたいのだろうと思ってしまいました。
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