[語る]核なき世界をめざして・田中煕巳さんのお話

報道

 広島と長崎に原子爆弾が落とされてから、76年目の八月が訪れようとしています。

 2017年に国連で採択された核兵器禁止条約は、50か国以上の批准を得て、今年の1月に発効しました。しかし日本政府はいまだに、この条約を署名・批准していません。13歳のとき長崎で被爆し、長く核兵器廃絶に取り組んできた田中煕巳さん(「日本原水爆被害者団体協議会」代表委員)の言葉を紹介します。


[田中煕巳 さんのお話]

 田中煕巳です。ご承知のように、核兵器禁止条約は50か国以上が批准すれば発効するということで、去年の10月にホンジュラスが加わり、今年の1月22日にめでたく発効しました。被爆してから76年、日本被団協を結成してから65年になります。被爆者は本当に長いあいだ、核兵器廃絶を求めてきました。廃絶のためにはまず条約を、と運動してきました。条約ができたのは大変喜ばしいことです。なんて言うんでしょうかね。「やった!」ということです。被爆者たちが長い間地道に運動して少しずつ変えていった。それがある日突然、爆発的な力になって、核兵器禁止条約になりました。「核兵器は人道に反する」ということが国際法上に明確に残されることになったのです。これはすごく大きい。私たちが核兵器廃絶を語る時に、国際的に認められている主張であると、相手を説得できるようになりました。このことではICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)にノーベル平和賞が授与されましたが、日本の被爆者たちの努力があったことは彼らも認めています。日本の被爆者の力は大きいものがあったと思っています。

日本政府は核兵器禁止条約を批准せよ

 でも、実際は核兵器禁止条約ができても、日本を含めてまだ署名も批准もしていない国があるわけですから、それを何とかしなきゃいけないというのが正直な気持ちです。核兵器を廃絶するためには、とにかく世界中の国がそれに取り組まなければいけません。条約を批准する国が増えていき、核兵器を持っている国がその意思を示すということが大事になります。それをどう進めるかを私たちは考えなくてはいけない。そのためにはまず日本、我々の国自身が批准をしていないわけなので、それをやらせるということが大事だと思います。

 どうして日本の国民は「核兵器を使わせない」ということになっていかないのか。やっぱり「日本はアメリカに守ってもらっている」という意識があると思うんです。けれども、「果たして何を守ってもらっているのか」という意識が、私の中にはありましてね。そこのところから議論していかないといけないという風に思っています。日本が戦争に負けた直後は米ソの対立、資本主義国と社会主義国との対立があって、日本人は社会主義国を嫌っていましたね。だからそれらの国から攻められたら嫌だという気持ちがあって、アメリカに守ってもらおうという意識があったと思うんです。そういうことで日米安保条約ができました。でもそれが慣れっこになってしまい、「安全保障とは何なんだ」ということをちゃんと議論しなくなったんじゃないかという風に、私には思えるわけです。

「戦争による安全保障」はあり得ない

 「戦争による安全保障」なんて、絶対あり得ないと思うんです。紛争や戦争を起こして、どちらかが安全になるなんて、絶対にないわけです。そういう風な気持ちをもつ。知識もそうですけど、気持ちがそうなっていくということが必要だと思います。

 戦争で犠牲になるのは人間です。一人一人の人間の命と権利が奪われるわけです。人間の命をどう守るかということを主題にして考えなければいけません。今の日本の政府がやっていることは、一人一人の人間の命を守ることにつながっているのか。そこのところを議論しないといけません。一人一人が話し合うという形で、運動にしていく必要があると思います。自分が年を取ってしまい、体を使って動き回るということをしないで、あまり言うのもおこがましいのですが……。対話を広げる。対話を広げながら、日本政府に条約参加を求める署名を集める、というのが大事だなと思います。

 生活をおびやかす軍事的な動きというのがありますよね。新聞なんかにはいっぱい載っています。そういうことについて考えながら、政府は「安全安心」なんて言ってますけども、外交の話のなかで「安全安心」と言う時、何の「安全安心」を求めているのかということに、関心を持つべきだと思います。そういう関心につながっていくような対話というのを、広げる機会がどうしても必要です。

競争社会をやめ、自由で考えさせる教育を

 先ほど、「戦争による安全保障なんて絶対あり得ないという気持ちをもつことが大事だ」と言いました。でも、若い人が自分の気持ちを直接に、ひとに言わなくなってきているという風に思います。競争社会になってきています。私は競争社会というのは、周りの人たちを敵にしてしまうものだと思っています。だから、相手に非を見せないために、自分の気持ちを言わないという風になってきているのかなと思います。競争社会というものをなくしていく。そして、お互いが信頼し合いながらコミュニティを作っていく、という風になってほしいと思います。そのためには対話が必要です。

 教育は非常に大事だと思います。こどもたちを自由にさせなければいけません。いろんな判断をお母さんお父さんが決めてしまえば、その子は自分で考えることを放棄してしまいますから。そういう教育がいま、日本に広がってしまっているように思うんです。「軽いけがだったらしてもいいよ」くらいの、自由な遊び方をやらせていくといいのかなと思います。勉強も、そんなにいろんなことを覚えさせなくていいと思うんですよね。覚えさせると、自分で考える力がなくなります。自分で考える時間をどんどん増やしていくほうがいい。

 私なんかが最近若い人と話していると、話の最後に、「これからどうしたらいいですか?」という質問があります。「そういう問題があるんですね。自分たちで考えてきます」とは言わない。「何をしたらいいんでしょうか?」と、必ずと言っていいほど質問があるんです。そういうとき私は、「何をしたらいいかは私が決めることじゃなくて、皆さんが考えることです」と言います。


[ウネリウネラから一言]

 「核なき世界」に向けて、教育を重視し、若い人たちに声をかけようとする 田中煕巳 さんのお話が胸を打ちました。自分たちのこどもとその友だちという、ごく狭い範囲ではありますが、ウネリウネラも日々こどもたちと接しています。その営みの一つひとつが、「核なき世界」を迎えられるかどうかにつながっている。大げさですが、そんな風に思いました。田中さん、ありがとうございました。

 この文章は、埼玉県平和委員会が行っているオンライン「ピースカフェ」で、7月13日に田中さんが話した内容を、ウネリウネラが再構成しています。ピースカフェに関心をもった方は、埼玉県平和委員会(saitama.heiwa@jcom.home.ne.jp)までご連絡ください。


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