「故郷を元に戻せ!」浪江町津島地区の人びとの裁判

原発事故が出した放射性物質に汚染され、地域がすっぽりと「帰れない区域」になってしまった福島県浪江町津島地区。住民たちは10年経った今も、故郷に帰れる見通しがまったく立っていません。この地区に住む640人の方々が国と東電に対して起こした裁判の判決が、30日に福島地裁郡山支部で言い渡されました。

判決言い渡し後、原告団がかかげた旗は「勝訴」でした。裁判所は事故を起こしたことへの国・東電の法的責任を認め、原告たちに合計10億円を賠償するよう命じました。

しかし、完全な勝訴とは言えないかもしれません。この裁判で原告たちが本当に求めていたのは、「お金」ではなく、『故郷の浪江・津島を元に戻してくれ」ということです。この「元に戻せ!」(原状回復)という訴えは、残念ながら認められませんでした。

なぜ、「元に戻せ!」は認められなかったのか?

当日の記者会見をもとに、「元に戻せ!」が裁判で認められなかった理由を筆者なりに書いてみたいと思います。原告たちが訴え、裁判で大きなポイントになったのは、以下の一点でした。

「津島地区全域の放射線量を低下させてほしい。国と東電にはその義務がある」

国と東電は津島をきれいにする「法的義務」を追うのかどうか、です。

裁判所はこの点について、

「原告たちの住んでいた土地(居住地)や、財産として所有していた土地(所有地)については、放射性物質の除去を求める権利がある」と認めました。

これは、かなり大きなことだったようです。原告団の弁護士は、

「原発事故をめぐって同じような『元に戻せ』という訴えをしてきた裁判はあったけれど、 「放射性物質の除去を求める権利がある」と認めたのは初めてだ」と言います。

でも、裁判所はそういう判断を示した一方で、結局は「元に戻せ!」という原告の主張を認めませんでした。理由は2つです。

①その「 放射性物質の除去を求める権利」は、原告それぞれの居住地や所有地に限った話であり、この権利を津島地区全域に広げるのは難しい。

②地域に広がる放射性物質については現在、国と東電が支配・管理している状況とは言えない。このため、彼らに地区の放射線量を低下させる義務があるとまでは言えない。

の2点でした。

「放射性物質への支配権が及ばない」とは?

特に②は「は?」という感じですが、原告団の弁護士の説明はこうです。

「たとえば、地域のゴミ捨て場に自分の家のゴミを不当に散乱させた人がいたとします。よくないことですが、これを『片づけろ』と裁判で求めるのは難しいです。たくさんのゴミの中で、この人がどのゴミを投げ散らかしたのか、判然としないからです。よその家のゴミまで片付けを命じることはできません。原発事故でも似たようなことが起きています。自然界にも放射性物質はあります。いま津島にある放射性物質のうち、どれが自然由来で、どれが事故によるものか区別することは困難です。『国と東電の支配権が及ばない』とは、そういう意味を指しています」

説明を聞いても「は?」という感じは残りました。こんなのは一般常識から考えておかしいですよね。自然な放射線もあるかもしれませんが、汚したのは国と東電だけなのですから、処理すべきです。

原告側の弁護士もそこは分かっていて、

「法律論としてはややこしいものがありますが、一般論としてはきわめて不自然な話です。一方で、今回の判決は 居住地や所有地についての請求権は認めました。ここを足がかりにして、運動を進めたいと思っています」と話しました。

裁判で法律論を突破するだけでなく、「とにかく元に戻せ!」というムードを社会全体に漂わせる必要があるのではないか。そう受け止めました。

国は真摯な対応を

もちろん国も「除染しない」と言っている訳ではありません。しかし、原告たちにとって、残された時間はそれほど長くありません。国と東電は、とにかく真摯に対応すべきです。

最後に、事故前までずっと津島で暮らしてきた今野秀則原告団長の言葉を紹介します。

「私たちが真正面からかかげて闘ってきた『我々のふるさとを返せ』という思い。これが認められなかったのは残念でした。これからも闘い続けなければならないと思いながら、判決を聞いておりました。このままでは引き下がれません。ふるさとが奪われたままでいいのか。これからも原告団はがんばります」

今野秀則原告団長

裁判の動きに注目したいと思います。

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