【裁判レポート】原発事故の責任を追及する「生業訴訟」②

 原発事故の責任を追及する運動は、今も盛んに続いています。5000人超の市民たちが原告団に加わる「生業を返せ、地域を返せ! 福島原発訴訟」、いわゆる「生業訴訟」は、7月1日、福島地裁で口頭弁論がありました。その様子をお伝えします。

一本目の記事→原告団に加わった伊達市在住、高橋さんの思い

 レポートの二本目です。この日の法廷では、担当する裁判長が人事異動で交代ということで、原告(住民たち)、被告(国・東電)の双方に対し、改めて主張を述べる「プレゼンテーション」の機会が与えられました。

 筆者ウネリは東電のプレゼンに強い違和感があったので、紹介したいと思います。


違和感があった東電の主張

 代理人の弁護士による東電のプレゼンは、40~50分ほど続きました。「原発事故を起こした責任」(責任論)には触れず、内容はすべて「住民たちへの適切な賠償額」(損害論)でした。(※ちなみに「責任論」については、これまでの裁判でも主に国が主張を展開する分野でした。でも、この日の法廷では、国側の弁護士はプレゼンをあえて行いませんでした。なぜでしょうか……。)

 ではまず、原発事故の賠償の仕組みをおさらいします。

 国の原子力損害賠償紛争審査会(原賠審)が「中間指針」を策定
   ↓ 
「中間指針」に基づき、東電が賠償基準を作成
   ↓
 東電が窓口を設け、被害者から賠償申し込みを受け付ける

 という流れでした。

 「中間指針」では、たとえば「避難指示区域」の人びとには最大で1450万円の慰謝料とか、福島市や郡山市など避難指示が出なかった「自主的避難等対象区域」の大人(妊婦をのぞく)には、主に精神的損害として一人12万円などと、賠償額が決まっています。

 この「中間指針」に基づく賠償基準が適切かどうかが、生業訴訟をはじめとする原発事故被害者訴訟のポイントの一つです。

 この点について、「中間指針を上回る金額は払いたくない」というのが東電の本音なのだと思います。

 ですから、この日の法廷で東電が強調したのは、「東電はすでに十分賠償している」という一点です。東電のプレゼンの中で、筆者(ウネリ)が思わず顔をしかめてしまったポイントを三つ紹介します。


ポイント①166万人の被害者が裁判を起こしていないから賠償基準は妥当?

 東電代理人はこのような趣旨のことを言いました。(法廷での発表内容を手書きでメモしているので、一字一句正確な内容ではありません。)

原発事故の被害者はきわめて多数にのぼり、166万人とも言われている。中間指針は、そうした被害者たちへの賠償が迅速に行われるために、裁判を伴わない自主的な紛争解決に資する指針として定められた。

いちいち被害者が裁判を起こしていたら大変だし、時間もかかるから中間指針をつくったと。それはそれでいいと思います。問題はこのあとです。

もしも、中間指針が被害の小さい方を前提に置き、最低水準の賠償額を定めたものならば、すでに多数の人が訴訟に発展しているはずである。だが、実際には、訴訟を起こしている被害者はごく少数である。訴訟の大量提起は回避されている。それは、中間指針が賠償の基準として機能してきた証拠である。

 分かりやすく言えば東電側は「住民たちの多くが訴訟を起こしていないのだから、みんな中間指針に不満はないはずだ」と主張しているわけです。これは、いくらなんでも強引ではないでしょうか。

 一般の人が訴訟を起こすには大変なエネルギーが必要です。日々の暮らしだけでも大変なわけですから。

 全国で起きている原発事故被害者訴訟の原告は、合計1万2千人ほどと言われています。これは「ごく少数」でしょうか。むしろこれだけ多くの人たちが裁判を起こしてまで抗議している、と考えるべきではないでしょうか。東電の主張は強引です。


ポイント②東電は賠償を二重三重に支払っている?

 次のポイントです。東電の代理人は以下のように発言しました。

被害者の早期救済の観点から、損害の詳細を確認せず、被害者にとって有利な算定になるよう、高い水準での「定額賠償」を行った。

東電側はさまざまな例を挙げてこの点を強調します。

南相馬市原町区のある被害者に対して、「住居の補修清掃費用」として定額の30万円を支払った。しかし、実際この人が家の清掃のためにかかった費用は、洗剤の購入費6400円だけだった。東電は、早期救済のために29万3600年も余計に賠償した。

富岡町のある被害者に対して、「家財賠償」として325万円を支払った。家財は、買ってから時間がたてば価値が下がるが、すべての家財は購入から一年以内という前提で損害額を出した。さらに、この人には避難先での家財購入費用として約124万円も支払っている。重複した賠償である。

こうして、「東電がいかに多く賠償してきたか」ということを列挙したのです。

 しかしこの点については、「特別払い過ぎた人だけを例に出してはいないか」という疑問がわきます。そもそも賠償を求めるための書類づくりはとても煩雑で大変なものだと聞いています。実際には、適切に支払われていない人、賠償をもらいそびれてしまっている人のほうが多いのではないかと思います。

 ずいぶん都合のいいプレゼンだと感じました。


ポイント③中通りの「精神的損害」はない?

 福島市などの中通りや、いわき市の大半などは、避難指示が出ない「自主的避難等対象区域」とされました。この地域の人びとの暮らしについて、東電側はおおむね以下のような見解を示しました。

この地域の空間放射線量は国が避難指示を出す基準(年間20ミリシーベルト)を大きく下回っており、放射線による健康への影響はなかった。行政も市報などでその安全性を広報しており、実際ほとんどの住民は避難せずに日常生活を送っていた。

 東電側は、いわき市内の保育園や学校が、2011年の春から入園式や復興イベントを行っていたことを例に挙げ、いかに当時の暮らしが「普通」だったかを主張します。そのうえで、こう言います。

自主的避難等対象区域の人びとに実際の法益侵害はなかったが、訴訟を回避するために一律で賠償を行った。たとえば、この地域に住む、父母と子二人の4人家族が避難した場合、合計168万円を支払っている。この金額は、福島県の世帯別可処分所得の4~5か月分である。

 この地域に住む人びとは、低線量被ばくのストレス下での生活を余儀なくされました(恐らく現在もそのストレスは続いていると思います)。そのため中間指針は、住民の「精神的損害」に対して一律の賠償が必要だと認定しています。東電は、そうした「精神的損害」の存在をすべて否定するのでしょうか。

 傍聴席のあちこちからため息が舌打ちする音が、低く響きました。事前に弁護団から「法廷では話さないでください」と指示が出ていたので、みなさん必死で感情を抑えていたのでしょう。それでも「やっぱり東電はつぶさなきゃだめだ」という小さなつぶやきがも聞こえました。


 以上が、筆者ウネリが法廷で違和感をおぼえたポイントになります。

 生業訴訟第二陣の次回弁論は10月26日です。この時には、東電の主張に対して原告側弁護士たちが反論するだろうと思います。注目したいと思います。

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