【イチエフ内過労死事件】判決の内容

報道

 「イチエフ内過労死事件」の福島地裁いわき支部判決の内容について、詳しく書きます。

事件の概要

 亡くなったのは、福島県いわき市在住の自動車整備士、猪狩忠昭さん(当時57)です。猪狩さんはいわき市内にある車両関連会社「いわきオール」に勤め、東電福島第一原発(いわゆるイチエフ)の中で、放射能に汚染された車両の整備をしていました。2017年10月、猪狩さんはイチエフ内で急に体調を崩し、まもなく亡くなりました。死因は「致死性不整脈」でした。

イチエフ内で作業していた時の猪狩忠昭さん=遺族提供

 遺族側が調べた結果、いわきオールからイチエフへの移動時間も含めると、亡くなる前の1カ月間の時間外労働(残業)は100時間を超えており、いわき労働基準監督署から仕事が原因の「労災」と認められました。

 ご遺族は、社員の健康管理を怠ったとして、いわきオールなどを訴えました。また、直接の雇用関係はなかった東電に対しても、イチエフ内での救急医療体制を十分に整備しなかったこと、そして、猪狩さんが亡くなった当日の記者会見で「遺族を傷つける発言」をしたことへの慰謝料を求めていました。

 いわきオールや東電ホールディングスへの損害賠償の請求額は、合計で4300万円でした。

判決の内容

 結論から言うと、福島地裁いわき支部は「いわきオール」と当時の経営者の賠償責任を認め、ご遺族に対しておよそ2500万円を支払うように命じました。

 一方で、イチエフの最終責任者である東電ホールディングスや、猪狩さんが働いていた車両整備工場を管理していた「宇徳」という会社の賠償責任は認めず、遺族の請求を棄却しました。

 猪狩さんは「いわきオール」の社員でしたが、実際に主に働いていたのは、「東電」が最終責任をもつイチエフ内の、「宇徳」が管理していた車両整備工場です。こういう関係を「多重請負構造」と言いますが、多重構造の上のほうに位置する発注元(東電)や元請け(宇徳)の賠償責任は認められない、という判決結果でした。

いわきオールについて

 まずは「いわきオール」について説明します。

 地裁いわき支部判決は、いわきオールがタイムカードによって猪狩さんの出退勤時間を把握していたことなどから、「長時間労働の事実はもとより、相当程度の肉体的、心理的負荷を受けていたことを容易に認識できた」と指摘。

 会社やその経営者が社員の健康を守る義務を怠ったと認定しました。

東電について

 東電ホールディングスについては、もう少し説明が必要だと思います。遺族が「尊厳を傷つけられた」と主張しているのは、以下のような経緯があったからです。

 猪狩さんが亡くなった2017年10月26日、東電はちょうど、廃炉作業についての記者会見を開いていました。その会見の中で、東電の発表者は猪狩さんが亡くなったことに触れ、このように語りました。

「休憩があけて仕事に向かう途中のことでありましたので、直接的な作業との因果関係はないという風に考えております」

 当時、猪狩さんの妻、茜さん(仮名)は搬送された病院に急行している最中でした。

 きちんと調べもしないうちに「作業との因果関係はない」と東電が発表していたことを後日知り、茜さんは深い怒りと悲しみに襲われた、と言います。

 これについて、地裁いわき支部判決は、「東電は現時点での見解を述べたにすぎず、イチエフにおける作業との因果関係がないとか、過労死ではないと断定したものとは理解できない」と指摘。「原告が不快の念を抱いたとしても、社会通念上甘受すべき限度を超えるものではない」として、遺族の請求を退けました。

通行人に裁判のチラシを配る猪狩茜さん(仮名)=3月13日、いわき市内、牧内昇平撮影

判決後の記者会見

 妻の茜さんは判決後、いわき市役所で記者会見を開き、以下のように話しました。

「東電と宇徳が全く責任を負わなければ、今後も多重請負構造による責任逃がれが続くと思います。これから何十年続くか分からない原発事故の収束作業で、犠牲になるのは現場の作業員です。元請けの宇徳と発注元の東電がなにも責任は問われない、ということがあっていいのでしょうか? 今回の判決には納得がいきません。原発事故がなければ、夫は過労死しなかったと思います」

 遺族側弁護士は「判決には不満が残る部分がある」とし、控訴も含めて検討する方針です。

判決後、いわき市役所で記者会見に臨むご遺族=牧内昇平撮影

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