福島県の内堀雅雄知事は、毎年3月11日に合わせて「知事メッセ―ジ」というものを出します。毎年のメッセージの内容は、県庁のHPから確認できます(動画も)。たとえば2020年は、こんな内容でした。

・震災から9年。復興が着実に進む一方、根深く残る風評や薄れゆく関心の裏で、私たちはいまだ様々な課題を抱え、復興には長い時間がかかります。
・多くの優しさに支えられながら一歩ずつ復興への歩みを進める中で、私たちは自分たちもまた誰かのために何かしたいという思いを強くしました。
・震災により突然日常を奪われた私たちだからこそ、震災を知らない世代に震災から学んだこと、災害は他人ごとではないということを伝えていかなければなりません。
・オリンピックで世界中から多くの方が訪れるこの時に、福島を支えてくださる方々に感謝を伝え、福島が希望の光を灯しながら前に進んでいる姿を見ていただきたい。
・福島プライドを胸に刻み、希望に満ちた魅力ある福島の未来をこれからも切り拓いてまいります。

※福島県庁HPから概要を引用

メッセージの内容自体はさておき、ウネリウネラが今回指摘したいのは、これです。

いったい誰が、このメッセージを作っているのか

このメッセージを作るために、福島県庁は毎年、「3月11日知事メッセージ起草委員会」という組織を作ります。2020年は以下のメンバーが委員になっていました。個人を攻撃する意図はないので、名前は伏せ、所属組織と肩書だけ紹介します。

福島県知事(委員長)
福島民友新聞社 編集局長
認定NPO法人郡山ペップ子育てネットワーク 理事長
福島民報社 編集局長       
新地町教育委員会 教育長
大熊町商工会 会長
福島大学うつくしまふくしま未来支援センター 特任教授
特定非営利活動法人素材広場 理事長

ご覧の通り、福島県の地元新聞2紙、福島民報と福島民友の編集トップが、そろって知事メッセージの起草委員会に名を連ねているのです。

地元紙は権力監視の役目を果たせるのか

これは、もともと新聞社に勤めていたウネリウネラにとって、かなりの驚きでした。行政を監視するのが、報道機関の役目だと思っています。「3・11の知事メッセージ」で言えば、福島の行政トップ(県知事)が現状をどのようにとらえ、県民にどんな言葉をかけるのか。それをきちんと記録し、批判を加えていくのが報道機関の役目です。

自分たちが一緒になって作ったメッセージを、「これはダメだ」と批判することはできないでしょう。完全に、行政権力に取り込まれてしまっています。

この傾向は2020年に始まったことではありません。過去にさかのぼります。

・2019年のメッセージ起草委員会

福島県知事(委員長)
福島民友新聞社 編集局長
認定NPO法人郡山ペップ子育てネットワーク 理事長
福島民報社 編集局長       
新地町教育委員会 教育長
大熊町商工会 会長
福島大学うつくしまふくしま未来支援センター 特任教授
特定非営利活動法人素材広場 理事長

・2018年のメッセージ起草委員会

福島県知事(委員長)
福島民友新聞社 編集局長
認定NPO法人郡山ペップ子育てネットワーク理事長
福島民報社 編集局長
新地町教育委員会 教育長
大熊町商工会 会長
福島大学うつくしまふくしま未来支援センター特任教授
特定非営利活動法人素材広場 理事長

・2017年のメッセージ起草委員会

福島県知事(委員長)
福島民友新聞社 取締役論説委員長
認定NPO法人郡山ペップ子育てネットワーク理事長
新地町教育委員会 教育長
大熊町商工会 会長
福島民報社 編集局長
福島大学うつくしまふくしま未来支援センター特任教授
特定非営利活動法人素材広場 理事長

県庁HP上でさかのぼれるのは2017年まででした。
毎年同じメンバーで知事メッセージを起草してきたんですね……。それも「いかがなものか」という感じですが、やはり一番問題なのは、地元新聞2紙でしょう。これで、権力の監視機関としての役目を果たせるのでしょうか。

この「知事メッセージ起草委員会」の人選に関し、担当している福島県庁・企画調整課の担当者はこう言います。

福島民報と福島民友の編集トップを委員に選んでいる理由は二つ。①地元メディアとして様々な県民の思いに触れている。②県民が関心をもつ事柄や、分かりやすい表現、文章構成について見識がある。

けっして「馴れ合いの関係」ではなく、結構厳しくご指摘をいただいている。

くり返しになりますが、ウネリウネラは、行政当局と報道機関は一定の距離感を保つべきだと考えています。

福島民報社と福島民友新聞社にも、「なぜメッセージ起草委員会に加わっているのか。行政を監視する役割を果たせるのか」と問い合わせていますが、今のところ回答がありません。

両社の担当者の方、ご回答をお待ちしております。

地元メディアと行政との距離が気になる

問題は、知事メッセージだけではありません。福島に住んでいると、「地元メディアが権力に取り込まれてしまっている」と感じる機会がたくさんあります。

知事メッセージに似ているのは、ウネリウネラでも特集している「東日本大震災・原子力災害伝承館」(双葉町)の例です。この施設をつくるため、福島県では「資料選定検討委員会」という組織を作りました。伝承館内の展示内容を決める有識者会議です。この会議での話し合いを経て、たとえば昨秋のオープン時に、双葉町の「原子力広報看板」が実物でなく写真パネル展示になることなどが決まりました。

この会議のメンバーにも、「福島民友新聞社編集局長」と「福島民報社編集局長」が名を連ねています。もう、“独立性のある報道機関”なのか、“県庁の広報部門”なのか、よく分からない状態です。

あと、一つだけ。

3月1日に福島地裁で判決が言い渡された「子ども脱被ばく裁判」は、合計150人以上の福島の親子が、国や福島県、県内の市町村を訴えた裁判です。「子どもを被ばくから守りたい」という思いに端を発したこの住民訴訟を、ウネリウネラは注目しています。

地元メディアはどうでしょうか?
たとえば3月2日付福島民報を見てみます。裁判の記事は1面にはありませんでした。テレビ欄をめくって第一社会面にもありません。第二社会面は、第三面は……。じっくり探していくと、裏から4ページ目(第四社会面というのでしょうか)にようやく見つかりました。下のほうの、隅っこです。

【被ばく対策訴訟 原告の請求棄却、福島地裁】

写真なし。短行の、いわゆるベタ記事です。原告団や弁護団のコメントは一切なく、判決文を一カ所だけ引用して終わりです。

住民側の敗訴に終わったとは言え、提訴から7年かかった大きな裁判なのですから、メディアは判決結果をきちんと報じる責任があるのではないでしょうか。『お仲間』の福島県庁が訴えられた裁判だから大きく報じることができないのではないか。そんな風に思えてしまいます。

地元新聞2紙は福島のコミュニティーに深く根差しています。その取材力を正しい方向に使ってくれればなあと、願う次第です。

3・11メッセージを県知事と一緒に考えるような振る舞いは、やめた方がいいでしょう。

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