東京電力福島第一原発事故で発生している汚染水の海洋放出について、読者の皆さんからいただいたご意見を紹介します。今回はペンネーム「オカイゲ」さんから8月上旬にいただいていたご投稿です。ぜひお読みください! ※画像は福島の海
【オカイゲさんからのご意見】
豊かな漁場 大陸棚 静岡県総合教育センターホームページにある「あすなろ学習室しゃかいのページ」から引用します。 「Q:大陸棚ってなあに? 地図の上で、青く囲まれた部分は、水深(海の深さのこと)200mまでの海を表しています。この水深200mまでの浅い海のことを大陸棚と言います。大陸棚は魚がたくさん取れるところです。 Q:なぜ大陸棚では、お魚がたくさん取れるの? 海の中には、プランクトン(微生物)と呼ばれる小さな生き物がいます。それらは顕微鏡で見ないと見えないような小さな生き物です。プランクトンには、植物の仲間の植物プランクトンと、魚や虫、エビやカニの仲間の動物プランクトンがあります。植物プランクトンは、陸上の植物と同じように太陽の光がないと(光合成ができず:引用者注)生きられません。浅い海では、海中にもよく光が届くので、たくさんの植物プランクトンが生まれます。植物プランクトンを食べる動物プランクトンもたくさんいます。そのプランクトンを餌にする小さなお魚も、大陸棚にはたくさん住んでいます。さらに、小魚を餌にする大きな魚もいます。こうして、大陸棚にはたくさんの魚が住む場所になり、良い漁場になっているのです。」 日本地図を見てみると、福島県沖の大陸棚は、沖合30kmから50kmに広がっています。 この夏(2023年)にも放出するというトリチウム汚染水(政府、東電は処理水という)の行き先は福島第一原発の沖合約1kmの水深12mの海底です。そこは豊かな漁場すなわち大陸棚の真っただ中です。 トリチウムは自然状態ではトリチウム水の形で存在します。トリチウム水は化学的には水と変わらず、物理的には普通の水より質量が大きい(重い)のです。 トリチウム汚染水(政府、東電は処理水という)は海水に希釈し薄めるから大丈夫、は本当でしょうか。残念なことに、質量の重いトリチウム水は希釈した普通の水から離れ、海底に濃いトリチウム水だまりを作ります。追い炊きしたお風呂に入ったとき、風呂桶の底に冷たい水があってヒエッと思わず立ち上がったことは誰しもあるはずです。追い炊きして暖かくなったお湯は、温まっていない水に比べ軽くなっているので上にたまり、下には冷たいままの重い水が溜まってしまうからです。 そして水深12mで光が十分に届く海底では、光のエネルギーを用いて海藻や植物プランクトンが化学的には水と変わらないトリチウム水と海中の二酸化炭素から有機化合物を合成します。これが光合成です。海底では光合成によって炭水化物、さらに炭水化物の窒素同化作用で生まれるタンパク質の原料、アミノ酸がつくられます。こうして作りだされた炭水化物やアミノ酸に含まれるはずだった水素原子に代わってトリチウム原子がその役割を引き受けます。この植物プランクトンや海藻を小さい魚が食べ、小さい魚を大きな魚が食べ、トリチウム原子は栄養分の中の水素原子の代わりを果たすのです。 豊かな漁場である福島沖の大陸棚でとれた魚を私たちは美味しくいただきます。その結果、私たちの生体の構成要素であるアミノ酸やたんぱく質を構成しているはずの水素原子に代わってトリチウム原子が組み込まれます。組み込まれたトリチウム原子は、やっかいなことに微弱ではあっても放射線を出します。半減期は12年と言われています。 アミノ酸やたんぱく質として遺伝子や細胞の構成要素になったトリチウム原子は放射線を発し続けます。その放射線が外部被曝ではほとんど問題にならないくらい微弱であっても、生体内、細胞内にあるトリチウム原子の発する放射線が直接DNAや細胞を傷つけ、生体に深刻な影響を及ぼします。このことは、太陽が東から上がるくらい当たり前のことです。 トリチウム汚染水(政府、東電は処理水という)放出の政府・東電側の本当の事情 何が何でもトリチウム汚染水を福島沖に放出しなければならないなんらかの事情が政府・東電にあるのでは、と下衆が勘ぐってみました。 ひとつには、トリチウム汚染水が発生するのは、福島第一原発への地下水流入を防ぐための凍土「遮水」壁が機能していないからです。東電は事故によって溶融した核燃料を冷やすため、毎日約200トンの水を原子炉に注入し続けています。また山側から凍土「遮水」壁をなぜか通り抜けた地下水約170トンが海側の原子炉建屋内に雨水とともに流れこんでいます。この2種類の水が併さって高濃度の放射能汚染水になります。この汚染水を汲み出し、まず淡水化装置を通してセシウム、ストロンチュームを分離します。そのうちの約200トンが再度核燃料を冷やすために再注入されます。残りの汚染水は、多核種除去装置ALPSでトリチウム以外の放射性物質を除去され、福島第一原発敷地内のタンクに貯蔵されます。約1200個のタンクに137万トンが保管され、今なお毎日約150トン増え続けています。 凍土壁建設前、以上のような状況を見越して、凍土壁は遮水としては不完全だから金属板かコンクリート壁で地下水流入を防ぐべきだという批判は広範にありました。 すなわち莫大な建築費(345億円)をかけ今も年に数十億円の維持費がかかる凍土壁が全く役に立っていないという明らかな失態を、トリチウム汚染水放出で覆い隠したいのではないか。どうせトリチウム汚染水は海に放出するのだから凍土壁の失敗は「まあまあ軽い、軽い」というわけです。 トリチウム汚染水を海洋放出しなければならないもう一つの事情は、国の原子力政策の根幹にかかわる深刻な問題です。 「核燃料サイクルとは、原子力発電で使い終えた燃料から核分裂していないウランや新たに生まれたプルトニウムなどをエネルギー資源として回収し、再び原子力発電の燃料に使うしくみです。」(日本原子力文化財団ホームページ) 「核燃料サイクル」のキモは六ヶ所村に建設中の再処理工場です。再処理工場稼働の条件は、年800トン使用済み核燃料を処理、毎年18000兆ベクレルのトリチウムを海洋に放出すること、です。福島原発のタンク内のトリチウムは現在780兆ベクレル、毎年海に放出するのは22兆ベクレル、六ヶ所村再処理工場のわずか800分の1です。もしも福島のトリチウムの海洋放出が認められなければ、六ヶ所村再処理工場は当然トリチウムの海洋放出が認められず稼働できません。従って核燃料サイクルは崩壊、各地の原発が稼働している限りどんどんたまり続ける使用済み核燃料は行き場を失います。従って、政府は「核燃料サイクル」完成のためには何が何でも福島のトリチウム汚染水の海洋放出を強行しなければならない、のです。 結語 ほとんどすべての新聞やテレビの論調を見ても、海藻や植物プランクトンによる光合成を出発点とする食物連鎖で人間の生体内部にトリチウムを取り込むという上述のような視点を見たことがありません。マスコミは韓国野党や中国の抗議を「非科学的、タメにする反対運動」と揶揄するばかりです。 上記のような視点は、中学で習った程度の光合成やDNAの「科学」知識で、そんなに難しい論議ではないはずです。ただ多くの方に上記のような論を配布しましたが、残念ながら、ほとんど反応がありません。反論すらありません。そのあまりの反応のなさの答えは、①図星を刺され反論のしようがない、②箸にも棒にもかからない空理空論、③オカミ(政府)はきっと正しい、常に正しい、必ず正しい、のいずれかであろうと思います。 上述の見解が正しいのであれば事態は切迫しています。今月にもトリチウム汚染水の放出が始まってしまうからです。 水俣のチッソが有機水銀の水俣湾への排出を開始したのが1932年、水俣病患者のはじめての認定が1956年、厚生省が水俣病の原因をチッソの排出した有機水銀である事を認めたのが1968年、有機水銀の排出開始から公的な原因確定までに実に36年もかかっています。その後も裁判闘争等が繰り広げられたことは周知です。水俣病がたどった時の流れを見れば、トリチウム汚染水の放出が始まっても、私自身(1947年生)が生を終えるまで、深刻な事態は目に見えてこない(報道されない)のかもしれません。なぜなら、トリチウム汚染水放出による実害が発生しても、報道関係者は中国や韓国の反対を「非科学的、タメにする反対」と難じてきた手前、どのツラ下げて実害報道ができるのでしょうか。近い将来、厚労省の人口動態調査で死因別死者数に大きな変動があってもおそらく「原因不明」「科学的因果関係が立証されない」「風土病」(水俣病に関しては、全くの事実無根にもかかわらず、結構最近までこういうデマ言説を耳にしました)などなどで逃げまくるのではないでしょうか。 しかしながら私の子や孫の世代には深刻な被害が出る、と心底から恐れます。これは、なんとしても止めなければならない事態です。
※オカイゲさんからのご意見紹介は続きます。
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