気づくのが遅れて申し訳ありません。
先日、過労死ラインなど脳や心臓の病気の「新・労災認定基準」について3本の記事を書きました。
厚生労働省が開いた「専門検討会」の報告書が7月中旬にまとまり、その内容に基づいて厚労省が9月上旬に新しい労災認定基準を定める見通しです。認定基準は全国各地の労働基準監督署に行き渡り、実際に労災かどうかを決める時に使われます。
専門検討会報告書がまとまってから厚労省が約2か月間何をしていたかというと、実はこの件に関わる「パブコメ募集」をしていました! 意見の締め切りは「8月19日23時59分」となっていました。そのことについてウネリウネラ(ウネリ)が気づいたのは昨日、8月18日です。
↓こちらのリンクからコメントを寄せることができます。
血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準案に関する意見募集について|e-Govパブリック・コメント
ということで、急ぎパブコメを書きました。ここに内容を紹介します。もし皆さまも関心をもっていただけたら、政府にコメントを出してみてはいかがでしょうか。(直前でほんとにすみません)
ウネリウネラのパブコメ
(※以下の文章については、過労死弁護団の平本紋子弁護士への取材をベースにして書いています。平本弁護士のコメントを含めた「労災認定基準の解説記事」を近日中にネットメディアで発表予定ですが、パブコメの締め切りが迫っていたため、先んじてここに書きます。)
7月16日公表の専門検討会の報告書に基づいて意見を書きます。
①いわゆる「過労死ライン」について、現状の「1か月100時間、複数月平均80時間」という目安を明示的に引き下げなかったことは遺憾です。一方で、過労死ライン以下の時間外労働でも労災認定の門戸を広げる方向性を示したことは評価できると思います。
労働時間のみで業務と発症との関連性が強いと認められる水準には至らないがこれに近い時間外労働が認められ、これに加えて一定の労働時間以外の負荷が認められるときには、業務と発症との関連性が強いと評価できる。
報告書65ページ
問題は、私が下線をつけた「これ(=過労死ライン)に近い時間外労働」とはどの程度か、です。ここを認定基準で明示しておかなければ、労災認定の実務段階において、結局は「80時間」というラインぎりぎりで労災の可否が決められてしまうことになりかねません。報告書49ページには以下のようにあります。
支給決定事例において、労働時間の長さだけでなく一定の拘束時間などの労働時間以外の負荷要因を考慮して認定し
報告書49ページ
た事案についてみると、1か月当たりの時間外労働は、1か月当たりおおむね 65 時間から 70 時間以上のものが多かったところである。このような時間外労働に加えて、労働時間以外の負荷要因で一定の強さのものが認められるときには、全体として、労働時間のみで業務と発症との関連性が強いと認められる水準と同等の過重負荷と評価し得る場合があることに十分に留意すべきである。
この記載を読めば、 「これ(=過労死ライン)に近い時間外労働」とは、「1か月当たりおおむね 65 時間から 70 時間」であることが明らかです。この「65~70時間」という数字を、労災認定基準に明記することをお願いします。資料も合わせると100ページに及ぶ報告書を一般の人が読むとは限りません。認定基準に明記して世の中に広く伝えることが大事だと思います。
②一方で、専門検討会報告書は、時間外労働が「65~70時間」未満だった場合の労災認定を否定している訳ではありません。報告書50ページには以下のようにあります。
労働時間と労働時間以外の負荷要因を総合的に考慮するに当たっては、労働時間がより長ければ労働時間以外の負荷要因による負荷がより小さくとも業務と発症との関連性が強い場合があり、また、労働時間以外の負荷要因による負荷がより大きければ又は多ければ労働時間がより短くとも業務と発症との関連性が強い場合があることに留意すべ
報告書50ページ
きであり、認定基準においては、労働時間数だけにとらわれず、総合的な考慮が適切になされるような表記をすべきである。
前述した49ページの記載と、いま私が下線をつけた部分を合わせて考えると、専門検討会の報告書はこういう結論を指示しているものと考えます。
「時間外労働が65~70時間あるケースで『時間以外の負荷』が一定の強さであれば労災を認定するし、『時間以外の負荷』がより大きいケースでは、時間外労働が『65~70時間』を下回る場合でも労災とすべきだ」
この点を、厚生労働省が労災認定基準を完成させる際には明確に書き込むべきです。
そもそも、20年前の認定基準改正時においても「月45時間を超えて時間外労働をしている場合、病気と仕事との関連はあり得る」という見解は、一般化しておりました。そのことを考え合わせると、
「時間外労働が月平均45時間を超えるケースでは、労働時間以外の負荷の程度を十分考慮し、積極的に労災を認定していくべきだ」
と、労災認定基準に書き込むのはいかがでしょうか。
③最後に、「労働時間以外の負荷」をどのように評価するのか、です。
漠然と「評価すべき」というだけでは、どのくらいの程度だった場合に労災とするかが判然としません。結果として認定例が増えないことも心配されます。これは難しい課題ではありますが、たとえばハラスメントや職場の人間関係の心理的負荷については、すでに「うつ病など精神障害の労災認定基準」において、「弱・中・強」の3段階で判断することが定められています。同じ基準に基づき、
「時間外労働が65~70時間の場合、『時間以外の負荷』が『弱』以上であれば労災を認定する」などと明記したほうがよいと思います。
また、夜間の仕事については、「深夜にわたる仕事が少なくとも2週に1回程度の頻度でくりかえされる場合は、『時間以外の負荷』として考慮する」などと明記したほうがいいと思います。
時間外労働にだけ過労死ラインという明確な「数値基準」があり、ほかの負荷は漠然と「評価すべき」というだけでは、「労基署は労働時間至上主義だ」という批判は免れないものと考えます。
④最後に、こういった労災認定基準は、あくまで「目安」であるべきです。実際には、労働時間がきちんと記録・管理されていない職場もあります。ハラスメントが起きていても職場が隠している場合もあります。労基署の方にきちんと調べていただくのは当然として、そうした「見えない労働時間」や「見えない心理的負荷」があり得ることも念頭に置き、ご遺族や被災したご本人の立場に寄り添って、労災認定実務を行ってもらうことが重要だと思います。その点を、新しい労災認定基準にも書き入れていただけたら幸いです。
ウネリウネラはこのようなパブコメを出します。皆さんもご検討ください!
パプコメ提出はこちらから→https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=495210144&Mode=0
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