12月17日、海洋放出の問題についてアジア・太平洋の人びとと一緒に考える国際イベントが開催されました(「放射能で海を汚すな!国際フォーラム」、主催:これ以上海を汚すな!市民会議)。詳細はこちら↓
その際、太平洋諸国の人びとが海洋放出に「重大な懸念」を寄せていることを紹介しました。私(ウネリ)自身、これまで学んでこなかったところなので、少し調べてみました。
政府方針決定当日に「対策が不十分」
「太平洋諸島フォーラム(Pacific Islands Forum , PIF)」という組織があります。外務省ホームページによると、太平洋諸国の首脳たちの対話の場、地域協力の核として作られました。現在の加盟は以下の15か国及び2地域とされています。
オーストラリア、ニュージーランド、パプアニューギニア、フィジー、サモア、ソロモン諸島、バヌアツ、トンガ、ナウル、ツバル、ミクロネシア連邦、パラオ、マーシャル諸島、クック諸島、ニウエ、仏領ポリネシア、ニューカレドニア
日本政府が汚染水を海洋放出する方針を決めた2021年4月13日、PIFのメグ・テイラー事務局長が声明文を発表しました。
数十年間、PIFの指導者たちは核の「負の遺産」問題に重大な懸念を表明してきました。PIF加盟国が締結しているラロトンガ条約(南太平洋非核地帯条約)は、放射性廃棄物やその他の放射性物質による環境汚染から地域を守ることが定められています。
PIF事務局長の声明
PIFの声明は核実験による深刻な被害の歴史を踏まえ、地域の放射能汚染を許さない姿勢を明確にしました。そして、日本政府の海洋放出の方針に対して、このように指摘しました。
私たちは、太平洋諸国の環境、健康、経済への影響に対して十分な対策が講じられていないと認識しています。漁業や海洋資源は私たち太平洋諸国の暮らしに不可欠であり、必ず保護されなければなりません。
同上
太平洋・島サミットの首脳宣言
その約3か月後、2021年7月に開催された「第9回太平洋・島サミット(PALM9)」でも海洋放出の問題が議論になりました。どんな議論だったのか。日本の外務省が発表している「結果の概要」は以下です。
海洋放出に関する基本方針について、菅義偉総理から、国際基準を踏まえた規制基準を遵守してALPS処理水の海洋放出を行うこと、IAEAと緊密に協力し、科学的根拠に基づく説明を引き続き提供することを説明した。これに対し、太平洋島嶼国の首脳は、菅総理による透明性を持った丁寧な説明に謝意を表明するとともに、太平洋島嶼国・地域との緊密な対話を継続していく日本の意図を歓迎した。
外務省ホームページ
ただ、公表されている首脳宣言の該当部分を読むと、だいぶニュアンスが異なります。
PIF首脳は海洋放出に係る日本の発表に関して、国際的な協議、国際法及び独立し検証可能な科学的評価を確保するという優先事項を強調した。PIF加盟国・地域は、入手可能になり次第、科学的根拠を解釈するための独立したガイダンスを追求することにコミットした。菅総理は、ALPS処理水の海洋放出は環境及び人体に実害がないことをしっかり確保した上で実施されること、並びに、日本は透明性が高く時宜を得た形で、また国際原子力機関(IAEA)と緊密に協力して、PIF加盟国・地域に科学的根拠に基づく説明を引き続き行っていくことを改めて表明した。PIF首脳は、透明性を確保し、全ての課題を明確にするためのPIF加盟国・地域との緊密な対話を継続するとの日本の意向を歓迎した。
PALM9首脳宣言(外務省による日本語訳、下線は筆者)
外務省による「結果の概要」だけを見ると、PIF首脳が「白紙委任」しているようにも読めますが、実際の首脳宣言を読めば、そうではないことが分かります。筆者が下線で示した部分は、要するに「日本政府は検証可能なデータを提供せよ。それに基づいてPIF加盟国・地域で独立的に安全性を検証する」という意味でしょう。「白紙委任」とは全く様相が異なります。
「専門家から延期すべきだとの助言を受けた」
そして2022年の現在も、PIF諸国は海洋放出の安全性について心配しています。PIFの広報文によると、PIFと日本政府は今年9月にも海洋放出について話し合いを行いました。これが5回目の日本政府からのブリーフィング(説明会)だったといいます。PIFの広報文はこのように書いています。
PIFの事務局は繰り返しこう述べた。「残念ながら、私たちは十分な科学的証明をまだ受け取っていない。専門家たちからは『海洋放出は現時点では時期尚早である』との助言を受けている」
日本政府は「本当に安全だと確認できるまで海洋放出はしない」とPIFのメンバーに保証した。
PIFの広報文
今回は詳述しませんが、このあたりは今後検証しなければいけないと思っています。
「まだ時期尚早だ」というPIFの判断は今も変わっていません。
今年11月16日の広報文ではこのような発表を出しています。
PIF事務局長のヘンリー・プナ氏は、エジプトのシャルムエルシェイクで、ケン・ビューセラー博士と会談した。博士は、海洋放出の安全性を検討するためにPIFが招聘した専門家パネルの一員である。プナ事務局長は「間近に迫りつつある海洋放出について、専門家からは延期すべきだとの助言を受けた。その助言に基づき、私たちは専門家が安全性を評価するあいだ、海洋放出以外の代替案を検討するよう促す」と話した。
PIFの広報文
日本政府はPIFにどう対応するのでしょうか。「IAEAがOKと言っているからOKだ」ということだけでいいのでしょうか?「国際社会の理解を得る」と言う場合、当然「国際社会」の中には太平洋諸国も入ります。日本政府の対応に今後も注視していきます。
※トップ画像はPIFホームページから引用
【みなさんからのご意見をお待ちしています】
経済産業省は今月半ば、「海洋放出に理解を求めるための本格的なキャンペーンを始める」と発表しました。実際その日からテレビCMが流れ、新聞の広告が入っています。経産省が使っているキャッチコピーは以下です。
「みんなで知ろう。考えよう。ALPS処理水のこと」
しかし残念ながら、経産省のCMやウェブサイト、東電の「処理水ポータルサイト」などは、①海洋放出は必要、②「ALPS処理水」は安全、という2点を伝えているに過ぎません。要するに、政府や東電の「知ってほしいこと」を一方的に伝えているだけです。政府・東電の広報には「汚染水を海洋放出する」という「正解」があらかじめ用意されており、それに対して疑問を挟む余地が残されていません。これでは「知る」ことも「考える」こともできません。政府・東電の広報姿勢は、この件について人びとが「考える機会」を奪っています。
汚染水をどうするかという問題は、「100%の正解」がない問題だと思います。さまざまな情報をもとに、一人ひとりが自分なりに考えていくしかないでしょう。
しかし現在、その「考えるための情報」は圧倒的に偏っています。先述した通り、政府が税金を使って自分たちに都合のいい情報ばかりを伝えているからです。したがってウネリウネラでは、海洋放出問題についてのご意見を幅広く募集し、ご紹介していきたいと思います。そうして初めて、本当の意味で、「みんなで知り、考える」ことが可能になるでしょう。
賛否両論、さまざまな意見をお待ちしております。「理路整然とした主張」である必要はありません。「”意見”とまでは言えない”声”」「”声”にまでならないような”つぶやき”」。なんでもいいです。すべて歓迎します。そうしたものすべてを「知る」ことが、「考える」際の前提になると思うのです。
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