7月30日、放射性物質に汚染されたふるさとを「元に戻せ!」と訴える福島県浪江町津島地区の人びとの裁判の一審判決が、福島地裁郡山支部で言い渡されました。ウネリウネラは31日付で裁判の内容をレポートしています。記事はこちら↓
裁判の中で原告たちが最も力を入れて求めたのが、「故郷を元に戻せ。地区全体の放射線量を低下させろ」という「原状回復」の訴えでした。しかし、一審・福島地裁郡山支部判決は、この訴えを認めませんでした。
裁判所は、原発事故を起こした法的責任が国と東電にあることは認めました。しかし、それと同時に、裁判所は「国と東電に放射線量を低下させる義務があるとまでは認定できない」というのです。 そう判断した理由を煎じ詰めると、「地域に広がる放射性物質については現在、国と東電が支配・管理している状況とは言えないから」ということになります。そう書きました。
この件について、福島県内に住むF・Kさんが意見を寄せて下さったので紹介します。
【F・Kさんからいただいた意見】
原告は自分の居住地や所有地を元に戻すことを請求しているのでしょうか。それが可能であるかどうかはわかりませんが、原告の「故郷」である津島地区全域を元に戻すことを請求しているのではないでしょうか。
原告の「故郷」を事故原発由来の放射能で汚し、「故郷」で生きる権利を奪った責任は国と東電にあるわけだから、国と東電に「故郷」を元に戻せと請求するのは当然だと思います。
地域に広がる放射性物質について、「現在、国と東電が支配管理している状況とは言えない」ってどういうこと?
国と東電のものでもない土地を汚したからこそ、事故原発に由来する放射性物質を取り除いて「元に戻せ」って求めているのでしょう。国と東電は、居住地、所有地を含むこの地域全体を(津島だけではなく、汚された全ての地域を)元に戻す義務があると僕は思います。
【ウネリウネラから一言】
F・Kさんのシンプルなご指摘、もっともだと思います。
裁判所の理屈は、ウネリウネラにも納得がいきません。 F・Kさんが書いてくれた通り、「どういうこと?」という感じです。
7月31日付の記事は、判決のエッセンスをまとめた「要旨」を基に書きました。判決文を読むことができるようになったので、この部分について判決文をよく読んだうえで、判決の言葉を引用しながら、再度紹介したいと思います。(ただ、判決文を具体的に引用したとしても「納得いかない」感はあまり変わらないかもしれません……)
原状回復請求についての、福島地裁郡山支部判決の紹介
原告の主な請求は、「被告(国と東電)には津島地区全域の放射線量を事故前の水準である毎時0.046マイクロシーベルトまで低下させる義務があることを、裁判所に確認してほしい」というものでした。
では、裁判所はなぜ、「原発事故を起こした東電と国には放射線量を低下させる(放射性物質を取り除く)法的義務がある」と認められないのでしょうか。
判決はまず、それを認めるためには、<国と東電が放射性物質を支配内に置き、除去しうる権限を有していることが必要である>と指摘します。
そのうえで、判決はこう書きます。
被告東電は、確かに、福島第一原発を管理することにより、放射性物質を過去支配内に置いていたとは認められる。しかしながら、現在、放射性物質は飛散し、被告東電の管理の及ばない原告らの不動産や居住地に付着していると認められる。そして、その放射性物質は、それが付着した不動産や居住地と分離することが事実上不可能であるから、それらと一体化してその構成部分になったものと評価せざるを得ない。そうすると、被告東電は、飛散した放射性物質を支配し、これを除去し得る権限を有しているとみることはできない。
福島地裁郡山支部判決
国についても、ほとんど同じです。
被告国は、本件事故により放出された放射性物質を、現在も過去も占有していたわけではないから、妨害を生じさせている物質(※放射性物質)を支配内に置いている者とはいえない。
福島地裁郡山支部判決
判決を具体的に引用しても、やっぱりよく分かりません。下線部分がポイントのような気がします。判決当日、原告弁護団はこの部分を、「たとえ話」にして説明しました。
「たとえば、地域のゴミ捨て場に自分の家のゴミを不当に散乱させた人がいたとします。よくないことですが、これを『片づけろ』と裁判で求めるのは難しいです。たくさんのゴミの中で、この人がどのゴミを投げ散らかしたのか、判然としないからです。よその家のゴミまで片付けを命じることはできません。原発事故でも似たようなことが起きています。自然界にも放射性物質はあります。いま津島にある放射性物質のうち、どれが自然由来で、どれが事故によるものか区別することは困難です。『国と東電の支配権が及ばない』とは、そういう意味を指しています」
7月30日判決当日、原告側弁護団
どうでしょうか? 筆者(ウネリ)にはやっぱり納得いきません。
でもなんとなく分かったのは、「東電と国は司法の場ではうまく判断を示せないほど重大なことをしてしまった」ということです。取り返しがつかないほど大変なことをした(=<その放射性物質は、それが付着した不動産や居住地と分離することが事実上不可能>)。余りにも取り返しがつかないので、後始末をする法的義務があるとうまく指摘することができないーー。裁判所が言っていることは結局こういうことかなと、ウネリウネラは受け取りました。
だとすれば、裁判で原告たちの訴えが認められたか否かにかかわらず、国と東電は最大限、津島地区に住む人びとの求めているところを聞いて、努力しなければいけないでしょう。
つい最近、「帰還困難区域のうち復興拠点外の地域については、住民の帰還意向を個別に把握し、国が帰還に必要な箇所の除染を行う」というのが政府の方針になりました。しかし、少なくとも裁判を闘っている津島地区の人びとについて言えば、「帰還に必要な箇所」というのは「津島地区全域」になるのではないでしょうか。詳細はここでは書きませんが、「故郷への思い」を語った「原告意見陳述集」を読み、ウネリウネラはそのように確信しています。
やはり国は今すぐにでも、津島地区全域の放射線量を下げる努力を始めなければならないでしょう。これは、裁判の結果とは関係なく、自明なことのように思います。
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