東京シューレ理事長「辞任」について考える

 フリースクールの“草分け的存在”として知られるNPO法人「東京シューレ」が6月24日、ホームページで以下のタイトルの「ニュース」を発表しました。

「奥地圭子理事長の辞任について(ログシューレ性暴力加害事件検証報告書を受けて)」

 タイトルにある通り、シューレ内で起きた性暴力事件の責任をとって、法人トップが「辞任」するのだそうです。奥地氏とは、他に先駆けて1980年代にフリースクールを始めた有名な人物です。しかし、6月24日付の「ニュース」を読むかぎり、組織内で起きた深刻な性暴力事件については、とてもよくない対応をしてきたと知りました。また、奥地氏だけでなく東京シューレという団体自体が、現時点に至ってもこの性暴力事件のことを十分深刻に捉えていないのではないか、という疑念も抱きました。
 この「ニュース」を読んだ感想を、ウネリウネラの二人で話したいと思います。


辞任の理由は、性暴力加害事件への対応

ウネリ まずは事案の流れです。問題の事件は、「ログシューレ」という東京シューレの関連施設で起きました。1998年から2000年頃のことです。新聞記事などによると、ログシューレは10代のこどもたちが親元を離れてスタッフと共同生活する場所だったようです。そこで、スタッフからこどもへの性暴力加害事件が起きてしまいました。被害者のお一人は、その後長い間苦しんだ末、2016年に東京シューレ側を相手取った裁判を起こします。裁判は2019年に和解に至りましたが、被害者の方は和解後もずっと、苦しみ続けているようです。

ウネラ はい。

ウネリ この件に関して、東京シューレは弁護士ら第三者を加えた組織をつくり、対応に問題がなかったかを検証しました。その「検証報告書」ができあがり、6月10日、東京シューレの理事会に提出され、その内容を受けて12日に奥地理事長の辞任が決まった、という流れのようです。私たちのような外部の人間が経緯を知ることができるのは、6月24日に東京シューレがHPに掲載した「ニュース」によってです。このニュースの内容をみてみましょう。
 ニュースの発信者は「東京シューレ理事会」となっています。ニュースはまず、<東京シューレの創始者であり、長く理事長を務めた奥地圭子が理事および理事長を辞任しました>と書きます。そして、奥地氏が辞める理由については、以下の2点を検証報告書などで指摘されたからだと書いてありました。

第一は、東京シューレが、重大な性暴力加害事件、子どもの人権侵害事件を引き起こしてしまったことです。重大な性被害が裁判の原告のみならず特定されているものだけでも複数名の被害者が発生し、かつ加害者もAだけではなく複数いるとの情報もあり、深刻重大な性加害事件を発生させてしまったことです。

第二は、その重大な人権侵害事件について、法人として事後対応を誤ったことです。東京シューレの子どもたちを守りたい、という主観的な確信のもとで、その深刻な人権被害を軽視し、原告を含む複数名の性被害者への救済対応を十分に行わなかったことに加えて、原告が納得する「和解」に至らず、裁判で確定した人権侵害事実について「口外禁止」を図り、理事会による真の解決を妨げてきたことです。

ウネリ ニュースの後半には、第三者委員会がつくった「検証報告書」の一部が紹介されていました。

ウネラ そうですね。

ウネリ このニュースを読んで、ウネラさんはどう思いましたか?


「辞任」ではなく、「解任」すべき

ウネラ まずは「辞任」という言葉に強い違和感をもちました。特定されているものだけでも複数の被害者がいて、加害者も複数いるかもしれないという大変重大な事案です。それに対してトップの奥地氏がどう対応したのかは、ニュースの後半にある報告書の抜粋で読めますよね。この事案と直接かかわりのない私が読んだだけでも、奥地氏らが大変ひどい行為をしていたということが分かります。

ウネリ はい。

ウネラ 「辞任」とは本人自ら退くことで、周囲が役職を退かせるのは「解任」です。一般常識に照らして考えれば、この件は「辞任」では済ませず、組織として「解任」すべき事案ではないかと思います。

ウネリ 「辞任」と「解任」では雲泥の差がありますよね。

ウネラ 奥地氏を「辞任」で済ませている点は、責任追及として甘いと言わざるを得ません。法人として奥地氏を処分しているわけではないのですから。創始者である奥地氏の影響下から抜け出せていないのではないかと感じます。東京シューレがこれからも存続しようとしているならば、組織として最低限、奥地氏を「解任」する決断が必要だったと思います。

ウネリ シューレが現時点で公表している検証報告書の内容はごく一部です。しかしその短い抜粋部分を読むだけでも、「ずいぶんひどいな」と私も驚きました。「事件後の対応」について、検証報告書が「理事長(及び事務局長)の責任は特段に大きい」と指摘しているのは、主に以下の点です。

当時において、本件被害の通報がありながら、これに対し適切に対処しなかったこと

・急遽ログハウスを閉鎖し、性加害の事実を曖昧にし、被害者に謝罪し、支援する機会を逃したこと

・ログシューレ事業を突然休止することによって、被害者とシューレの関係を断絶し、被害者を孤立させ被害を深刻化させたこと

・本件提訴を理事会にも知らせず、理事長と事務局長のみで進めてしまったこと

・理事会に対し事件全体の説明が不十分なまま、口外禁止を含む和解に応じさせたこと


隠蔽、矮小化の意図が透けて見える

ウネラ 被害の通報がありながら、それに対して適切に対処しなかった。さらには、現場となったログハウスを急に閉鎖して加害事実をあいまいにした、とあります。この時点で、「隠蔽」の意図があったという印象です。

ウネリ 裁判沙汰になった時、それを理事会に知らせず理事長と事務局長のみで対処しようとした、という部分もありました。これもかなりの問題だと思います。そして、裁判の和解条件として入れられた「口外禁止規定」です。これは、裁判のこと、被害のことを外で話してはいけないということですよね。「検証報告書」によると、この条件は<原告(被害者側)の要請ではなく、シューレの強い要請によるもの>でした。加害者側が口外禁止規定を強く求めるというのは、被害者側からしてみれば「ほんとに悪かったと思っているのか。謝る気持ちがあるのか」という話になりますよ。この部分で、奥地氏がいかに問題を隠蔽、矮小化させようとしていたかがはっきりした感じがします。


「こどもを守る」を盾にして……

ウネラ 事件の矮小化については、奥地氏だけでなく、東京シューレに関係する人たちの一部にも、似た傾向があるように思います。SNSでのこの事件の反応を見る限り、そう思います。

ウネリ たとえば、どんな反応が。

ウネラ 被害に遭った方は、東京シューレに対して事件対応の検証を求めてきました。そうした動きに対して「いま通っているこどもたちに動揺を与える」、「(事件はあってはならないけれど、)こどもが必要としている居場所を奪ってはならない」などといった主旨の発言をする人たちがいます。東京シューレと深い関わりがあり、本来は「こどもの性被害」などにとても関心があるはずなのに、この事件についてはスルーしようとしている人もいるようです。

ウネリ 要するに、「東京シューレはいいことをしているのだから、団体にダメージを与えるようなことはするな」ということかな。

ウネラ 東京シューレは「こども主体」とか、「こどもを守る」とかいうことを標榜しています。団体の評判に傷をつけるような事案をオープンにしてしまったら、「こどもたちの行き場がなくなる」という風に考えているのかもしれません。でも、それは間違っていると思います。前にも「『良きもの』の中の性被害について」という文章で書きましたが、そういう場所は必要だけど、その場所が「東京シューレ」でなければならない理由は何一つありません。それなのに、多くの人たちがこのシューレという組織と責任者である奥地氏を守ろうとする。組織内の事件で深い傷を負った厳然たる被害者がいるのに、被害者ではなく組織のほうを守ろうとする流れには、憤りを覚えます。

ウネリ そうですね。

ウネラ 奥地氏やシューレを取り巻く人たちが、「居場所」を必要とする”いまのこどもたち”を盾にして、シューレという組織を守ろうとしているように見える。私はそこが許せません。被害者の方も当時10代のこどもだったわけです。事件が発覚した時点ですぐに、真摯に、被害者に対して「申し訳なかった」という気持ちを表明し、被害者を守るため最大限に動けない組織に、「こどもを守る」ことなんてできないと思うんです。「一人」を切って、「組織」を守ろうとする組織に、こどもを守ることなどできないと思う。

ウネリ うん。

ウネラ こどもには、「悪いことをしたら謝りなさい」と教えますよね。なぜそういうシンプルなことができず、隠そうとしたり、組織を守ろうとするのか。被害に遭った人は、ものすごくつらい思いをしながら声を上げたのだと思います。その声が聞こえていないはずはないのに、なぜそれを軽んじるのか。

ウネリ 今言っているのは、奥地氏をはじめとするシューレの執行部についてですか。それとも、シューレと協力関係にある人たちのことですか。

ウネラ その両方です。被害者の方にとっては裁判をやるだけでもすごく大変なことだと思います。裁判に取り組んでいるあいだ、何度も何度も、つらい事件のことを思い出さなければならなかったでしょう。さらに、それとは別の葛藤も、原告の方にはあったのだと思います。原告の方自身、既存の学校での悩みなど、つらい事情があったからこそ、シューレという場所に通っていたんだと思うんです。自分の事件と関係なく、シューレが居場所となっているこどもたちのことを思うと、「自分がそのこどもたちの居場所をなくさせてしまうんじゃないか」、と不安にもなるでしょう。そうした葛藤はおそらく、いまも続いているのではないでしょうか。

ウネリ 「こどもたちの居場所を守りたい」という気持ちは、被害者の方もお持ちだろう、と。

ウネラ 推測ですが、当事者として、シューレを取り巻く人びと以上にそう感じているのではないでしょうか。でも、そうした深い葛藤に苦しみながらも、自分の尊厳を守るために声を上げたのだと思います。にもかかわらず、あいかわらず東京シューレと奥地氏が「良きもの」として扱われ、メディアに大々的に取り上げられたり、行政とのタイアップ事業が進んだりしている。被害に遭った方にとっては、大変つらい状況だと思います。


学校法人の役職は続けるのか

ウネリ 東京シューレ理事会は「理事会を再建する」と書いていましたが……。

ウネラ どのくらい体質が改善するのか、疑問が残ります。東京シューレには関連する学校法人、「東京シューレ学園」という団体があり、こちらも奥地氏が理事長を務めてきましたが、この団体について奥地氏の処遇をどうするのか、今のところなんの発表もありません。学園のホームページを見ると、いまも奥地氏が学園長として載っています。

ウネリ そうなんですね。学園のほうは辞めなくていいのか、それで反省したことになるのか、同じようなことは起きないのか、と心配になります。

ウネラ これでは、被害に遭った方は納得がいかないのではないでしょうか。そもそも、奥地氏自身がこの件をどう捉えているのかも見えてきません。現時点では、シューレ理事会から「辞任する」という発表があっただけで、奥地氏自身は何も語っていません。

ウネリ 話をまとめます。①組織としての「東京シューレ」は、理事長の奥地氏を「辞任」で済ませてはならない。「解任」すべきである。②学校法人のほうはどうするのか、はっきりすべきである。解任しないのなら、なぜ解任しないのか。きちんと理由を説明すべきだ。③奥地氏は奥地氏で、自らの言葉でこの件のことを語るべきではないか。何も言わないのはおかしいのではないか。

ウネラ そうですね。

ウネリ もう一つは、報道を中心とした取り巻き、社会の問題だと思います。「東京シューレ」はとても有名な団体です。奥地氏はアンスクール、不登校の問題の先駆者と見られています。その人が絡んだ不祥事なのだから、メディアは精力的に報じるべきでしょう。




2 thoughts on “東京シューレ理事長「辞任」について考える

  1. 定款に理事長の解任について書いてないので、解任はむりだったのでは?辞任となってますが事実上の解任と思われます。大谷弁護士の説明会聞きましたが、シューレの理事たちは裁判の内容に相当怒っていると感じました。提訴後3年間も理事会に報告しなかったこと、シューレ側が全面的に罪を認め原告に寄り添った裁判内容ではなかったこと。理事もスタッフもこの事件を大変重く受け止めていると思います。

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