この企画は、今年9月福島県内にオープンした「東日本大震災・原子力災害伝承館」(伝承館)という施設の「あるべき姿」を考えていくものです。企画の狙いについては、前の記事「企画のはじめに」をお読みください。

 議論の材料として、館内の各フロアに掲示されている「文章」をアップしていきます。さすがに展示物そのものの画像はアップできませんが、「文章」を読むだけでも、伝承館の「伝え方」の一端は分かると思います。

 この段階ではあえて私たちのコメントは付記しません。読者の皆さまからコメントを集めて、みんなで考えていきたいのです。ぜひ、これらの文章を読んで感じたこと、指摘したいことなどを書き送ってほしいと思います。実際には伝承館に行ったことがない人も、議論に参加してもらえたら嬉しいです。

 投稿フォームは毎回記事の下に設置しておきます。

 展示は、①【災害の始まり】②【原子力発電所事故直後の対応】③【県民の想い】④【長期化する原子力災害の影響】⑤【復興への挑戦】という五部構成になっています。

 前回③【県民の想い】エリアを紹介しました。

 今回は、④【長期化する原子力災害の影響】エリアです。


↓ここからが、伝承館内に掲示されている「文章」の紹介です。

④【長期化する原子力災害の影響】

原子力災害が長期化する中で、事故当初から改善されてきた点、逆に長期化に伴い、ますます問題が大きくなった点など、時間を経ることで状況にさまざまな変化が見られてきました。このゾーンでは、「除染」、「風評」、「長期避難」、「健康」の4つのテーマに関して、原子力発電所事故の直後から現在まで、どのように状況が変化してきたのかを、データやその後の足跡を通して見ていきます。

原子力災害の後、どのようなことが長期的に問題になっているのか? その対応がどのような経過をたどってきたのか? 福島の事例から学び、教訓として生かすことが、今後の災害への備えにつながります。

<4-1 除染>

福島第一原子力発電所事故由来の放射性物質による人の健康や生活環境に及ぼす影響を速やかに低減させるために、汚染状況に応じて指定された地域において除染が進められてきました。面的な除染は、帰還困難区域を除いて2018年3月までに完了し、現在は帰還困難区域内の特定復興再生拠点区域で除染が行われています。また、除染で取り除いた土壌は、中間貯蔵施設への搬入が進められています。ここでは、除染がどのように進められてきたのか、その取り組みについてお伝えします。

●「除染」とは

除染とは、生活する空間において受ける放射線の量を減らすために、放射性物質を取り除いたり、土で覆ったりすることです。

●除染の進捗状況

除染は、2012年1月の放射性物質汚染対処特措法の全面施行に伴い、国が除染を行う除染特別地域と、市町村が行う汚染状況重点調査地域(市町村除染地域)において本格的に進められてきました。2018年3月19日までに、福島県を含む8県100市町村で帰還困難区域を除いて面的な除染が完了しました。また、2017年12月からは帰還困難区域内に設定された特定復興再生拠点区域において本格的に除染が始まりました。特定復興再生拠点区域とは、避難指示を解除し居住を可能とすることを目指した区域です。現在、特定復興再生拠点区域復興再生計画に沿って、除染と並行して家屋等の解体や道路、上下水道などのインフラ復旧の取り組みも行われています。

●除染の対象と方法

市町村が主体となって除染を行う「汚染状況重点調査地域(市町村除染地域)」では、住民と行政が協力し、住居や道路、学校など生活圏を優先して除染を進めてきました。

除染によって放射線量を効果的に低減するためには、あらかじめ放射線量が高い場所を特定するとともに、除染を実施する場所や状況等に応じて、適切な方法で除染することが必要です。

●除去土壌等の中間貯蔵施設への搬入状況

除染に伴い発生した除去土壌や廃棄物等は最終処分までの間、大熊町・双葉町に整備されている中間貯蔵施設で安全に集中的に管理・保管されます。中間貯蔵施設への搬入は2015年3月13日から開始されています。

県内に仮置きされている除去土壌等への搬入は、概ね2021年度までの完了を目指す方針が示されています。

「2015年3月から2020年3月までに搬入済みの除去土壌等の累計

 約668.3万㎡」

●空間線量率の推移

原発事故により上昇した県内の空間線量率は、一部の地域を除き、現在までに大幅に低減しています。これは、放射性物質の自然減衰や除染の効果、そしてウェザリング効果(風雨による放射性物質の移動等)によるものです。

福島市を例に見ると、震災前の平常時の空間線量率は0・04μ㏜/hでしたが、事故直後にこの数値は2.74μ㏜/hに上昇しました。しかし、放射性物質の自然減衰や除染の効果が確実に現れ、現在では原発事故前の空間線量率に近い数値にまで戻っています。

空間線量率とは

空間中のγ(ガンマ)線量を測定したもので、1時間当たりのマイクロシーベルトで表示される。

●除去土壌等の最終処分に向けた取り組み

福島県内で発生した除去土壌等については、中間貯蔵開始後30年以内に、県外で最終処分を完了するために必要な措置を講ずることが国の責務とされています。

また、県内の除去土壌等の最終処分量を低減するため、国が除去土壌等の減容・再利用等に取り組んでいます。

<4-2 風評の払拭>

東日本大震災および原子力発電所事故の発生により、福島県産農林水産物の市場価格は大きく落ち込み、観光客も大幅に減少するなど、あらゆる方面に深刻な影響が及びました。

この状況を踏まえ、行政や生産者による“食の安全・安心確保の取り組み”や“福島県の魅力の発信”など、風評の払拭に向けた取り組みが実施されています。ここでは、事故後、県内産業にどのような影響が生じたのか、代表的な事例を紹介するとともに、問題解決に向けて実施されている取り組みについてお伝えします。

●風評について

福島県では、根拠のはっきりしない情報が広まったり、安全性に関する情報が正しく消費者に伝わらなかったりするなどして、農林水産業や観光業を中心に、ものが売れない、人が来ないなどの影響が大きく広がり、現在も根強く残っています。

●観光客数の推移

福島県を訪れる観光客の数は、事故直後には年間約2000万人以上も減少しました。2018年は約5600万人まで回復しましたが、いまだ事故前の水準に戻っていません。

観光客の宿泊者数についても、全国的な伸びに追いついていないなど、依然として課題が残っています。

●教育旅行宿泊者数・学校数の推移

福島県は、歴史や伝統、自然の魅力などにより、多くの教育旅行を受け入れていましたが、原発事故により大きく落ち込み、回復は途上で依然厳しい状況にあります。教育旅行の回復に向けて、教育関係者向けモニターツアーや福島ならではの学びを提供する「ホープツーリズム」の推進など、誘致活動を積極的に展開しています。

●主な農産物の価格の推移

福島県の農林水産物は、原発事故以来、住民避難や被災による出荷量の減少、出荷制限、海外での輸入規制、さらに風評などにより大きな影響を受けています。これらの問題を解決するために、厳しい安全基準を用いた検査体制を敷いているにもかかわらず、正確な情報が伝わっておらずいまだに取扱量や価格が、事故前の水準に戻っていないものがあります。

・米

事故前、福島県産米は全国の全銘柄平均価格並みでしたが、事故後は同価格から大幅に下落しました。この状況に対し、県では世界で初めて放射性物質の全量全袋検査を実施するなど、安全・安心の取り組みや、品質・食味の良さを周知する活動を行ってきました。これらの対策により、中通り産コシヒカリ、ひとめぼれをはじめ県産米の販売価格は、全銘柄平均価格に近い水準まで回復しつつあります。しかし、事故前に全銘柄平均価格を上回っていた会津産コシヒカリは事故前の全銘柄中の価格のポジションからすると依然低い水準にとどまっています。

・もも

福島県の特産物であるももは、復興支援セール等の需要があり、2011年の総取扱量自体は増加した一方で、平均価格は、事故前の2010年の半値近くまで下落しました。その後、安全性のPR等の努力が功を奏し、2019年は事故前以上となっていますが、平均価格の全国との差は、事故前と比較すると、依然差が開いている状況です。

・肉用牛

肉用牛(和牛)の平均価格は、事故後、大幅に下落しました。その後、牛の放射性物質検査や安全性のPR等の取り組みを進めていますが、全国平均価格との差は事故前の状況に戻っていません。

<4-3 長期避難への対応>

長期避難に伴う課題は、その期間の長さだけではなく、経済的負担、その後の生活拠点、子育て、心身の健康、地域・家族の繋がりなど複合的で深刻です。帰還環境の整備や避難先での生活の安定に向けて、国、自治体、また住民による取り組みが段階的に進められています。さまざまな課題の解決には、総合的かつ継続的な取り組みが必要です。

・応急仮設住宅

自然災害などにより、住宅を失った被災者や原子力災害による避難者に対して、行政が建設し一時的に供与する応急的な住宅のことです。東日本大震災では迅速かつ大量に供給するため、プレハブに加えて県内事業者による木造仮設住宅も数多く建設されました。

・借上げ住宅

行政が民間賃貸住宅を借り上げて、被災者や避難者に一時的に供与する住宅のことです。東日本大震災では県内外に避難した多くの方に供与されました。

・災害(復興)公営住宅

地震・津波による被災者や原子力災害による避難者の居住の安定を図るため、県と市町村が「地震・津波被災者向け」、「原発避難者向け」、「帰還者向け」の災害(復興)公営住宅を整備しています。

●被災者向け住宅の状況

東日本大震災および原子力発電所事故直後には、多くの人が、学校や公民館等の避難所で生活を送り、その後、被災者等は順次仮設住宅に移りました。県内では2011年3月から応急仮設住宅の建設と借上げ住宅の供与が開始され、ピーク時の2012年4月には合わせて約40000戸が供給されました。

また、2014年からは地震・津波による被災者や原子力災害による避難者の居住の安定を図るため、災害(復興)公営住宅が整備されています。

●県内人口の推移

福島県内の人口は1970年代以降、首都圏からのUターンや第二次ベビーブームなどによりしばらく増加が続きましたが、1998年のピーク時以降、自然減・社会減により年々減少幅が拡大傾向にありました。そして、2011年に発生した震災および原発事故に伴う県外避難などにより、同年7月には1978年以来33年ぶりに200万人を割り込み、1997400人となりました。その後、少子高齢化や県外への人口流出が一層進んだことから、2016年11月には1899486人と戦後初めて190万人を割り込み、以降も減少傾向が続いています。

●避難地域の生活環境の整備状況

原発事故により避難を余儀なくされた地域においては、避難指示の解除に伴い、段階的に買い物、医療・介護、学校などの生活環境の整備が進められています。徐々にではありますが生活環境も整ってきており、避難した住民の帰還促進、さらには新たな企業や人材の呼び込みなどを図っています。

●避難者数の推移

原発事故後、福島県内では避難指示区域が設定され、多くの県民が避難生活を余儀なくされましたが、徐々に日常生活に必須な鉄道などのインフラの復旧や、医療・介護・商業などの生活関連サービスの再開、除染作業が進み、避難指示が段階的に解除されています。

ふるさとへの帰還に向けた取り組みが進むのに伴い、福島県全体の避難者数は2012年のピーク時の約16万5千人から大幅に減少しています。しかし、いまだに多くの県民が避難生活を続けており、帰還や生活再建に向けて、国や自治体による取り組みが継続されています。

<4-4 健康に関する取り組み>

原子力発電所事故の発生以降、放射線の健康への影響や、避難生活の長期化による生活習慣の変化など、県民の健康に関して、新たな課題が発生しました。

ここでは県民の心身の健康を見守っていくための県民健康調査や、健康の維持・増進を図るために実施されている取り組みについてお伝えします。

●放射線の健康影響に関する調査結果

原発事故から3年目(2014年1月~3月)の調査では、住民の放射線に対する健康不安は高い状態でした。事故後9年目(2019年11月~2020年1月)の調査ではその割合は減ったものの、約1割の方はまだ不安を抱えていました。

この調査では、放射線の健康影響への強い不安には、事故の時の怖い思いや体験が関係しているのではないかと考えられており、専門家が放射線への不安に対応する時には、事故当時の気持ちを理解しながら行う必要があると報告されています。

●子どものこころの健康

震災および原発事故による、近親者や家財の喪失、恐怖体験、避難生活、放射線への不安等により、精神的苦痛や心的外傷を負った県民のこころやからだの健康状態と生活習慣などを正しく把握し、適切なケアを提供することを目的に、県民健康調査において「こころの健康度・生活習慣に関する調査」が行われています。

その中の、子どものこころの健康状態を測る調査で、支援が必要とされる4歳から6歳の子どもの割合は、2011年度には24.4%と、日本の被災していない一般人口を対象とした先行研究における同割合の9.5%を大きく上回りました。

●県民健康調査とは

福島県では、原発事故による放射性物質の拡散や避難等を踏まえ、県民の被ばく線量の評価を行うとともに、県民の健康状態を把握し、疾病の予防、早期発見、早期治療につなげ、将来にわたる県民の健康の維持・増進を図るため、「県民健康調査」を実施しています。

●子どもの外遊びからみた放射線に対する保護者の意識変化

自然減衰や除染の効果が現れ、空間線量率が低下してきたこと、また時が経つにつれて、県民の放射線に対する意識にも変化が見え始めました。

福島大学災害心理研究所が、福島市やいわき市で幼稚園児や小学生の子どもを持つ保護者を対象に行なった調査によれば、子どもに外遊びをさせるかとの問いに、2011年に「させない」と答えた人は66.7%でしたが、2015年には3.1%にまで減少しました。

ただし、外遊びを「させる」と答えた人の割合は、2015年の時点では他県を下回っており、調査報告では、回復までにはまだ時間がかかると考察されています。

●子どもの体力等の変化

原発事故後の屋外活動制限等により、運動の機会が失われたため、福島県の児童生徒は、震災前と比較して、体力が全国平均を下回ったり、肥満傾向児の出現率について、全国との差が大きくなったりするなど、深刻な健康課題が生じました。

↑ ④【長期化する原子力災害の影響エリアにおける展示文章は以上です。


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次回は、5番目の展示エリア【復興への挑戦】です。

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