【原発事故汚染水の海洋放出】これ以上海を汚さないで! ”海の日”に合わせて市民たちが反対の声

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 東京電力福島第一原発で生じている汚染水について、海洋放出に反対する市民たちは7月17日、福島県いわき市の海岸沿いで「海の日アクション」と題する集会とパレードを行いました。(文・写真/ウネリウネラ牧内昇平)


 真っ青な空。照りつける太陽。時折吹き寄せる潮風が少しだけ気分をリフレッシュさせてくれる――。そんな炎天下の7月17日午後1時すぎ、いわき市小名浜の水族館「アクアマリンふくしま」前に約300人の市民が集まりました。

 和太鼓やフォークバンドの演奏のあと、福島県内外から集まった十数人の市民が「海洋放出反対」のスピーチを行い、小名浜のまちを行進しました。パレードの写真と参加者たちのスピーチを組み合わせて紹介します。

「これ以上海を汚すな!市民会議」共同代表の織田千代さん

大切な海に思いを寄せる「海の日アクション」は2014年から、毎年の”海の日”にいわき市小名浜で行われています。原発事故によって否応なく広げられてしまった放射能、少しでもその影響を抑えようとして多くの人びとが長い間努力してようやくここまで来たのです。今再び人の手でこれを広げるということは決して許されないことだと思います。

 海洋に放出される水を国も東電も「処理水」と呼んでいて、「基準値以下に薄めて流すから問題ない」と言っています。それは、薄めないと流せないものであるということ。処理は完全にできていない「汚染水」だということです。放射能汚染の影響はすぐには明らかにならないのかもしれませんが、放出が行われたら間違いなく次の世代、その先までも、汚染された海を手渡すことになってしまいます。

 海は広く、大きく、数えきれない命のかたまりです。豊かな海の恵みに包まれている私たちの暮らしを決して忘れない。そして事故の後の数え切れない努力を無駄にしないためにも、今こそ声をそろえて「海洋放出をストップ」と叫びましょう。元気を出していきましょう!

「東京大学」名誉教授の鈴木譲さん

 現役時代は魚の免疫学研究に携わってきました。「海洋放出は低濃度だから問題ない」と政府、東電、IAEAは言います。本当でしょうか? 

 生物の研究をやっていると「こうなるはずと思っていても裏切られる」なんてことはごく日常的にあります。薄いトリチウムをずっと浴び続けたらどうなるのか、なんて誰も調べていません。ですから分からないのです。

 トリチウムは世界中の原発から流されていて、その施設の周囲では健康被害が起こっています。しかしトリチウムのほうからは説明がつかないから、「これはトリチウムが原因じゃないんだ」ということになっています。

 日本で一番大量に出しているのは九州電力の玄海原発です。福島は年間22兆ベクレルの予定ですが、玄海は1年間に100兆ベクレルです。地元の玄海町では白血病の比率が他のところと比べて5~6倍に増えているという話があります。こういう話から出発して「トリチウムって本当に大丈夫なのか?」と検査しなければいけないのに、「トリチウムのはずない」と言ってしまったら、これは議論になりません。想定外に白血病が増えたのであれば、そこから議論、研究をスタートさせなければいけないと思います。

 海洋放出で真っ先に影響を受けるのが海の生物です。しかし原発事故後の海の生物に関する体系的な研究はあまり行われていません。

私はいわき放射能市民測定室「たらちね」と連携して、福島沖の魚の内臓に異常がないかを調べています。今のところ、福島第一原発の周囲で獲った魚は腎臓などにおかしな点が見つかるかもしれないと思っています。これはまだ、本当にどういうことか解明できていないので詳しくはお話しできませんが、そういう異変は起こっている可能性があります。

 長期にわたる低線量被ばくはこういった事態を引き起こしている可能性が高いです。このうえ汚染水を流したら、とんでもないことが起こると私は思っています。このような行為は水産資源保護法に違反する犯罪行為です。

「小名浜機船底曳網漁協」理事の柳内孝之さん

 昨年の福島県の沿岸漁業の水揚げ量は5500トン、震災前と比較して2割程度です。まだ十分ではありませんが、事故後の操業再開時よりも確実に増加しています。それが今、大きな問題に直面しています。ALPS処理水の海洋放出には全国の漁業関係者が反対しています。

 国はALPS処理水に関する「(関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない、という)約束」を反故にしようとしています。一度信用をなくすと、正しいことを言っても信じてもらえなくなってしまいます。

 放出する水が安全なのであれば、福島の海に限定して放出する必要はありません。どこに放出しても問題ないはずです。しかし、福島の海にこだわっています。

 先日IAEA(国際原子力機関)は「国際的な安全基準に合致している」と報告しました。しかし、現在タンクにたまっている水のほとんどは安全基準を超えています。この先30年以上なんのトラブルもなく、確実に放射性物質を除去できるのでしょうか? 実際、廃炉は何年後に終わるのでしょうか? 不確実な点が多すぎます。

 IAEAはわれわれの産業の補償をしてくれません。地場の産業が廃れることになっては本末転倒ではないでしょうか?

 原発事故後に経験した国や東京電力による不正確な情報発信や対処の不手際、どこまで本当のことを言っているのか、何か隠しているのではないか、という不信感は多くの人々に少なからず今も残っています。

 海洋放出の他に方法があると考えている人はいるし、検討の余地は残っていると思います。漁業者は復興への妨げをやめてほしいと懇願しています。

「小名浜地区労働組合協議会」議長の田久祐一郎さん

 私も子どもをもつ父親です。2011年に生まれました。いまだにいわきの海で海水浴をさせてません。今後海洋放出されたら、せっかくいわき市に生まれて目の前に海があっても、二度と海水浴ができないのではないかという心配があります。

「関係者の理解なしには流さない」と言っていますが、われわれいわき市民の子どもたちだったり、福島の海を愛する福島県民、全国の方々だったりが「関係者」だと思います。

 子どもたちが平和で安心して暮らせる場所を築いていくのが私たち大人の責任だと思っています。

「新潟県津南町議会」町議の小木曽茂子氏さん

 津南町議会は6月16日に「汚染水を海に流すな」という意見書を可決しました。東電の原発立地県は福島、新潟です。それなのに福島の方々の反対を無視して汚染水を海に流すのは地元の軽視である。これは新潟にもつながる問題だということで、反対の意見書を提出しました。

 日本国憲法の前文には「いずれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならない」と書いてあります。海外の人々の懸念をこのままにして汚染水を流すことは国家として許されないのではないでしょうか。

 トリチウムはこれまで各国の原発からたれ流しにされ、青森・六ヶ所村の再処理工場でもどんどん流されようとしています。「トリチウムは無害である」という嘘の宣伝がなされてきたからこそ、世界の原発が稼働してきた。海洋放出の反対運動がこのことを暴いたのだと思っています。世界の原発を止めるためにも、使用済み燃料の再処理を止めるためにも、汚染水の海洋放出を止めなければならないと思います。

「これ以上海を汚すな!市民会議」共同代表の佐藤和良さん

 いま、国と東京電力は「汚染水」を「ALPS処理水」と名前を変えて、最終的には放射性核種がどのくらい流されるのか分からない状況で、漁業者はじめ住民やすべての国民、あるいは中国や韓国や太平洋諸島諸国の反対を押し切って、海洋放出しようとしています。

 8月15日に海水浴場が閉まった後、9月1日から底引き網漁業のシーズンに入る前、8月16日から31日のあいだにやろうという魂胆があるようです。こんなことは認められません!

 いったい誰の同意を得て流すのか? 誰の同意もないんです。数十億円の予算を使った安全PRをして、世論調査で「同意」の数字をじわじわ上げて、それで流すという汚い手を使っています。

 しかし私たち、12年前の3・11を経験した被害者がまたぞろ騙されるわけにはいかない! 流されてしまえば、私たち被害者が加害者にされてしまいます。こんなことがあってはならないと思います。

「海の日アクション」は、海洋放出に反対する2つの市民グループ「これ以上海を汚すな!市民会議」と「さようなら原発1000万人アクション実行委員会」の共催で行われました。


岸田首相の「海の日」メッセージ

 日本政府はこの夏にも放射性物質が含まれている汚染水を海に流す方針です。地元福島では多くの市民たちがこのことに反対し、その気持ちを世の中に伝えようと、「海の日」の猛暑の中でパレードを行いました。

 日本政府は、その代表者である岸田文雄首相は、この気持ちをどれくらい真剣に受け止めているでしょうか? 岸田首相は「海の日」を迎えるに当たってのメッセージというものを発表しました。

 令和5年の「海の日」を迎えるに当たり、心からお慶(よろこ)び申し上げます。四方を海に囲まれ、世界第6位の広大な管轄海域を有する我が国にとりまして、経済社会の存立と成長の基盤に「海」をいかしていくこと、そして、貴重な人類の存続基盤として「海」を継承していくことは、非常に重要であります。
 さて、政府は、去る4月28日、向こう5年間の海洋政策の指針となる「第4期海洋基本計画」を閣議決定しました。(中略)防衛力や海上法執行能力の強化など必要な施策を推進すること等により、我が国の領海等における国益の確保を図ります。(中略)
 最後に、海のもたらす恩恵に改めて感謝するとともに、海洋国家・日本、そして、世界のますますの平和と繁栄を願い、本年の「海の日」のメッセージとしたいと思います。ありがとうございました。
令和5年7月17日
内閣総理大臣・総合海洋政策本部長 岸田文雄

首相官邸ホームページ

 岸田首相のメッセージは「海洋放出」について一言も触れていませんでした。燃料デブリに触れた水を海に捨てることや、それに対して市民たちが怒りと不安をあらわにしていることは、首相にとって「取るに足らないこと」なのでしょうか?


皆さまのご意見を募集します

 海洋放出問題について、皆さまのご意見を募集します。長いものも短いものも、海洋放出を支持する声も反対する声もすべて歓迎です。お待ちしております。

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