日本政府は東京電力福島第一原発にたまる汚染水を海に流そうとしています。このことについて経済産業省が税金を使ってさまざまなPR事業を行っていることは以前紹介しました。
官製海洋放出PRなわけですが、報道機関がその片棒を担いでいることに対して、ウネリウネラは大きな違和感を抱いています。(文・写真/ウネリウネラ牧内昇平)
水産物の需要対策事業を受注
政府が海洋放出を決めた2021年、経産省は「海洋放出に伴う需要対策基金」をつくりました。基金に300億円をプールし、そのうち約30億円を広報事業(要するにPR)に使うと言っています。2022年度にどんな事業が行われたのか。表で紹介します。
事業名 | 予算の上限 | 公募期間 | 採択された企業名 |
廃炉・汚染水・処理水対策の理解醸成に向けた双方向のコミュニケーション機会創出等支援事業 | 2500万円 | 22年5月~6月 | JTB |
廃炉・汚染水・処理水対策に係るCM制作放送等事業 | 4300万円 | 22年5月~6月 | エフエム福島 |
被災地域における水産加工事業者を始めとする関係事業者等に対するALPS処理水の安全性等に関する理解醸成事業 | 8000万円 | 22年7月 | ユーメディア |
ALPS処理水の処分に伴う福島県及びその近隣県の水産物等の需要対策等事業 | 2億5千万円 | 22年6月~7月 | 読売新聞東京本社 |
ALPS処理水に係る国民理解醸成活動等事業 | 12億円 | 22年7月 | 電通 |
ALPS処理水による風評影響調査事業 | 5千万円 | 22年7月~8月 | 流通経済研究所 |
ALPS処理水並びに福島県及びその近隣県の水産物の安全性等に関する理解醸成に向けた出前食育活動等事業 | 1億円 | 22年9月 | 博報堂 |
三陸・常磐地域の水産品等の消費拡大等のための枠組みの構築・運営事業 | 8千万円 | 22年10月~11月 | ジェイアール東日本企画 |
廃炉・汚染水・処理水対策に係る若年層向け理解醸成事業 | 4400万円 | 22年10月~11月 | 博報堂 |
廃炉・汚染水・処理水対策に係る広報コンテンツ制作事業 | 1950万円 | 23年1月~2月 | 読売広告社 |
表の上から4番目に「福島県及びその近隣県の水産物の需要対策事業」があります。2022年7月に読売新聞東京本社が請け負うことが公表されました。予算の上限は2億5千万円です。
海洋放出需要対策基金ウェブサイトのスクリーンショット
具体的に何をしたのか。経産省はウェブサイトで海洋放出PRの事例を紹介しています。その中にこういうものがありました。
この「ごひいき!三陸常磐キャンペーン」が「水産物の需要対策事業」の中身です。
東京ドームで行われたプロ野球のオープン戦でイベントを行い、その様子を読売新聞朝刊の全面広告で伝えたといいます。
新聞記事でも海洋放出PRを展開
この「ごひいき!三陸常磐キャンペーン」ですが、実は広告だけではなく一般の記事としても読売新聞に紹介されていました。
三陸・常磐 海の幸集結
経済産業省が宮城県や福島県の漁協などと協力して実施する「ごひいき!三陸常磐キャンペーン」が1日、よみうりランド(東京都稲城市、川崎市)で始まった。三陸・常磐エリアの海の幸をPRするキャンペーンの第1弾。31日までの期間中、園内の飲食店で「常磐ものの魚カツカレー」「福島りんごフラッペ」などのメニューが楽しめる。(以下略)
2022年10月2日付読売新聞朝刊28ページの記事
記事中のイベントの紹介の仕方が気になりました。「経済産業省が宮城県や福島県の漁協などと協力して実施する『ごひいき!三陸常磐キャンペーン』が~~」と書いていますが、そもそもこの事業を受注しているのは読売新聞東京本社です。記事はそのことをあえて書いてません。
今年も2億5千万円で受注
この「ごひいき!三陸常磐キャンペーン」はこれからも続きます。経産省は今年3月、2023年度の「福島県及びその近隣県の水産物の需要対策事業」を公募しました。公募時の事業内容にはこう書いてありました。
予算の上限は前年と同じ2億5千万円。受注したのは同じく読売新聞東京本社でした。
海洋放出について読売新聞は社説でこのように書いています。
処理水海洋放出 国際社会に安全性を訴えよ(2021年4月25日)
処理水海洋放出 風評被害対策に全力を尽くせ(2021年8月31日)
処理水放出了承 安全性周知へ情報発信強めよ(2022年5月21日)
しかし、政府のPR事業を受注して数億円規模の売り上げを出している会社の社説に説得力はあるでしょうか。
読売新聞はやや異例ですが、テレビCMや新聞広告を通じた政府の海洋放出PRに乗っかって利益を得ているという点では、ほかのマスメディアも同じです。
現場にいる個々の記者はそんなことに頓着せず取材にあたっているのだろうと思います(少なくともそう思いたいです)。が、そうしたCMや広告に接する視聴者・読者の立場からすれば、このメディアは「お客様」(政府)がやろうとしている海洋放出を正当にウォッチできるのか、という疑問は出てきて当然です。
報道機関としての矜持があるならば、社として海洋放出に関する経産省のCM、広告はすべて断ったほうがいいと思います。
今年度の需要対策基金事業
2023年度の「海洋放出に伴う需要対策基金」事業で今分かっているものを表にまとめます。
事業名 | 予算の上限 | 公募期間 | 採択された企業名 |
「魅力発見!三陸・常磐ものネットワーク」事務局運営事業 | 1億7千万円 | 23年3月 | ジェイアール東日本企画 |
令和5年度被災地域における水産加工事業者を始めとする関係事業者等に対するALPS処理水の安全性等に関する理解醸成事業 | 7千万円 | 23年3月~4月 | ユーメディア |
ALPS処理水に係る国民理解醸成活動等事業(令和5年度) | 2億4500万円 | 23年3月~4月 | 読売広告社 |
ALPS処理水の処分に伴う福島県及びその近隣県の水産物等の需要対策等事業(令和5年度) | 2億5千万円 | 23年3月~4月 | 読売新聞東京本社 |
廃炉・汚染水・処理水対策の理解醸成に向けた双方向のコミュニケーション機会創出等支援事業(令和5年度) | 2500万円 | 23年3月~4月 | JTB |
ALPS処理水による風評影響調査事業(令和5年度) | 4500万円 | 23年5月 | 未定 |
昨年度中にテレビCMを流した電通と、小中学生向け「出前食育事業」などをやっていた博報堂が受注していません。なお、両社は東京五輪・パラリンピックをめぐる談合事件で起訴されたため、経済産業省による事業の指名停止処分を受けています。
一方で、博報堂DYホールディングス傘下の読売広告社は「国民理解醸成事業」を受注しており、五輪談合事件をきっかけとした指名停止処分も形骸化している感があります。
皆さんの意見を募集します
引き続き、読者の皆さんからのご意見の投稿を募集しています。今回は以上のような内容の記事ですから、報道に携わる方々からのご意見も(当然のことながら異論、反論も)お待ちしています。
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