国を挙げて原子力を守り育てる「GX法案」(GX脱炭素電源法案、原発推進束ね法案)について、福島原発事故の被害者や避難者たちから反対の声が上がっています。法案を成立させないこと、少なくとも福島県内で公聴会を開催すること、などを求めています。(ウネリウネラ・牧内昇平)
※この法案の内容については下の記事を読んでください。
原発事故被害者、避難者の団体が緊急声明
5月29日、「ひだんれん(原発事故被害者団体連絡会)」と「『避難の権利』を求める全国避難者の会」という2つの団体が共同でオンライン記者会見を行い、それぞれの緊急声明を発表しました。
【緊急声明】「GX脱炭素電源法案」を可決させてはならない
今、国会で採決されようとしている「GX 脱炭素電源法案」は、グリーントランスフォーメーションの名のもとに、実は国を挙げた原子力発電への大々的な回帰を打ち出すものです。(中略)
今回の法案には、「福島原発事故を真摯に反省し」という文言が見られますが、反省や教訓が活かされるどころかそれらを蔑ろにし、踏みにじるものです。私たち原発事故の被害者は、誰よりも原発事故の被害の甚大さ、悲惨さを知っています。もう二度と同じ事故を繰り返してほしくはありません。
ひだんれん緊急声明の一部
【緊急声明】国の安全を脅かすGX脱炭素電源法案は廃案し、原発事故被害と<今ここにある危機>を直視する真剣な議論を
故郷が帰還困難区域となった者、避難指示が解除されたものの今も帰還できない者、放射能汚染がありながら避難指示が出されなかった地域から避難した者、苦渋の決断として帰還した者など、それぞれに大きな喪失と苦しみを味わってきました。この法案は、福島原発事故の教訓を無効化し被害者を踏みにじるものです。
日本社会は、今ここにある3つの危機、すなわち、進行中の原子力災害と迫りくる次の巨大地震、および世界的な気候変動に直面しており、これらに対応して現世代および未来世代の安全を守らなければなりません。しかし本法案は、これらの危機への対応をむしろ阻害するものであり、私たちは、このような誤ったエネルギー政策転換を選択することに断固反対し、GX脱炭素電源法案の廃案を求めます。
「『避難の権利』を求める全国避難者の会」緊急声明の一部
「原子力基本法」大幅加筆の問題点
政府・与党が成立させようとしている法案の大きな問題点の一つ目が、「原子力利用の憲法」とも言われる原子力基本法の大幅加筆です。
この点について、原発事故後に福島県大熊町から新潟に避難した大賀あや子氏はオンライン記者会見でこのように話しました。
今回の法案は「国の責務」として原発推進を行うこと、原子力産業を手厚く支援していくことを詳細に書き込んでいます。しかし、私たち原発事故被害者は、原発事故の際の責任、「事故対応における国の責任」について書き入れていないことに、非常に驚きと怒りを感じています。
また、「立地地域や国民の原子力発電への信頼を確保し、その理解を得るために必要な取り組みや地域振興を行う」ともあります。これまで60年間やってきたことですが、それを原子力基本法に明記して、さらに予算などをつけていくのかと思うと、原発立地地域に暮らしていた者として、地域社会の分断などの社会的影響もさらに加速させるのではないかと危惧を抱いています。
大賀あや子氏
「老朽原発の運転延長は言語道断だ」
政府・与党案は看過できない問題が多々ありますが、その中でも重要なのは、「最長60年」という原発の運転期間のルールをなくそうとしていることです。
ひだんれんの緊急声明はこのように述べます。
老朽原発の運転期間の実質延長はあまりにも危険で言語道断です。古くなればなるほど劣化して危険が増すことは、誰にでもわかることです。複雑で放射能に汚染された原子炉のすべてを点検できるはずもありません。それを動かし続けようとすることは、再び事故を招くようなものです。そのような愚かな道へ進むべきではありません。
ひだんれん緊急声明の一部
老朽化した原発はなぜ危険なのか。国際環境NGO「FoEJapan」の説明を紹介します。
原子炉圧力容器が中性子を浴びてもろくなる現象が生じます。圧力容器の材料である鉄は、中性子を浴び続けることにより、粘り強さが低下し、もろくなります。非常時には、緊急用の炉心冷却装置が作動し、高温の原子炉に冷たい水が大量に注入されます。すると圧力容器の内側が急激に冷やされ、最悪の場合、圧力容器が破損する可能性があります。
電力会社の点検は万全から程遠いのが実態です。約1000万点にのぼる原発の部品をすべて点検できるわけではなく、点検漏れのリスクもあります。2004年には、美浜原発3号機(福井県)で、配管が経年劣化で破断し、熱水や蒸気が噴出して11人が死傷しました。この配管の破断箇所は、点検リストから漏れて一度も点検されていませんでした。
FoEJapanの資料「Q&A原発の運転期間の延長、ホントにいいの?」の一部
福島で公聴会を開くべきだ
次に、政府・与党がこの法案を作ったプロセスについてです。
政府は昨年7月、首相官邸で「GX実行会議」というものを始めました。昨年12月までに5回の会議を行い、今年2月10日に「GX基本方針」を閣議決定しました。法律案を国会に提出したのは2月28日のことでした。
「ひだんれん」の大河原さき氏(福島県三春町在住)はこのように話しています。
私たちが汚染水の海洋放出などに反対しているうちにどんどん進められてしまった印象です。国民が理解しないうちに進める、というやり方だったのではないでしょうか。政府が開催した説明会では、たくさんの参加者が反対意見を述べたのに、その意見は反映されませんでした。しかも、公聴会は福島では開催されていません。本当だったら、原発事故の被害の実態を見ながら審議しなくてはいけないはずです。国民をとても馬鹿にしたやり方だと思います。
大河原さき氏
経済産業省のホームページによると、政府は今年1月19日~3月1日にかけて、「GX基本方針」の説明会を全国10カ所で開催しました。しかしその説明会の半分以上は、2月10日に基本方針を閣議決定してからの開催です。2月28日に法案を国会に提出した後で開催されたケースもあります。
さらに重要なのは、原発事故被害の中心地である福島でこの説明会が開催されていないことです。仙台市とさいたま市では開催されていますが、福島では開催されていません。
「ひだんれん」の熊本美彌子氏(福島県田村市から東京に避難)はこのように話しています。
原発事故の被害者や避難者が意見を述べる機会がないことが、これまでの原発事故政策の混迷をもたらしていると思っています。福島で公聴会、説明会を開かないこと自体が、今度の法案のいかがわしさを如実に示していると思います。
熊本美彌子氏
「福島で公聴会を」国会にも要望書提出済み
29日に記者会見した市民団体とは別の動きですが、福島県内の団体や学識経験者たちも「福島で公聴会を開催すべき」という要望書を国会(参院経済産業委員会)に提出しています。
GX脱炭素電源法案に関する要望書
福島における地方公聴会の開催について原子力政策の大きな転換となるのにもかかわらず、法案の内容が十分周知され、国民の意見が聴取されているとはいいがたい状況です。
要望書に名を連ねた人:角田政志(脱原発福島県民会議 共同代表、以下同)、狩野光昭、猪狩守、斎藤富春(ふくしま復興共同センター代表委員)、鈴木浩(福島大学名誉教授、以下同)、伊藤昌太、山川充夫、千葉悦子、今野順夫
国会における政府答弁では、福島原発事故に対する真摯な反省が繰り返し引き合いにだされています。しかし、原発事故の被害を受け続けてきた福島県民にすら、法案に関する説明や意見聴取が行われていません。これは、被害者を置き去りにしていることにも等しく、大きな問題であると考えます。
貴経済産業委員会として、福島における公聴会を開催していただけますよう 強く要望いたします。
こういう状況で、政府・与党は法案を成立させてしまうのでしょうか…。
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