【汚染水海洋放出】経産省幹部とのやりとり

新着情報

 福島市内で5月8日、経済産業省資源エネルギー庁の木野正登氏の講演会が開かれました。木野氏は同省の「廃炉汚染水対策官」として、海洋放出について各地で説明を行っている人です。メディアにも頻繁に登場しますので、知っている読者の方も多いと思います。

 今回たまたま講演会が行われるとの情報を入手し、当日飛び込み参加しました。前半40分ほど木野氏から海洋放出についての説明があり、後半1時間30分ほどが参加者を交えた質疑応答、意見交換でした。筆者(ウネリ)は質疑応答の最後に発言の機会をもらいました。

 以下、木野氏とウネリとのやりとりを全文掲載します。


【経産省・木野正登氏との意見交換】

ウネリ:海洋放出の代替策についてですが、私のうしろの男性が「トリチウム分離技術の検討を国もすべきではないのか」とご指摘されていましたが、それへの木野さんのご回答として「国を信じられない人もいるので、IAEAなど第三者による確認を行っている」とおっしゃっていましたが、これはあくまで海洋放出の安全性についてのお話だったですよね?

木野氏:はい。

ウネリ:海洋放出以外の、分離や地中への埋設とか代替案の検討についてIAEAもしていて、海洋放出で行くという風に決めたと、そういう文脈ではないという理解でよろしいですよね?

木野氏:もちろんです。

ウネリ:分離とかそういうものに関してIAEAが決めている、判断を下しているという状況ではなくて、あくまでIAEAが出す包括報告書というのは、安全性の部分に関して、IAEAの基準に則っているかどうかを確認する、という理解でよろしいですよね。

木野氏:そうです。

ウネリ:海洋放出の代替案としてですが、太平洋諸島フォーラム(PIF)の専門家パネルというのがありまして、先日そこに参加されている専門家の方が、「コンクリートで固めて例えばイチエフ構内での建造物に使うとか、そういう方が海に流すよりもさらにリスクが減るんじゃないか」と言ってたんですけども(注1)、彼らは去年以降、いやもっと前からかもしれませんが、頻繁に日本にも来ているし、経産省とか東電とも話をしている訳ですよね? そういう中で、これまでにそういう提案を受けたりとか、それに対して回答されたりとか、そういうのはあったんでしょうか?

※注1)ここで紹介しているのはアルジュン・マクジャニ氏という米国在住の科学者の指摘。マクジャニ氏はPIF諸国が海洋放出の是非を検討するために招聘した科学者の一人。海洋放出に反対する市民グループ「これ以上海を汚すな!市民会議」が5月7日に開催したオンラインイベントで、「コンクリート固化案」を示していた。7日のイベントについては別途本サイトで紹介します。

木野氏:はいはい。そういう提案を受けたりとか、意見はいただいてますけども、その前にですね。コンクリートで固めるとか。以前、トリチウムのタスクフォースというのをやっていて、5通りの技術的な処分方法というのを検討しました。一つが海洋放出、もう一つが水蒸気放出。今おっしゃったコンクリートで固める案と、地中に処理水を埋めてしまうというものと、トリチウム水を酸素と水素に分けて水素放出するという、この5通りを検討したんです。簡単に言うと、コンクリートで固めて埋めてしまうとかって、今までやった経験がないんですね。やった経験がないというのはどういうことかというと、それをやるためにまず、安全の基準を作らないといけない。安全の基準を作るために、実験をしたりしなきゃいけないんですよ。安全基準を作るのは原子力規制委員会という原子力の規制をやっている委員会ですけども、そこが安全基準を作るための材料を提供したりして、要は数年とか十年単位で基準を作るためにかかってしまうんですね。ということで、やったことがない3つ(※地層注入、地下埋設、水素放出)の方法って、基準を作るためだけにまずものすごい時間がかかってしまう。要は、数年で解決しなければいけない問題に対応するための時間がとても足りない。ということで、タスクフォースの中でもこの3つについてはまず除外されました。残るのが、今までやった経験のある水蒸気放出と海洋放出。水蒸気か海洋かで、また委員会でもんで、結果的に委員会のほうで「海洋放出」ということで報告書ができあがった。という経緯です。

ウネリ:「やった経験がないものは基準を作らなきゃいけないからできない」。ということはそもそも、それだったら検討する意味があるのかという話になるかと個人的には思います。が、いずれにせよ、先週の段階で専門家がこのようなこと(※コンクリート固化案)をおっしゃっていると、日本政府とは違う立場の専門家がおっしゃっていると。当然彼らは彼らでこれまでの検討過程について説明を受けているんだろうし、自分たちで調べてもいるんだろうと思うんですけども、それでも言ってきている。そこのコミュニケーションを埋めないと、結局PIF(太平洋諸島フォーラム)の方々はまた違う意見を持つということになってしまうんじゃないですか?

木野氏:彼らがどこまで我々のタスクフォースとかを勉強してたかは分かりませんけども、くり返しになりますけど、今までやった経験がないことの検討はとても時間がかかるんです。それを待っている時間はもうないのですね。

ウネリ:そもそも今の「勉強」というおっしゃり方が。説明すべきは日本政府であって、PIFだったり太平洋の国々が調べなさいという話ではまずないとは思いますけども。

木野氏:うん。

ウネリ:ええ。彼らが彼らでそういうことを知らなかったとしたらそもそも日本政府の説明不足だということになると思いますし、仮にそういうことも知った上で代替案を提案しているのであれば、そこはもう少しコミュニケーションの余地があるのではないですか? それでもやれるかどうかということを。

木野氏:先方と日本政府がどこまでコミュニケーションをとってたかは私が今この場では分からないので、帰ったら聞いてみたいとは思いますけども、くり返しですけど、なかなか地中処分というのは難しい方法ですよね。

ウネリ:日本政府というか経産省の、検討状況というか検討結果としてはそういうことだというのは理解しているつもりなんですけども、恐らくそれが、現在反対だったり慎重だったりという意見を表明している国々、中国や韓国を含めてですね、などに伝わっていなければあまり意味がないのではないか。意味がないというか、伝えなければいけない責任というのは、彼らじゃなくて、日本政府にあるんじゃないのかという風に思います。

木野氏:はい。

講演会前半の様子。木野氏はトリチウムをピンポン玉、セシウムを野球のボールにたとえ、両者の放射能の強弱を説明した。

ウネリ:で、細かいのですが、14ページ(※木野氏が説明に使った資料)の「人および環境への放射線影響」というのは、ここに書いてある100万分の1~7万分の1とか、動植物は300万分の1~100万分の1とか。これは日本に向けた影響、日本について考えた場合ということなんでしょうか?

※注2)資料にはこう書いてあった。
人への影響評価結果は、自然放射線からの影響(日本平均:年間2.1ミリシーベルト/人)に対して約100万分の1~約7万分の1。動植物(扁平魚・褐藻類)への影響評価結果は、国際放射線防護委員会(ICRP)が提唱する基準値に対して約300万分の1~約100万分の1。(カニでは約3000万分の1~約1000万分の1)※処理水に含まれる放射性物質を測定した結果を基に試算。2023年2月東京電力申請。

木野氏:はい。いわゆる住民への影響なので、近隣に住まわれている住民という意味ですね。なので、日本、福島の住民への影響です。

ウネリ:そうすると、先程来、太平洋のことを言ってますけど、彼らは島国じゃないですか。そういうところだと水と接している具合が全然ちがう訳ですよね。しかも核実験とかもあって、非常にいろいろな形でこれまでにも人生を破壊されてきたわけですよね。そういう人たちに対して説明できるような、こういう「影響評価」は、これ(※資料の14ページ)は日本バージョンですけど、生活の仕方が違うから変わってくるんじゃないかと思うんですけど。ごめんなさい、話が長くなってしまっていますが。

木野氏:はい。ご承知の通り、放出するとすぐに拡散するじゃないですか。なので、太平洋の島嶼部の島国に対する影響はもう、ないです。なので、韓国なんかもよく、韓国に影響があると言っていますけど、福島エリアでもこれだけの影響ですから、はるか何百キロも離れた島国に対して、影響はないです。

ウネリ:太平洋の島国や中国、韓国に対しては、「影響は100%ありませんよ」というご説明をなさっているんでしょうか。

木野氏:この結果(※資料の14ページ)はもちろん説明していますので、もちろん韓国とか中国に対しては「影響はありませんよ」という説明はしています。島嶼部まで説明がいっているかどうかは、今あれですけども、IAEAの場でも説明はしていますので、そこに参加している国々はこういう評価は聞いていますし、我々の評価書という技術的なものも公開しています。なので、積極的に説明しているかと言われると、ちょっと分かりませんけども、少なくとも情報はすべて公開しております。

ウネリ:最後にすみませんが、もう一問。木野さんは大学でも原子力工学を勉強されていて、ずっと原子力を進めてきた立場でいらっしゃると先ほどうかがったんですけども、我々というか、私からすれば、専門家というかすごく知識のある方という風に見ております。現在は経産省のしかるべき立場として、今回の海洋放出方針に関しても、もちろん最終的には官邸レベルの判断だったと思いますが、十分関わってらっしゃった、むしろ一番関わってらっしゃった方だと…

木野氏:まあ私は現場の人間なので、政府の最終決定に関わっているというよりは…

ウネリ:ただ、道筋を作ってきた中にはいらっしゃるだろうと思うんですけれども。

木野氏:はい。

ウネリ:そういう木野さんだから質問するんですが、結局今回の海洋放出、30~40年にわたる海洋放出でですね、全く影響がない、未来永劫、私たちが生きている間だけとかではなくて、私の孫とかそういうレベルまで、未来永劫全く影響ありません、という風に自信をもって、職業人としての誇りをもって、言い切れるものなんでしょうか?

木野氏:はい。言えます。

ウネリ:それは言えるんですか?

木野氏:安全基準というのは人体への影響とか環境への影響がないレベルでちゃんと設定されているものなんですね。それを守っていれば影響はないんです。まあ影響がないと言うとちょっと語弊があるかもしれないけど、ゼロではないですけども、有意に、たとえば発がん、がんになるとか、そうい影響は絶対出ないレベルで、設定されているものなんですよ。だから、それを守ることで、私は、絶対影響が出ないと確信を持って言えます。それはもう、私も専門家でもありますから。

ウネリ:ありがとうございます。基準が守られているから。絶対影響がないと言う根拠は、木野さんの場合は、基準を十分守っているから。という話ですよね。ただそれは、ほんとにゼロかと言われたら、厳密な意味ではゼロではないと。

木野氏:そういうことです。

ウネリ:誠実なおっしゃり方をされていると思うんですけれども、そうなってくると、先ほど後ろの女性の方がご質問されたように、「要するにがまんしろという部分があるわけですよね」ということ。一般の感覚としてはそれはそう捉えてしまう訳ですよ。

木野氏:うーん…。

ウネリ:基準を超えたら、逆に言うと、そんなことをしてはいけないレベルなので。そうではないけれどもゼロとも言えないという、そういうグレーなレベルの中にあるということだと思うんですよ。それを受け入れる場合は、一般の人の常識で言えば、それは「がまん」ということになると思いますし、先ほどこちらの女性がおっしゃったように、「だからそんな我慢はこれ以上福島の人間がなんでしなくちゃいけないんだ」と思うのは、「それくらいだったら原発やめろ」という風に思うのが、かなり私もすごく共感してたんですけれども。そういう風に考えると思うんですよね。だから、海洋放出をもし進めるとするならば、どうしてもそれしか選択肢がないということなのであって、その中で、がまんを強いる部分もあるというところであって、いろいろPRされるのであれば、そういうPRの仕方をされたほうがいいんじゃないかなと。そうしないと、「がまんをさせられている」と思っている身としては、そのがまんを見えない形にされている上で、「安全なんです」ということだけ、「安全で流します」ということだけになってしまうので。

経産省はテレビCMなど様々な形で海洋放出をPRしている

ウネリ:むしろ、経産省の方々は、そういう我慢を強いてしまっているところをはっきりと書く。たとえば、ALPSで除去できないものの中でも、ヨウ素129は半減期が1570万年にもなる訳ですよね。わずか微量であってもそういう物が入っている訳じゃないですか。炭素14も5700年じゃないですか。その間は海の中に残るわけですよね。トリチウムとは全然半減期が違うと。ただそれは微量であると。そういうところを。新聞の折り込みとかをたくさんやってらっしゃるのであれば、むしろ積極的にマイナスの情報をたくさん載せて、マイナスの情報を知ってもらった上で、「これはがまんなんです。申し訳ないんです。でも、これしか廃炉を進めるためには選択肢がなくなってしまっている手詰まり状況なんです」ということを、「ごめんなさい」しながら、ちゃんと言った上で理解を得るということが本当の意味では必要なんじゃないかと思うんですけれども。すみません。長くなりました。

木野氏:がまんっていうこと……がまんっていうのはたぶん感情の問題なので、たぶん人それぞれ違うとは思うんですよね。なので我々としては、「影響はゼロではないですよ。ただし、他のものと比べても全然レベルは低いですよ。だからむしろ、「ちゃんと安全は守ってます」ということを言いたいんですね。それを人によっては、「なんでそんながまんをしなきゃいけないんだ」っていう感情は、あるとは思います。なので、我々はしっかり、「安全は守れますよ」っていうのを皆さんにご理解いただきたい。という趣旨なんですね。

ウネリ:たぶんその、少しだけ認識が違うのは、そもそも原発事故はなぜ起きたというのは、当然東電の責任ですが、その原子力政策を進めてきたのは国であると。ということを皆さん、というか私は少なくともそう思っております。そこはやっぱり。法的責任はなかったとしても加害側という風に位置付けられてもおかしくないと思います。

木野氏:はい。

ウネリ:そういう人たちが、「基準は満たしているから。ゼロではないけれども、がまんというのは人の捉えようの問題だ」と言ってもですね。それはやっぱり、がまんさせられている人からしてみれば、原発事故の被害者だと思っている人たちからしてみれば、それはちょっと話が、虫がよすぎると、思うんじゃないでしょうか?

木野氏:おっしゃりたいことをはとてもよく分かります。ただ、何と言ったらいいんでしょうね。もちろんこの事故は東京電力や政府の責任ではありますけども、うーん……、やっぱり我々としては、この海洋放出を進めることが廃炉を進めるために避けては通れない道なんですね。なので、廃炉を進めるために、これを進めさせていただかないといけないと思っています。なのでそこを、何と言うんですかね……分かっていただくしかないんでしょうけど、感情的に割り切れないと思っている方もたくさんいるのも分かった上で、我々としてはそれを進めさせていただきたい、という気持ちです。

ウネリ:これは質問という形ではないのですけども、もしそういう風におっしゃるのであれば、「やはり理解していただかなければならない」と言うのであれば、最初にはやっぱりその、特に福島の方々に対して、もっと「お詫び」とか、そういうものがあるのが先なんじゃないかと思うんですよね。今日のお話もそうですし、西村大臣の動画とかもそうですが。まあ東電は会見の最初にちょっと謝ったりしますけれども。こういう会が開かれて説明をするとなった場合に、理路整然と、「こうだから基準を満たしています」という話の前段階として、政府の人間としては、私はすみません福島にずっといた訳ではないのであれなんですけど、当時から福島にいらっしゃった方々、ご家族がいらっしゃった方々に対して、「お詫び」とか。新聞とかテレビCMとかやる場合であっても、「こうだから安全です」と言う前に、まずはそういう「申し訳ない」というメッセージが、「それでもやらせてください」というメッセージが、必要なんじゃないかという風に思います。

木野氏:分かりました。あのちょっとそこは、持ち帰らせてください。はい。


皆さまのご意見を募集します

 以上が木野氏と筆者とのやりとりです。2人のやりとりに対して意見、反論など多々あると思います。「せっかく会ったのならこういうことを聞けばよかった」というアドバイスも勝手ながら期待しています。ぜひご意見を寄せてください。

    コメント

    タイトルとURLをコピーしました