【新潟市水道局職員自死事件】市議会も問題視していた

 新潟市水道局に勤めていた男性(当時38)が2007年5月、《いじめが続く以上生きていけない》と書きのこし、命を絶ちました。男性の死は公務災害と認定されたにもかかわらず、水道局は身内による「内部調査」で「いじめ・ハラスメントはなかった」と断定し、遺族への損害賠償を拒んでいます。 

 この件については新潟市議会の議員たちも問題視し、議会で追及を重ねていました。その内容を紹介します。

※トップ写真は新潟市議会ウェブサイトのスクリーンショット画像です。


2019年6月@定例会本会議

 この事件が新潟市議会で初めて取り上げられたのは、2019年6月20日の定例会本会議でした。青木学議員による一般質問です。

青木議員 公務災害認定を受けた極めて重い案件であることを踏まえれば,透明性,客観性をしっかりと担保するという点から,第三者による調査方法をとるべきだったのではないでしょうか。内部調査という方法をとったことについては,できるだけ表沙汰にしたくないという意向が働いたのではないかと受けとめられても仕方ありません。ハラスメントは人権侵害との社会的認識が確立しつつある今日,透明性も客観性も担保されない内部調査によって,パワハラの事実はなかったとの主張を続けるのが今の水道局の組織風土であるとするなら,それは改めてもらわなければなりません。水道局は,今もこの内部調査という方法をとったことを妥当だったと考えているのでしょうか,お聞かせください。

 青木氏の指摘に対して、水道局トップの佐藤隆司・水道事業管理者はこのように答弁しました。

佐藤氏(水道事業管理者) 初めに,平成19年5月,それまで17年余りにわたり水道事業に尽力してきた職員が在職中に亡くなったことに対し,改めて哀悼の意を表します。本内部調査は,公務災害と認定された事案について,事業主として事実を確認し,確実な検証を行うために実施したものです。まず,実施に当たっては,聞き取り調査対象の職員に対し,調査の目的は,本事案について水道局として適切な対応を講じるためのものであり,発言内容により不利益な取り扱いを受けることはないことを十分に説明し,理解を得た上で実施しました。また,聞き取りは役職者が行いましたが,聞き取り対象の職員と所属ラインが重ならないよう人選を行い,客観的なやりとりができるよう配慮しました
 調査は十分な配慮を行った上で実施していますので,客観性は担保されたものであったと考えています。また,第三者による調査方法については,当時,水道局内部でもその手法について検討を行いましたが,内部調査においても調査の公平性,客観性は十分に担保できるものと判断し,内部調査を選択したところです。
 なお,本事案は現在,民事訴訟の場で御遺族側と係争中であり,当局内部調査の客観性,透明性が確保されていたかどうかも含め,司法の場において判断がなされるものと考えています。


内部調査の客観性・公平性は?

 水道事業管理者の答弁には首をかしげざるを得ません。①発言内容により不利益な取り扱いを受けることはないと説明した。②聞き取りは役職者が行ったが,所属ラインが重ならないよう人選した。以上2点が内部調査の公平性、客観性の担保のようですが、この説明で納得いく人はそれほど多くないと思います。「第三者による調査」も検討したと言っていますが、なぜその選択肢は採用されなかったのか。佐藤氏は理由を述べていません。

 青木氏の追及は続きます。

青木議員 佐藤水道事業管理者は,この4月に就任したばかりなわけですが,例えば今,学校でいじめがあって自殺があった場合,教育委員会が入って調査をしますか。仮にそういうことをしたら,県民,市民が納得しますか。余りにも今の答弁,水道局の感覚は,今の社会のハラスメントに対する捉え方が欠けていると。その程度の認識の場合,本当に水道局の組織マネジメントは大丈夫なのかと,市民としては信用を失いかねないような姿勢だと思います。大事な職員が亡くなった,しかもそれは公務災害として認定されている,その事実を本当に重く受けとめて,事実を市民に明らかにするという姿勢があれば,内部調査なんていう方法ではなくて,きちんと第三者によって,誰が見てもこれであれば納得してもらえるという手法をとるべきではないですか。そういう思いに至りませんか。お願いします。

 しかし、水道局側からは十分な説明がありませんでした。

佐藤氏(水道事業管理者) 内部調査という形になったわけですが,その方法については,内部で第三者という手法も検討した上で,内部でも客観性,透明性を確保できるものと,その時点では判断したものです。


市長の答弁

 続いて中山均議員が議場の発言席に入りました。中山氏は冒頭で以下のように話し、質問をはじめました。

中山議員 先ほど青木学議員も取り上げられましたが,水道局でのパワハラにより自殺された職員の無念に思いをはせ,御冥福をお祈りしながら質問したいと思います。この議場にも,その職員のお連れ合いの方が傍聴に来ています。その職員の遺影を掲げながら聞いていると伺っていますので,誠意のある答弁をお願いしたいと思います

 水道局は遺族に対して、公務災害の認定資料(陳述書など)の提出を求めました。その資料の入手直後に「内部調査」を行い、いじめ・ハラスメントを否定しました。このプロセスを中山氏は問題視しました。

中山議員 遺族側が善意で提出した資料に基づいて,水道局による個別の聞き取り調査が,わずか6日間で行われました。先ほど青木学議員がその不当性を言ったのは,本当にそのとおりです。裁決書で審査された証言が,この不当な内部調査を通して覆された,結果的に。この人たちの証言が全部覆されたこと自体,極めて不自然だと言わなければなりません。そう考えれば,そもそも証言を覆す目的でこれらの資料を入手したと言わざるを得ないし,こうした事実の経過は,逆に水道局側の対応の不当性をうかがわせるものだということをここで強く指摘しておきたいと思います。
(中略) その否定した根拠,これは青木学議員も聞かれましたが,改めて,これは公正,正当な調査によるものだったのか。先ほど,所属ラインが違うとかとおっしゃっていましたが,そんなことが正当性の理由になりますか。水道局内部だって異動はあるし,水道局のほかの所属ラインだって上司は上司。そういう人たちが個別に聞き取りをして,それが圧力のないような調査になりますか。しかも被害者側には,極めて圧力を感じたとか,そういった声が実際に聴取を受けた職員から寄せられています。しかし,裁判でそういうことまでは証言できない。こういうことに例えるのは少し不謹慎かもしれませんが,よくテレビであるような司法物の,裁判物のドラマのような展開ですよね。一旦みんな証言しているんですよ,実名入りで。それを全部ひっくり返されている。このこと自体が極めて不自然だと言わざるを得ません。

 佐藤隆司・水道事業管理者の答弁は先ほどとほぼ同じです。「通り一遍」の回答。中山氏は市長の中原八一氏に見解を求めました。

中山議員 市長としてこの案件をどう考えるか。十分な答弁は伺えないかもしれませんが,改めて伺います。

中原市長 初めに,17年余にわたり水道事業に尽力してきた職員が在職中に亡くなったことに対して,改めて哀悼の意を表します。本事案については,しっかり事実確認を行い,適切に対応するよう水道事業管理者に指示してきたところですが,係争中のことであり,コメントは差し控えたいと考えます。

 市長の答弁はこれだけでした。


2019年6月@環境建設常任委員会

 本会議の1週間後の2019年6月27日、こんどは「環境建設常任委員会」で、この事件の協議会が開かれました。議員たちの質問に対し、水道局総務課長の八代等氏が答えました。

 五十嵐完二議員が指摘したのは、「公務災害認定という結果を受け入れるべきだ」という点でした。地方公務員災害補償基金の新潟市支部審査会という公的な機関によって公務災害が認められていました。その結果をたやすく否定してしまっては「公務災害」という制度自体が崩壊してしまう。五十嵐氏はそう指摘したあと、水道局に対してこう呼びかけました。

五十嵐議員 市長に対する信頼もなくなってきます。これは,水道局だけではなくて,本庁にも市民病院にも消防にも教育委員会にも全部波及するわけです。私は当時メンツみたいな話でボタンのかけ違いあったと思うのです。それは,市長がかわり,水道局長も何代かかわっているかもしれませんが,これを機に是正することが,新潟市がまともな道を進む道だと思っているのです。今の課長にその辺のことを求めるのはなかなか酷かもしれませんが,これまでのスタンスを是正すべきだと私は思っているのです。つまり(公務災害の)裁決書を認める立場で,あとの損害賠償の高い,低いという交渉はあり得る。しかし,この事実を認めないとこの制度自身がおかしなことになってしまうと思いますが,何かありますか。是正しなければだめです。こんなことやっているの新潟市ぐらいですよ。ほかの自治体にも顔向けできないぐらいの状況です。

 これに対する水道局側の返答は、「公務災害を決めた基金審査会の場で、水道局には十分に反論する機会がなかった」というものでした。


議員有志による申し入れ書

 環境建設委員会から約1週間後の2019年7月3日、新潟市議会の議員有志たちは水道局に書面で申し入れを行いました。

「水道局職員のパワハラ自死問題について誠実な対応を求める申し入れ」


標記問題について、私たちは本市の議員として、重大な関心をもって見守っています。
水道局側がパワハラを認めない根拠は唯一、2012年9月におこなわれた「内部調査」のみです。しかし、一般的に「内部調査」の客観性や公正性が担保できないことは、各地で頻発する体罰・いじめや企業の不祥事等の経過を見ても明らかであり、社会的常識だと言わなければなりません。
「内部調査」に対する批判について、水道局側は「批判があるのは承知しているが、その点も含めて司法の場で判断されると考える」としていますが、これは批判に自ら向き合うことなく、責任を回避しようとするものだと言わなければなりません。
私たちは、裁判の推移や判決に対して予断を持つつもりはありませんが、(中略)「内部調査」でパワハラが確認できなかったこと自体は事実であったとしても、一連の客観的事実や裁決書の裁決、ご遺族の訴えに対し、社会的に説明可能な形で、真摯かつ誠実に対応することを求めるとともに、長期化しているこの問題を早期に解決し、職場環境のよりよい改善にも一層努力されることを要望します。

新潟市議会議員有志による申し入れ書

 この書面に名を連ねた議員は20人。定数が51人ですから、半数近い議員がこの問題に関心をもち、当局に是正を求めたのでした。


2019年12月@定例会本会議

 さらに約半年後、2019年12月10日の本会議です。この事件について粘り強く追及を続けている中山均議員の質問には、興味深い点が含まれていました。

中山議員 議会の有志議員申し入れの際の水道事業管理者の「現在であれば第三者委員会を設ける」との回答,これ自体は積極的なものだと評価しますが,これは内部調査の限界を認めたものではないか伺います。

 これには驚きました。議員有志の申し入れに対して、佐藤隆司・水道事業管理者は「現在であれば第三者委員会を設ける事案だ」との見解を示したようです。佐藤氏は中山議員の質問に対しても、同様の答弁をしました。

佐藤氏(水道事業管理者) 内部調査については,当時の水道局として公正かつ客観的に行われたものですが,現在においては,第三者委員会を設置したほうが,より客観性を担保できるだろうと考えたところです。


 この答弁をどう受け止めればいいのか……。今からでも第三者委員会の設置は可能です。そのほうが客観性を担保できると現職の水道局トップが考えるなら、そうすればいいと筆者は考えます。

 議会でこれだけ問題視され、多くの人が納得のいく答弁ができず、挙句の果てには「第三者委員会のほうが客観性が担保される」と認めるならば、水道局は対応の過ちを認めて調査をやり直すべきです。それをしない理由が筆者には分かりません。水道局のかたくなな姿勢が遺族をさらに苦しめていると思います。

※記事に紹介した質疑は市議会ウェブサイト内の会議録から引用しました。下線は筆者が加えました。

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