寄稿エッセイ・小学校の先生から⑤

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ウネリ旧知の小学校教諭、有馬佑介さんの寄稿です。

有馬さんは東京都国立市にある桐朋学園小学校の2年生のクラスを担任する先生です。前回の投稿は8月28日、コロナが広がる中で小学校の2学期が始まることへの葛藤を正直に書いてくれました。記事はこちら↓

今回は、運動会前日の出来事を書いてくれました。ぜひお読みください。


【有馬佑介さんからいただいた文章】

僕のクラスでは、「今日のひとこと」という活動をしている。

活動というには小さなことなんだけれど、日直が翌朝のクラスメイトに向けて、ひとことを贈るという活動だ。

小さなホワイトボードに書かれたひとことは、黒板の真ん中に掲示され、翌朝登校した子たちが目にすることになる。

普段は書く内容は日直に任せきりの活動なんだけれど、今日は少し特別だった。

なぜなら運動会前日だったから。

「明日は運動会だから、なんかそういうこと書いてくれるとうれしいな。」

そんな抽象的な注文を出された今日の日直はAさん。

とてもまじめで、声の小さい目立つことはしない、そしてとっても優しい子。僕の投げかけに少し困った笑顔で応えていた。

子どもたちが帰ってから、Aさんが書いたひとことを見てみる。そこにはこう書かれていた。

「今日はうんどう会。めざせ ひきわけ」

それを読んだとき、頭で考えるより先に、胸がいっぱいになった。

うちの学校の運動会は、赤白対抗で行われる。

それぞれのクラスで半分ずつ赤と白に別れるから、クラスの半分は勝って、半分は負けることになる。

きっと彼女はうんと考えて、これを書いた。

クラスの誰にも勝ってほしくて、誰にも負けてほしくなくて、勝者と敗者にクラスを分けたくなくて、それでこれを書いた。

そして、それはたぶん本心だ。

人の目を気にする性格じゃないし、誰かの正解を伺う子でもない。

「めざせ ひきわけ」

賛否のある言葉かなとも思う。

1年に1回の運動会だ。その日くらいはしっかり勝敗をつけたっていいだろう。

そんな思いは僕にもある。

でも、彼女はそうは考えなかった。

そこにいるみんなの喜びを考えた。

同じ教室で勝ち負けがついたときの、その場の自分の気持ちを考えた。

そしてこの言葉が生まれた。

僕には書けない言葉で、でも彼女には生みだせた言葉で、それがとても美しくて、30以上も年が離れた彼女に対して畏敬の念を抱かずにはいられない。

子どもを伸ばすなんて、おこがましい。

僕にできることは、できるだけもともと備わっている美しいものを損なわないことなんじゃないか。

そんなことを思う。

この仕事をしていて、ごくたまにこういう出来事に出会うことがあって、僕はそれで、大げさに聞こえると思うけれど、人間に対して肯定的な気持ちになれる。

人間というものを信じていいんじゃないかって気持ちになる。

胸がいっぱいになる。


【ウネリウネラから一言】

いい話ですね。ほっこりしました。Aさんの言葉に心から共感。それを読んだ子どもたちがどんな反応だったのかな、などと思いを巡らせました。

有馬さん、今回もご寄稿ありがとうございました!

コメント

  1. 本田 宏 より:

     嬉しい情報有難うございます。

     2017年、なぜデンマークでは幸福度が高いのか、視察旅行に参加しました時のことを思い出しました。

     デンマークでは小学校は一クラス28人以下になるように決まっているようでしたが、見学した小学校は一クラス20人でした。
     クラスの後ろで授業を見学していた時のことです。先生が生徒に「一番大切なことは何ですか」と聞いてくれたのです。

     するち子どもたちの答えはは「助けあうこと」でした。

     驚きました。そして心からデンマークの幸福度が高い理由を納得できました。

     デンマークでは「助けあうこと」と考える子どもが成長して政治家を目指し、80%以上の国民が投票しています。こうして高福祉高負担で幸福度が高い国が支えられているのです。

     当時は日本の子どもたちは「一番大切なことは」と聞かれてはたして何と答えるのか、心配していましたが、現在、多くの芸能人が「投票します」と宣言した映像が話題になっています。

     その中では、次の世代のためにというフレーズが何度も出てきます。

     日本を少しでも、安心してくらせる社会にするために。私も自分にできることを精一杯がんばろう、そう勇気づけられた記事でした。
     

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